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1.16.原因


 二匹ですいすいと上流へと向かい始めた。

 やはり俊敏の低い零漸は泳ぐ速度が非常に遅いため、俺が速度を合わせている。


 技能を確認してからまた数時間が経っているのだが、やはり獲物は姿を現さない。

 やはりこの川には何かがあるはずだ。

 でなければこんなきれいな川にここまで魚がいないのはおかしい。


『応錬の兄貴。何処までいくんですか?』

『あ~……いやなに。獲物がいなければ経験値も手に入りにくいからな。狩りをしておきたいのだが……こうも魚がいないんじゃどうしようもない。こんなに魚がいないのはおかしいと思うし何か原因があるんじゃねぇかなって思ってとりあえず上流に向かってるんだよ』

『確かに何もいないですねー』


 先ほどまで零漸は俺のことをどう呼ぶか悩みに悩んでいた。

 応錬さんやら応錬の兄さんやら応錬殿やら応錬様やら……まぁ出てくる出てくる。

 そして結局『応錬の兄貴』に落ち着いた。


 俺としても様付けとか殿付けとかは勘弁してもらいたい。

 呼び方なんてそれらしければなんでもよかったが、零漸はどうしても何か付け足したいようだった

 まぁ兄貴と呼ばれて悪い気はしないのでこれでお願いすることにした。


 うむ、変わったやつだ。


『あ、零漸は何回進化したんだ?』

『進化ですか? 一回したきりですよ』

『おいおい……それじゃ俺が先に陸に上がっちまうぞ? ついてきたいんだったら頑張って進化しないとな』

『わあぁ……俺一か月何してたんすかね……お、俺頑張ります! 絶対に応錬の兄貴についていきますからね!』

『その調子で頼むよ』


 俺が進化四回目。

 これだけ進化回数が違うのにまだ陸に上がるビジョンが見えてこない。

 陸に上がるためにはまだまだ進化をしていかなければならなさそうだ。先は長い。


 零漸には強くなってもらわなければならないし、俺だって強くならなければならない。

 最終進化先がどうとかいう前に、まず自分の身を守れるようになっておかなければ野垂れ死にである。

 そのことを零漸に話すと急にやる気を出したようで、こうして一緒に探索と狩りを同時進行でやっている。


 ……っつても本当に何もいないな。前まではマレタナゴの大群とアシッドギルがいたがそれも見ない。

 この川が広大すぎるのか……それともただ単純に魚がいないだけなのか……。それとも何か原因があるのか。


 どちらにせよこのままじっとしていてプランクトンだけで生きていくのは厳しい。

 確実性はあるが成長速度が非常に遅くなってしまう。

 このままでは地上に上がるのに何年かかってしまうのかわかったものではないからな!


 俺はこの川での生活を早いこと卒業したいの! 早く人間と交流したいの! 人間に変身できるか怪しいけど……何とかなるだろ。

 俺はあんまり詳しくないけどアニメとか漫画とかは大抵の生物が人の姿に化けてたしな。


『応錬の兄貴』

『ん?』

『レベルMAXになりました』

『マジか! やったじゃないか!』


【経験値を獲得しました。LVがMAXになりました】


『…………俺もなったわ』


 あれだけ長い間泳いでいたのだから、レベルが上がってしまうのも無理はない。

 止まっていたより泳いでいた方が経験値の入りはいいし、今は上流に向かって泳いでいる。

 それも合わさってレベルの上りが今回は早かった。


 レインバス……もうお別れか……短い付き合いだったな。お前の事はできる限り忘れない。

 よし、進化先を確認しよう。


 少し感傷に浸ったが、よく考えてみれば別にどうでもいいことに気が付いたのでさっさと進化することにする。

 別に思い入れがあったわけでもないし、ただの布石でしかない。

 俺は進化先情報を確認するために天の声に呼び掛けた。


===============

―進化先―


―レインキングス―


―クレイカープ―

===============


 できる限り忘れないとか言ってごめんなさい! 貴方しっかり進化して帰ってきてるじゃないの! 絶対レインキングスってレインバスの上位種だろ!


 また強そうなのが出て来たなぁ……で、クレイカープ……? 粘土と鯉? 魚なのに土魔法とか使えるようになるかもしれないぞ。


 てか英語なんだな。それとも俺たちに合わせて天の声が変換してくれたりするのだろうか。

 いや、あいつらに限ってそんなことはしないだろう。全く違う意味の言葉が出てきてもおかしくないかもしれないな。

 地上に出て人と交流できるようになったら文字とか覚えさせてもらおう。


 えーっと進化先は……そうだな。レインキングスでいいか。

 ぶっちゃけどっちが強くてどっちが弱いとかわからん。

 クレイカープは種族変更進化だろうししばらくは普通に進化していった方がいいかな。痛いの嫌だし。


『零漸のほうはどうだ? 進化先はなにがある?』

『あ、はい。俺はロックフィッシュってのと、ベドロックっていう魚になれるみたいですね』


 ベドロック? bedrockか? 岩盤って意味だが……大丈夫かそれ? なんか動けなくなりそうなんだけど……。


『零漸。ちゃんと説明は見とくんだぞ。一緒に考えてやるから教えてくれ』

『はい!』


 零漸は地の声に詳細を聞いているようだった。ついでに俺のも確認しておくか。


===============

―進化先情報―応錬


―レインキングス―

 レインバスのリーダー。強靭な肉体と顎をもっており、食いつかれた獲物は肉を犠牲にして逃げるしかないと言われている。かなりの大食いでなんでも食べるため生態系が破壊される。

 生態系への破壊が絶対的に行われるため、最優先討伐魚類に指定されており、見つけたら必ず報告せよと国から指定されている。


―クレイカープ―

 黄土色の少し細長い魚。ほとんど動くことがないため粗末な骨董品として捨てられたものだと思われて放置されることが大半であるが、一部では生きている骨董品として高く売買されている。

===============


 …………どっちに進化しても嬉しいことなさそうだな。

 高級食材から外れたのはいいけどレインキングス達は確実に殺されに来てるじゃねぇか。もう人間怖い。

 クレイカープに関しては生きている骨董品ですってよ。人間達よ現実見ろ。ただの魚やで?


 ……零漸のほうはどうだ?


===============

―進化先情報―零漸


―ロックフィッシュ―

 ブロックフィッシュの上位種。岩のように硬い鱗を持っているが質量はそれほどでもない。大きいロックフィッシュは武具の加工品として重宝されている。

 とはいえ魚なので、装飾品やネックレスに使われることがほとんどだ。


―ベドロック―

 岩盤石の異名を持つ魚。その場から一切動かず獲物を誘い出す香を出す。誘われてやってきた魚を一口で食べるのがベドロックの狩りのやり方である。

 しかし、ベドロックのいる場所から下流付近までは香が漂って行く為、すべての魚が上流へと向かうことになる。生態系の破壊をもたらす魚として優先討伐魚類に指定されている。

===============


 いやいやベドロック……岩盤石の異名持つんだったら名前ちゃんとしろよ。ベッドロックな。

 …………ん? あれ? ちょっとまってこいつじゃね? 魚がいない原因絶対こいつじゃね!?

 え、だって魚一切いないし、こいつが上流にいて香をばらまいているんだったら下流にいる魚は全部上がっていくだろ?

 それだったら全部辻褄合うじゃん!


『おい零漸! さっきのベドロックの説明もう一回教えてくれ!』

『は、はい! えっと、岩盤石の……』

『後半からでいい!』

『べ、ベドロックのいる場所から下流付近までは香が漂って行く為、すべての魚が上流へと向かうことになる。生態系の破壊をもたらす魚として優先討伐魚類に指定されている……です』


 絶対こいつだ。この説明文が正しいのなら上流にベドロックなる魚がいるはずだ。

 流石異世界といったところか……とんでもない魚がいるもんだ。

 零漸がいなければベドロックのことはわからなかったな。でかしたぞ零漸!


 こいつの能力の影響がここまで来ているとすれば、どこにも魚がいないということにも頷ける。

 おそらく俺の祖先であるブルーフィッシュもベドロックの香に誘われて上流へと向かってしまったのだろう。


 生まれた場所ではあんなにいっぱいブルーフィッシュの卵あったのだが……もういないかもしれない。

 敵は討ってやるからな先祖様。

 本当は先祖じゃなくて兄弟なんだろうけど進化して種族変わってるから兄弟とは呼べないからな。


 そうと決まればベドロック討伐作戦を決行しなければならない。

 零漸には否応なしにロックフィッシュに進化してもらうことにする。

 ベドロックに進化しても意味がないからな。動かなさそうだし。


 俺が進化するはレインキングス。

 岩盤石の異名を持つベドロックがどれくらい硬いのかがわからない。

 だがレインキングスの説明文では『食いつかれた獲物は肉を犠牲にして逃げるしかないと言われている』と書かれていたし、運がよければかみ砕けるかもしれない。

 ……まるで矛と盾だな。


 ベドロックのせいで俺たちは進化速度が異様に遅くなってる。

 ここの川も俺の故郷みたいなもんだし、一匹の魚のせいでここが壊されるのは腹が立つ。

 ……もし人と交流ができるようになったらここの世話をしてもらうようにしようかな……。

 いつになるんだろ。


『よし、零漸。俺達はベドロックを討伐してこの川の問題を解決するぞ!』

『…………どうしてベドロックがいるってわかったんですか?』

『……』


 あっれ。もしかしてこの子頭悪い?


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