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3.58.サレッタナ王国へもう一度


 城の大手門に多くの鬼たちが集まっている。

 俺たちが前鬼の里を後にする為、最後に見送りをしようと鬼たちは足を運んでくれていたのだ。


 あれから二日が経った。

 刀を受け取ってからすぐに出立すると伝え、鬼たちにその準備をしてもらっていたのだ。


 向こうに着く頃にはもしかすると雪が降っているかもしれなかったので、ここでその準備もしてもらおうと思ったのだが、ここの装備で向こうに行けば目立つという事で、本格的な装備はサレッタナ王国で整えることになった。


 俺的にはそこまで重要視していないのだが、目立って良いことなどないという事だったので、素直にその助言を受け取ることにした。


 とは言っても既に寒い。

 寝る為の毛布や、着こむ為の服とかは馬車に乗せてもらうことにした。

 そうでないと寒くて風邪をひいてしまいそうだからだ。

 それに……ここの里の物の方が俺的には落ち着くのだ。

 てか笠が欲しい。

 絶対今の装備と合うと思うのだが……。

 どうやらこの里には被り物を被るといった習慣がないようで、そういう物は一切なかった。

 悲しい。


 まあ鬼は頭に角があるし、そういった物は邪魔にしかならないのだろう。


「よーし、これでいいかな?」

「あーにきー! こっち準備完了しましたー!」

「おーう、わかったー!」


 荷物をアレナとまとめていた俺に、零漸が外から声をかけてくる。

 どうやら馬を馬車に繋ぎ終えたようだ。

 これで何時でも出発できる。


「応錬様。帰ってきてくださったのにあまりお相手ができず申し訳ない」

「テンダか。いいさいいさ。また帰ってきたとき、一緒にまた飲もうな」

「勿論です」


 テンダは俺が帰ってきても、里の為に政務をこなし続けていた。

 今ではライキもテンダに全て仕事を任せれるようになったようで、割とこき使われているらしい。

 だがテンダはそのことに一切の不満を口にすることなく、黙々と仕事をしていた。

 姫様とは大違いだが、そもそも根が違うのだ。

 無理もない。


 それでも忙しい中、こうして見送りをしてくれる辺り流石だなと思う。

 他にもライキやシム、デンといった見知った顔の鬼が見送りに来てくれていた。

 見送るだけなのにそこまでしなくていいと思うが、やはりこれは俺の存在が原因だろう。

 迷惑をかけるなぁ……。


「で……いつまで泣いてるんだ姫様」


 テンダの後ろには泣きじゃくる姫様がいた。

 アレナに慰められているが、そのアレナとも別れるという事なので悲しみは更に倍増しているようだ。


「あれなぁあ……」

「よーしよし」

「わぁあぁああん」


 その様子に俺とテンダは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 こういう時、どうやって声を掛ければいいかわからない。

 ここは女の子であるアレナに任せておこう。


「テンダ。鬼って泣かないんじゃなかったのか?」

「はははは……。無理言ってあげないでください」

「それもそうだな」


 事情を知っているだけあって、あまり口を出しにくいという事もあるのだろう。

 それに、里の人全員がそのことを承諾しているようだし、ここで俺が変なことを言うのは良くないな。


 さて、話もそこそこにそろそろ出発しなければならない。

 荷物も整えたし、馬の準備も完璧だ。

 後は俺たちが乗り込むだけである。


 今回も御者はウチカゲが担当する。

 俺でもできるようになったので、交代しながら進むことになっている。

 本当であれば零漸にも教えておきたいのだが、なんだか少し不安なのでまだ教えていない。

 まぁこれはまた今度でもいいだろう。


「それでは応錬様、どうかご無事で」

「おう。有難うな。じゃ、行ってくるわ!」


 俺がそう言うと、それに気が付いたアレナが馬車に乗り込んだ。

 姫様はずっと泣いていたが、何とかこちらを見て頭を下げていた。


「ライキさーん! 太鼓叩かせてくれてありがとうございましたー!」

「それは良かったの。また来た時は叩いてくれ。なんせ叩き手がおらんでなぁ」

「そん時はお任せください!」

「うむ。頼りにしとるよ」


 零漸が馬車の中から顔を出して、ライキに礼を言った。

 未だ何故叩かせたのかがわからなかったのだが、まさかただの人手不足だったとは……。


 それでいいのか……?

 ウチカゲからは鬼の本質を見い出した者しか叩けない的なことを聞いた記憶があるのだが……。

 まぁ……ライキが良いって言うならいいのか。うん。


「おうれんざま~……おげんぎでぇ……あれなもぉ……」

「はいはい泣くな泣くな。また帰ってくるから」

「またね、ヒスイお姉ちゃん」

「うぅうう……」


 馬車の上からではあるが、とりあえず頭を撫でておいてやる。

 だがそれは逆効果だったようで、また大粒の涙を流し始めてしまった。

 本当に困った姫様だと思いながら、俺はもう一度強く頭を撫でてやった。


 そこで俺は、この一ヵ月間考えていた物を用意することにした。


「『空気圧縮』、『無限水操』」


 危なくない程度に空気を圧縮し、その中に水を入れこむ。

 すると水の球体が出来上がる。

 とても簡単なものなのだが、これがとても役に立ちそうなのだ。


「姫様、これを持っておいてくれるか?」

「……これはぁ……?」

「んー、簡単に言ったら俺の分身? になるのかな。俺のMぴ……じゃなくて魔力が枯渇したときか、俺の意思でその水玉を壊すことができるんだ」

「……?」

「あーつまりだ。それが壊れた時、俺の身に何かがあったと考えてくれればいい」

「!!」


 空気圧縮という技能は面白い物で、圧縮した空気を球体状のまま持ち運ぶことができ、尚且つ圧縮した空気を開放するのは手動なのだ。

 俺が手を加えなければ、ベドロックを倒した時のように爆発したりはしない。


 因みに何故空気の中に水を入れることができるかと言うと、空圧結界のような壁……というか殻が圧縮する空気の周りに作り出される。

 その為、水を入れても漏れたりはしないのだ。

 後、中に入っている水は操ることが可能なので、何かあった時はメッセージを残すことができる。


「こ、このようなものを……私が持ってて良いのですか?」

「おう。姫様が一番早く気が付いてくれそうだしな」


 姫様の事だし、肌身離さず持っていそうだからな。

 適任と言えば適任だ。

 姫様はそれを受け取ると、大事そうに両手で優しく包み込んだ。


「大切にします!」


 いつの間にか涙は流しておらず、姫様にしてはきりっとした表情になっていた。


「じゃ、世話になったな。ウチカゲ! いいぞー!」

「わかりましたー!」


 ウチカゲはそう言うと馬を動かした。

 鬼たちは見えなくなるまで俺たちを見送った後、またそれぞれの業務に戻っていったようだ。


 思った以上に長く滞在してしまったが、やはりここは良い所である。

 また祭りの時に帰って日本食を堪能したい。


 しかし思った以上に良い装備が手に入った。

 現代日本だとどれくらいの値打ちがあるのだろうかと考えながら、その服と綺麗すぎる刀を見て楽しんでいた。

 だが、アレナが何故だか不機嫌そうだ。

 それに気が付いた零漸が声をかける。


「むー……」

「アレナ? どうしたん?」

「応錬だけあんなかっこいい武器持っててずるい」

「アレナも可愛い装備してるじゃないか~」

「かっこいいのがいいのー!」


 アレナが不機嫌な理由は、どうやら俺の装備にあったらしい……。

 まぁアレナの装備と比べれば、確かに俺の装備はかっこいいな。うん。


 しかしここで俺が口を出したらまた何か言われるかもしれないので、ここは零漸に対応を任せる。


「ああ……なるほど。じゃあ自分でお金を稼いでかっこいい装備や武器を整えような!」

「今じゃダメなのー!?」

「駄目でしょ……。だってアレナの装備も俺の装備も、兄貴に買って貰った物なんすよ? 贅沢言っちゃいけないっす」

「むー……そうかー……」


 お、零漸にしてはまともなことを言っている。

 アレナもあれでいて実は頭が良いから、零漸の言っていることもそれなりに理解しているはずだ。


「それにな……ちょっと耳貸して」

「?」


 零漸はアレナの耳元で俺に聞こえないように、こそこそと何かを伝えていた。

 それを聞いたアレナは顔は嬉しそうに笑顔になり、大きく頷いていた。

 零漸も満足そうにして頷き返す。


 零漸が何を伝えたかはわからないが、上手くまとめてくれたので良しとしよう。

 何を伝えたのかは気になるところではあるが……。

 どうにも教えてくれそうにないので諦めよう。


 俺はもう一度、白龍前を見てうっとりとしていた。


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[気になる点] 自分が倒した魔物で作った装備を身に纏うとか最高にかっこよくないですか? アレナちゃんには是非そうなってほしい
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