表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
4/25

第3話:さすがに飽きる

 自宅に戻ると母親の未海(みう)は夕食の準備をしていた。


「おかえり、桜雅。今日もまた、リコちゃんのところに?」

「うん。いつも通りだよ」


 食後は今年最後のお花見をしにでかけてきた。

 散り始めた桜並木にお別れしてきて、この時間になったのだった。


「……リコちゃんか」

「ん? 梨子ちゃんどうかした?」

「昔からあの子とはずいぶんと仲がいいけど、何も進展してないの?」

「進展?」

「幼馴染から恋人へ、とかないわけ?」


 母親からの直球に桜雅は「うげっ」と苦い顔をする。

 恋愛の話など親から突っ込まれたくない話題ではある。


「特別に何かあるわけでは」

「毎週のように遊んでるのに?」

「それは、それ。付き合うとかじゃないからな」

「幼馴染のまま、いつまでもい続けたいわけ?」

「あまり考えたことはないっす」


 これ以上、突っ込まないでもらいたい話題である。

 実際問題、梨子と桜雅の関係は恋人未満という関係だ。

 幼馴染として、ただ仲良くしている時期は終わった。

 とはいえ、恋人に進展するほどに親密すぎることもなく。


――俺と梨子ちゃんの関係ねぇ?


 今の現状で何か困ったこともない。

 ただ、周囲からすれば現状維持をしているのを不思議がられる。


「はぁ、まだまだお子様か」

「ナンデスト?」

「ある意味で、安心。ある意味で心配」

「……?」


 親の気持ちなど子供には分からないだろう。


「リコちゃんは素直でいい子だからお母さん的には安心できるわ」

「安心されても」

「なんで、何も進展ないわけ? まさか舞雪のせい?」

「姉ちゃん?」

「桜雅の本命が舞雪だから、とかいう理由なら許さん」

「勝手に決めつけるのはやめてもらいたい。俺は姉ちゃんが大切なだけです」


 舞雪と未海は相性の良くない母娘だ。

 家にいた頃は何かと対立して口喧嘩をしていた。


「貴方たち、度を超す姉弟愛なのよ」

「ただの姉弟愛です。母に心配されるのが悲しい」


 肩をすくめて、彼は「変な意味では何もないのに」と愚痴る。


「母さんと姉ちゃんはどうして仲が悪いのか」

「舞雪を我がまま放題に育ててしまったことが原因ね」

「姉ちゃん、言うほど我が侭じゃないけど」

「はぁ? どう見たらそう言えるのかしら」


 未海は嘆かわしくため息をつきながら、


「あの子をあんな風に育てたのは私の罪。これは認めましょう」

「罪って、姉ちゃんは悪くないってば」

「そう? 例えば料理とか」

「ん?」

「面倒くさいことは誰かがやってくれるものと何もしないでしょ」

「料理に関しては母さんがやめさせたせいでは?」

「それだけじゃない。あの子、覚える気がゼロだったもの」


 暮らしていても同じキッチンに立ったことすらない。

 むしろ、家のお手伝いすらしていない。

 炊事や家事のスキルは舞雪には皆無といってもいい。


「自炊できなくても、お弁当を買えばいいとか言うし。一人暮らしがコンビニ弁当オンリーになるのが怖いから、寮に放り込んだもの」


 彼女の通う大学には学生寮がある。

 朝と夕方、料理を作ってもらえるため、姉は母の強い要望で放り込まれた。

 単純に一人暮らしよりも、寮の方が生活費がかからないという理由もあるが、食生活の方を気にしての理由が一番強い。


「向こうの食事、美味しいって満足してるみたいだよ」

「女の子として、料理くらいしてもらいたい」

「料理上手な素敵な旦那さんをもらうつもりなのでは?」

「……そんな都合のいい相手がいるわけないでしょう。そして、あの子に合うような男が現れるかも謎。いたら、一発で結婚を許す。なさそうだけど」


 娘の未来に呆れる未海である。


「でも、苦手と言うよりも、やる気の問題じゃないかな」

「やる気ねぇ?」

「姉ちゃんって何でも、やればセンス抜群で人並み以上にこなせる人だし」

「それは弟の過大評価でしょ」

「いえいえ、本気になれば何でもできる。料理もすぐに慣れるはず」

「あの子のやる気スイッチを探すのはウォ●リーを探せをする並に難しい。どこにあるのかよく分からないもの」

やる気になれば、何でもできるのにもったいない。

「桜雅、料理を覚えてみる気はない?」

「それはないかな」

「女の子物の下着や衣類の洗濯の仕方とかは教えてほしいと嘆願されたのに」

「それは梨子ちゃんのために必要だったんだい」


 料理はできなくても、家事はある程度できる。

 だが、好き好んで女子物用洗濯スキルを覚えたわけではない。


「はじめ、この子はついに女装男子にでも目覚めたのかと思ったわ」

「ひどいや。あと、ついにってどういう意味だよ」

「スカートをはいてみたい、興味を持っていた時期があったような」

「ねぇよ!?」

「それとも、舞雪に頼まれて寮まで家事をしにきて、と頼まれたのかと」

「通うだけでもかなりの時間がかかるのやら。さすがに無理」

「幼馴染のお世話、というのもどうかと思うんだけどね」


 男子高校生としてどうなんだということに否定はできない。

 のそのそとソファーから起き上がり、冷蔵庫の中から飲料水を取り出す。


「ごくっ」


 ペットボトルに口をつけて、冷たい水を飲み干す。


「桜雅。ついでに、そこにあるカレー粉を取って」

「これでいい?」

「オッケー。あとは野菜をお鍋に入れて、火をかけて煮込めば完成」

「作ってたの、カレーだったんだ」

「圧力鍋だからあっという間。美味しいカレーの出来上がりよ」


 カレーは桜雅の好物のひとつである。

 特にハンバーグカレー。

 これは人生最後にも食べたいと思っている。


「桜雅も好きでしょ。365日3食続けても飽きないでしょ」

「さすがに飽きる」


 春風家のカレーは定番のバーモ●トカレーではなく、ジ●ワカレーの方である。

 幼い頃から、子供には少し辛い、大人の辛さを食べて慣れ親しんでいる。

 ジャ●派の理由は、舞雪が辛い物好きだからである。

 春風家において最も発言権のある姉に料理の味の好みは合わせらている。

 カレーも麻婆豆腐も常に辛口系のため、桜雅の味覚も自然とそちらになった。


「桜雅の人生、舞雪の比率はかなりのものね。シスコンさん」

「素敵だよ、最高だよ。姉ちゃんの魅力を語るには……」

「長いから語らなくていい。弟が姉の魅力を顔を赤らめて語るな、シスコン」


 毎度のことながら未海は息子たちの関係を危惧する。


「健全な姉弟に育てなおしたい」

「十分に健全ですってば」


 舞雪は桜雅にとっては良き姉である。

 お互いがお互いを理解しあえている。

 “姉弟”としては理想的な関係とも言える。


「あの子が可愛いと思えたのは三歳くらいまで」

「短っ!?」

「言葉を話せるようになってからは、この世のすべてを見下した、“サディスティックな女王の中の女王”だと思ってる」

「何ですか、女王の中の女王って! 生まれ持っての女神でしょ」

「何が女神よ。あれは悪の魔王と言ってもいい」

「言いすぎじゃないかぁ」


 とにもかくにも、親子の仲は不仲である。

 考え方や性格の違いから意見も対立することが多い。


「そりゃ、桜雅にだけは超絶甘いけど、それ以外の相手には容赦ないでしょ」

「そうかなぁ?」

「ふんっ。小学生時代、縄跳び片手に学年を支配下に置いた問題児。どこのSM女王様か。女王様が君臨したせいで私がPTAから睨まれました」

「それは……うん」

「あと、傲慢で生意気で横暴な態度が気に入らないわ。世界で一番きれいなのは自分とか平気で言うし、気に入らない男の子を豚扱いする。我が子ながらどーして、あんなに歪んじゃったのかしら」

「だーかーら、姉ちゃんは家族思いのいい人です」


 大好きな姉を否定されるのは悲しい。


「調教され済みの桜雅に言われても説得力がない。姉弟というより、主人と下僕?」

「失礼だな!? ええいっ、姉ちゃんの悪口はそこまでだ」


 姉に対しての悪口を言われ続けて我慢などできるはずもない。


「確かに、姉ちゃんには一部、性格がキツイ面もあります」

「一部というより全部だけど」

「でも、線の内側にさえ入れば、とことん優しく甘いんだよ」

「その線の内側に入ってるのって誰と誰?」

「……俺と梨子ちゃん、かろうじて父さん?」

「たった、3人じゃない。そして、私が入ってない」

「母さんがもう少し姉ちゃんに歩み寄れば和解できると思います」

「無理だわ。“春風舞雪の絶対女王政”とかスピンオフで出そうな子だもの」


 ばっさりと即答する。

 似た者同士は仲が悪いのが常である。

 結局、この母から生まれた娘なのだ。

 小生意気さと口の悪さは遺伝であろう。


「そーいう、母さんも大概、口が悪いからね」

「……どこが? 私、自分の娘を卑下するような真似をするとでも?」

「平然としますよね」

「そもそも、私は真実しか言ってないじゃない」


 平然とした顔で未海は言い放つ。


「そう。舞雪は常に上から目線で相手を見下し、他人なんて自分の踏み台にしか思ってない。男子を見下す瞳はゴミ屑をみるようでしょう。思いやりの欠片もなければ、自分のために世界は存在してるのだと本気で思ってる痛い子だわ」

「ね、姉ちゃんをディスりすぎだぁ!?」


 トゲがある言い方どこか、ミサイルを放つ勢いである。


「生まれながらにしての女王様ね。一度痛い目をみれば改心するかしら」


 桜雅は「そんなこと言わない」と未海をたしなめる。


「姉ちゃんの悪口禁止!」

「だったら、いい加減にお姉ちゃん離れして、彼女を連れてきなさい」

「そ、それとこれとは別でしょうが」

「いえいえ、私としてはリアルに心配してるの。もうリコちゃんでいいから、さっさと付き合っちゃいなさいよ。関係を変えなさい」


 再び、梨子の話へと戻して息子を追い込む。

 

「む、無理に変える必要は……相手のこともありますし、ですし」


 母の勢いに押される。

 プレッシャーをかけられまくられて困惑する。


――ホント、分かり合えないのって悲しいぜ。


 どこかで掛け違えてしまったボタンのような関係だ。


「あー、何なら私が誰か見つけてあげよっか?」

「遠慮します」

「遠慮しないで。私の知り合いの子でまだ小学生の娘さんだけど可愛い子が……」

「お、俺はロリじゃない!? お子様はマジでやめてくださいね」


 さっさと恋人を作ってシスコンを卒業しろと、未海は桜雅を説教するのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ