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好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
23/25

第22話:もし、生き残れたら、私をお嫁さんにしてね

 まさに処刑執行寸前。

 梨子は断頭台にあがる気分を味わいながら、家の中に入る。


「お邪魔します」


 なんだかんだで、桜雅の家にあがるのは久々だ。

 リビングでは桜雅の母がテレビドラマを見ていた。


「んー、おかえり。桜雅……あれ?」


 未海が振り返ると、舞雪と視線が交錯する。


「ただいま、お母さん」

「げっ!? な、なんで、舞雪が帰って来てるわけ?」


 素で驚いてみせるので、舞雪は眉をひそめながら、


「娘が帰ってきたのに、いちいち驚かないでくれる?」

「びっくりしたもの。帰ってくるなら帰ってくるって連絡しなさい」

「面倒くさい」

「こっちは貴方と戦うための、心の準備と戦闘準備ができてない」

「戦うな、戦うな。もう、この親子は……」


 顔を合わせば口喧嘩する親子である。

 

「はっきり言うわ。私、実娘と本気で相性が悪い」

「本人を目の前に言うことでもない」

「私、影口が嫌いだもの」

「似た者同士ですよ、おふたりとも」


 桜雅も相変わらずの二人の不仲っぷりにげんなりする。


「あら、梨子ちゃんも一緒なのね」

「こ、こんばんは。お邪魔します」

「ちょっと、この女狐と話があるから。しばらく、お父さんと一緒に出かけて」

「はぁ? 帰ってくるなり、私達を追い出そうなんて……ん?」


 そこで、未海は娘がかなり不機嫌なことに気づく。

 お気に入りの桜雅がそばにいるのに、これほど不機嫌な理由。

 逆に困惑しておびえる梨子の姿。


「もしかして、もしかして?」


 そこから推察できることはひとつ。


「嘘ぉ、桜雅と梨子ちゃん、くっついた!?」

「――ッ!?」

「あら、あらぁ。よくやったわ、桜雅。お姉ちゃん、卒業できてえらい」


 息子に初の彼女ができた。

 ずっとシスコンすぎて心配していた。


「あー、なんて日なのかしら。お母さん、すごくホッとした」


 いつか姉と事実婚するのではないかと本気で思っていただけに。

 そんなことになったら、絶対に反対して、国外追放(桜雅を)すると決めていた。

 そんな予想を裏切ってくれるとは、こんなに嬉しいことはない。

 にこやかな微笑みを浮かべる未海は、心の底から祝福する。


「嬉しいわぁ。おめでとー」

「おめでたくないから。これから不幸と悲しみがこの場を包むから」

「ねぇ、ふたりとも。結婚はいつするの? 高卒後? それとも?」

「聞けよ!? 気が早すぎる上に、アンタが決めるな!」

「舞雪は黙っていて。これ、大事なことなの」

「アンタが黙れぇ。大事な話があるって言ってるでしょうが」


 険悪な親子関係。

 言い争うと周りが制止しても止まらなくなる。


「大事な話ってなに? まさか、恋人関係の解消を迫るとか」

「それも含めて話し合い」

「させるかぁ! お母さんは桜雅と梨子ちゃんを1000%応援します」

「……何が1000%よ。泥沼に沈めるのが私の役目」

「弟の恋を応援できないダメ姉ね。がっかり姉だわ、残念姉だわ」

「うるさーい!」


 母と娘はぎゃいぎゃいと騒ぎだす。


「そうだ、帰ってきたら帰ってきたで言いたいことがあったのよ」

「なぁに?」

「貴方、この前の和馬の誕生日にプレゼントを箱で送ってきたわよね」

「父親想いのいい娘でしょ」

「誕生日プレゼントに色々と送ってくれたのは本人的にすごく喜んでたわ」


 母親との関係はアレだが、舞雪は父親に対しては昔から懐いている。

 世間的な父と娘は不仲が多いが、かなり良好な方である。

 父としては娘から好かれて嫌なわけもない。

 ずっと舞雪を甘やかせている。

 それも未海としては不満なことでもあった。


「それがどうしたっていうの」

「プレゼントの中に“精力剤”を混ぜ込んでたことについて」

「え? 必要でしょ?」


 さも当然とばかりに言い放つ。

 実娘からのプレゼントでそれを送るのはどうかと思う。


「ドリンク飲ませて、頑張らさせなきゃ無理じゃないの?」

「いらんわ! 和馬はまだそんなのが必要な年じゃありません」

「いるでしょう。相手がこれだもの」

「はぁ!? それは私相手だから必要って意味か。私に欲情しないとでも」

「自分の年を考えてごらんなさいよ」

「わ、私、まだ若いし! 全然、大丈夫だし!」

「いくら外見を若く見せても、肉体は嘘をつかない」

「なにをー!? 和馬、私のこと大好きだし。今でも十分に愛し合ってるし」

「お父さんは優しいだけ。ホントは心の底から満足してるかどうか」


 内容がアレなうえに、レベルも低い。

 完全にケンカ腰でしょうもないことを言い争う。

 これもいつもの光景なので、桜雅はのほほんとしている。


「梨子ちゃん、これ、ホントしばらく続くから、こっちにおいで」

「……なんで、二人とも仲が悪いの?」

「似た者同士だからでしょ。同族嫌悪というか、喧嘩するほどなんとやら。ということにしておいてください」


 こればかりは桜雅が口をはさんでも、どうにもならない。

 それから小一時間、親子が言い争う横でテレビでも眺めていたのだった。

 

 

 

 しばらくして、ようやく終わったらしく、


「それじゃ、和馬を連れて深夜デートしてきます。ふふっ」


 ご機嫌な未海は「梨子ちゃん、息子をよろしく」と微笑んだ。

 その笑みを泣きそうな顔で返すことしかできない。


――私は逆に死刑寸前で喜べないです。


 誰も助けてくれないこの場面。


――私、生きて帰れるかな。無理かな。


 絶望タイムに心がすり減る。

 両親がいなくなり、三人だけとなったリビング。

 大きなため息をつきながら、舞雪はどかっと大きな態度でソファーに座る。

 梨子は何も言わずに正面に正座した。

 今の彼女は女王様を怒らせた罪で裁かれる立場だと理解している。


「……えっと、俺はどこに座れば」

「できれば、二人で話をさせて。桜雅ちゃん」

「暴力はしない、と約束してくるのならば」

「しないわよ」

「なら、いいや。それじゃ、隣の部屋にいるから。すべて終わったら、呼んでくれる?」

「えぇ。今日は一晩かけていろいろと話をしましょうね」


 桜雅大好き、お姉ちゃん。


――ホント、弟想いがすぎる姉ですな。


 にっこりと笑う姿に梨子は、


――そんな弟を奪い取った私はさぞや悪人扱いされているわけで。


 舞雪を怒らせた経験は過去に数度。

 思い返せば、どれも恐怖のどん底に突き落とされて後悔しかない日々だった。

 それが今夜、最大級の威力で迫りつつある。


――でも、仕方ないか。それだけの覚悟してなきゃ、桜雅を好きになれない。


 好きだと告白した時から、現実逃避したくても、避けられない相手だった。

 それが予想以上に早く訪れただけのこと。


「……桜雅、私もちゃんと舞雪とは話さなきゃって思ってたのよ」

「梨子ちゃん」

「大丈夫よ。私、頑張る。頑張って、この子と話し合うから」


 例え、その結果、どんな悲惨な目にあわされようとも。

 乗り越えなければいけない、無視も逃げることもできない。

 だったら、向き合わなければいけない。

 涙目で桜雅を見つめて、


「ねぇ、桜雅。もし、生き残れたら、私をお嫁さんにしてね」

「それ、死亡フラグだから。めっちゃ震えてるんですけど」

 

 いけない、想像するだけで悪寒がする。


「怖いよ、怖いよ。助けてほしい。でもね」


 ふぅ、と彼女は深く息を吐いた。

 身体の震えが少しだけ止まる。


――頑張れ、私。桜雅を好きなら、頑張れるはず。


 舞雪というラスボスを倒して、目指せ、ハッピーエンド。


「大事な人を奪い取った自覚はある」


 顔を上げて彼女に向き合った。

 いつも以上にその瞳に睨みつけられると身がすくむ。


「舞雪、私は貴方を乗り越えて幸せを手に入れる」

「上等じゃない。いいわぁ、いいわぁ。私も燃えてきたゾ」

「……燃えないでほしい」

「リアル炎上させてあげるから、覚悟しておきなさい」


 殺気立つ舞雪に、梨子は瞬時に後悔した。


――やっぱり、無理かもしれない。


 心が折れそうになりながら最終決戦が始まる。

 


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