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好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
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第20話:これからは二番目じゃ嫌だ

 コーヒーを飲み終えて、気持ちを再び告白に持っていくのに20分もかかった。

 今度は邪魔をさせないと、桜雅の携帯電話を没収する。

 本人は折り返しの電話をかけたがっているが、ここで連絡されても困る。

 今から桜雅に告白する。

 そんなことを彼女に知られるのだけは避けたい。

 バレたらデッドエンドは確実だ。


「舞雪がいくら私たちの状況に気づいていても、ここには来れないわけで」


 彼女が暮らす街は、ここからすぐに来れる距離ではない。

 だが、油断もできない。


「あの子、昔から隠し事をしてもすぐにバレるし」


 状況を知られた瞬間に地獄が始まる。

 どこにいようが安心などできない。

 相手は新幹線に乗ってでも、今日中に攻め込んでくるだろう。


「怖い、普通に怖い」


 舞雪が怒り狂い、世界を破壊しつくすのだけは想像するだけで怖すぎる。


「……顔色悪いけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫。私は今、命をかけなければいけないのだと実感しただけ」

「何の話だよ」

「貴方はのんきでいいわよねぇ」


 例え、二人が付き合ったことを知られても、舞雪は桜雅だけは責めない。

 今の今まで、舞雪が桜雅を叱りつけた事など一度もないのだ。

 優しく甘いお姉ちゃん。

 桜雅にとって舞雪の印象はその一言に尽きる。

 世間の評価は真逆なのだが。

 改めて気が重くなるが、逃げるわけにもいかない。


「さっきの話の続きをしてもいい?」

「どうぞ」

「言い直します」


 何度目かの深呼吸。

 今度こそ言うぞと覚悟を決めた梨子は、


「私、桜雅が……好きなのよ」

「うん」


 あっさりと返事が返ってきた。

 こっちは心臓が高鳴り、緊張しまくって言葉にしたというのに。


「それだけ? わかってる? 異性としての意味だけど」

「うん。俺も梨子ちゃんが好きだよ」

「……お姉ちゃん的な意味合いじゃなくて?」


 桜雅はふっと微笑んでみせて、


「梨子ちゃん。俺はずっと前から好きだったんだと思う。でも、年齢差だったり、姉と弟みたいな関係で、本当の想いには気づいていなかった」

「私も似たようなものかな。一緒にいる時間が長かったもの」


 姉弟のような存在は、ただの異性とはまた違うもの。

 大好きな姉という存在だけではなかった。


「お互いに、恋愛を意識してなかっただけだよ」


 いつまでも子供のままではいられない。

 成長するとともに、想いだって変化する。

 いつしか、恋人としてそばにいたいと思うようになっていた。


「こうやって、改めて言うのも変かもしれないけど、俺にとって梨子ちゃんはずっと大事な人だよ。これからも、そうありつづけたい」

「……うん」

「えっと、だからさ。俺たち、付き合うってことでいいのかな」

「そうだね。私は桜雅と恋人になりたい。幼馴染でもなく、姉弟としてでもなく。ちゃんとした形でお付き合いしていきたいの」


 そういうと梨子は桜雅に軽く抱きついて、


「なんか、ホッとした」

「え?」

「だって、桜雅だし。最後の最後で、やっぱりお姉ちゃんと事実婚するから梨子ちゃんは二番目で、とか言いそうで」

「俺への信頼がゼロなのだけは理解したよ」

「桜雅なら、ホントに言いそうだもの」

「言いません。まったく、家族もそうだけど、俺と姉ちゃんのことを何だと思ってるのやら。変な関係だと思わないでもらいたい」

「それに近いことを平然としてる桜雅たちが悪い」


 軽口を言い合えるのも、安堵しているからだ。

 先ほどまではいろいろと緊張していた。

 それから解放されて、いろんな気持ちが入り混じる。

 でも、一番の感情は”嬉しい”という喜びだった。

 想いがちゃんと通じ合ってよかった。


「……ひとつだけ約束しなさい」

「なにを?」

「舞雪よりも私が好きって言って。これからは二番目じゃ嫌だ」


 散々、桜雅から聞かされてきた。


「守りたいのも、大切なのも、舞雪が一番で私が二番だったでしょ」

「……悪気はないんだけど、そう言ってました」

「今、この瞬間から、全部の一番は私にして」


 好きな相手から優先順位を二番目にされるのは耐えられない。

 シスコンの桜雅に無理な注文をしているのはわかるが、これも大事なことだ。


「いいよ。わかった。それも当然だと思うし」

「あら、あっさりオッケー。抵抗されると思った」

「なんでだよ。さすがに恋人になったら、姉ちゃんより大事に思う」

「……そこで舞雪ラブを貫くのが桜雅だもの」


 嘆くようにつぶやかれるのが悲しい。

 桜雅への信頼度がホントに低い。

 それだけこれまで、姉ラブだったわけで。


「これからは気を付けます。梨子ちゃんが一番好きだからさ」

「うん」


 そう言うとふたりで笑いあう。


「そろそろ、帰ろうか」

「アパートまで送ってくれる?」

「もちろん」


 お店の戸締りをして、外に出ると、


「今日は月が綺麗ね」

「満月か」


 夜空には明るく美しい月の姿。


「都会でも星が綺麗に見える夜。いいわ」


 きらめく星を眺めながら夜道を歩く。

 月明りに照らされる道を進みながら、


「んっ」


 少し強引な形だが、梨子は桜雅の手を引いて歩き始める。

 こうして昔から彼女はよく桜雅の手をつないでいた。

 いつも、彼女が一歩だけ先を歩く。

 それを追いつけるように桜雅も歩いたのを思い出す。


「変わらないな」

「何が?」

「梨子ちゃんとこうして一緒に歩くのって」

「……昔と今じゃ関係が違うわ」

「そうだね」


 あの頃のように、ただ手を握り合うだけのものではない。

 心をつなぎあう。

 そういう意味を持っている。


「俺さ、梨子ちゃんと付き合えても、何か変わるのかなって実は思ってた」

「何か変わってくれた?」

「月並みですが、ドキドキします」

「え? ホントに?」

「今までも何度も繋いだ手なのに。不思議だよね」


 関係が変わったことを実感させられる。

 不思議なものだが、人間っていうのは認識が変わるだけでずいぶんと変化する。

 気持ち的にもう幼馴染だった数十分前とは大きく違う。

 

「そういえば、明日は桜雅の誕生日だ」

「イエス。もうすぐ17歳になります。少しだけ年齢が近づく」

「それでも私が年上なのには変わりないわけで」

「ん? 意外と年の差を気にしてる?」

「前からちょっとね。少しだけとはいえ、年の差があるのは気にしてた」

「俺は気にならないけどな」


 普段は意識していなくても、やはり年齢の差を感じることはある。

 同い年くらいだったら、もっと前に二人の関係は進展していたかもしれない。

 

「そういってくれると少し気は楽かな」

「そんなもの?」

「この些細な乙女心に気づいてくれないのは減点。もうちょい成長しろ」

「んー。わからん」


 そんな風に話して穏やかな時間が流れていく。

 ずっと、これからも。

 同じような時間が続いていくのだろう。

 今までと同じような、それでいて、少しだけ親密さを増した。

 ようやく、ふたりの恋人関係が今、始まろうとしている。


 

 

  

 ……そんな、幸せな時間が、訪れるのだと思っていた――。


 

 

  

 自宅の前に一人の少女の姿を見かけるまでは。


「え?」


 心臓が掴まれたかのような。

 そんな嫌な意味でドキッとさせられる。


「なんで、ここに」


 そこに立っていた少女はにこっと、桜雅には満面の笑みを浮かべて、


「――おかえりなさい、私の桜雅ちゃん。そして」


 背後の梨子には絶望の淵に立たせるほどの憎悪を向けた。


「地獄に落ちろ、元親友――」


 ラスボス、襲来。

 彼女の名前は春風舞雪(はるかぜ まゆき)。

 いるはずのない、絶対零度の氷の女王がここにいた――。

 

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