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好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
18/25

第17話:その不安を私が解消してあげる

 梨子が戸惑いと怒りと悲しみの渦に飲み込まれている同じ頃。


『キミに女の子を教えてあげよう』


 桜雅はラブなホテルに有紗によって連れてこられていた。

 げんなりとして、ホテルのベッドに座る彼は、


「結局、こんな場所に。嫌だって言ったのに」


 どこか情けない姿をさらしてうなだれている。

 かたや、有紗の方は楽しそうに、


「ほいほいついてきた時点でアウトー♪」

「手を引っ張って連れてきたのは誰ですか」

「女の子に引っ張られたくらい、ホントに嫌なら拒否れるじゃん」


 くすくすと意地悪く小悪魔は微笑む。


「桜雅クンにも意思があったと思われます」

「……その笑みはずるい」

「もっと気楽に楽しめばいいの」


 彼女に誘われて、のこのこと付いてきたのは失態だ。

 話を誤魔化すために軽く食事をして、そのあとが問題だった。

 諦めていなかった彼女に腕をつかまれてこのホテル街へ。

 

『ラブエンジェル』。


 まさか本当にここに来る日が来るとは思いもせず。

 いかにもな装飾がきらめくホテルの室内。

 彼女に連れられてきたが、別に誘惑に乗るつもりは一切ない。


「俺は有紗さんと何もするつもりはありません」

「えー」

「なんで残念そう」

「私的にはホテル一回分は付き合う気満々だよ?」

「だから、それをやめようって言ってるし」


 はっきり言えばアウェー。

 連れてこられた経験値ゼロの桜雅の不利は確定。

 初めてのホテル、何もする気がなくても緊張感がないと言えばウソだ。


「桜雅クンと行くラブホテル見学ツアー」

「やめい」

「こちらがお風呂です。ここの205号室、お風呂はなんと二人でも入れる広さ」

「……はいはい」

「ほらぁ、見てよ。実際、体験しなきゃ分からないこともある」

「どや顔をされても。キミと違って俺はこういうところは来たことはない」

「桜雅クンの初めてのラブホデビューは私なのね」

「……楽しそうデスね」


 長い髪を翻し、彼女はにこっと笑って見せる。

 

「大体、キミには恋人が……んっ」


 そっと指で制止するように桜雅の唇を押さえる。


「ふふふ、こういう場所で一番しちゃいけないことって分かる? 他の相手の名前を出すこと。シラケるもの。NGだから覚えておいて」

「……」

「だからね。目の前の相手にだけ集中しないとダメなのよ」


 艶っぽく迫る有紗。

 可愛らしい女の子に誘われて何もしないでいられるか。

 自制心との闘いでもある。


「俺は何もしない」

「ホントかな。キミだって男の子でしょ」


 えいっと彼女は桜雅を軽く押すと、背後のベッドに押し倒す。

 その身体を密着させるように、


「……こうまでされても何もしない?」


 お互いを間近に感じあえる距離。


――いい匂いがする。


 それは、梨子とも舞雪とも違う、女の子の香り。

 否応にも、女子を意識せざるを得なくなる。


――これは、まずい。ホントに、まずい。


 男としての本能を試されている。


「大丈夫よ。私は姉さんには言わないから」

「そんなこと」

「あのね、桜雅クン。勘違いしないで」

「何が?」

「私は別に桜雅クンと付き合うつもりもない。ただ、こういうことって経験が大事じゃない。誰もが初めては怖いし、失敗することもあるの」


 ぎゅっと桜雅の手を握って真顔で、


「姉さん相手に失敗して、自信喪失。こういう失敗って一番ダメなのよ」

「……はぁ」

「二人の関係が壊れるだけじゃないの。男としての自信を失い、引きこもり人生を歩んだり、とか。そんな最悪の結末すら待ってるわ」

「そこまでひどいの!?」


 たった一つの失敗が、関係の破綻を招くのは事実。

 何事も最初が肝心、これ重要。


「そうなる前に練習しなきゃ。桜雅クンの不安を私が解消してあげる」

「いやです」

「ちょっとくらい失敗したって私は幻滅もしません」

「なおさらだ。俺は失敗するとしても、その相手は梨子ちゃんがいい」


 桜雅の口から洩れた言葉。

 あまりにも純粋な気持ちに思わず有紗は吹きだすように、


「ふ、ふふふ、あははっ」


 笑いだすのだった。

 室内に有紗の笑い声が響く。


――ち、ちくしょう。


 桜雅はどこか気恥ずかしそうに視線を逸らす。


「あー、ごめん、ごめん。ホント、純粋。ピュア発言だったから」

「初々しいピュアで悪かったね」

「あはは……うん、参った」


 桜雅を押し倒していた身体をずらして、そのままごろんっとベッドに寝転がった。

 その隙に彼はベッドから起き上がる。


「桜雅クン。姉さんがちゃんと好きなんだ」

「……ですね」

「そっかぁ。失敗すらも姉さんがいいのか。はい、私の負けです」


 お手上げ降参とばかりに彼女は両手を軽く上げた。


「キミのピュアさは今どき男子にはないもの」

「そういうもの?」

「うん。女の子にホテルにまで誘われて手を出さない子もいないけど」

「すみませんね」


 ふて寝するように横になったままの彼女。


「手を出されなくて、ちょっと乙女心は傷ついた」

「有紗さん自身がどうこう言うわけでは」

「分かってるよ。桜雅クンの男らしさを見せつけられました」


 有紗は本当に桜雅と関係を一度は持ってもいいと思っていた。

 好意ではなく、純粋な興味で。

 それでもこれだけ、ピュアな真面目っぷりを見せられるとあきらめる。


「ホント、姉さんと桜雅クンは相性がいい」

「……?」

「ピュア同士、うまくやれるんじゃない」

「だといいけど」

「それにしても、桜雅クンは変な所で女の子に慣れてるよね」


 それは桜雅の癖のようなものだろうか。


「例えば、女の子と話すときに相手の顔をちゃんと見るところ」

「普通じゃないのか」

「いやぁ、男の子って意外と照れくさくて目をそらしたりする」

「……女の子と話すときはちゃんと目を見て話せ、それが姉の教えなので」

「お姉さん。あの人かぁ」


 どこか遠い目をして有紗は思い出す。

 ご近所さんに住んでいた怖いお姉さん。

 あまりいい思い出がないのだろうか。

 思い返したくもないと肩をすくめて、


「さぁて、何もしないと言われて残念だけど、お風呂くらいは付き合ってよ」

「は?」

「言ったでしょ。ここのお風呂は広いから気に入ってるって」

「……あ、あの」

「~~っ♪」


 ……。

 やはり彼女は甘い言葉で惑わす小悪魔だ――。

 

 

 

 ホテル見学ツアー、二時間の予定終了。

 ホテルから出た桜雅を待っていたのは、


「――ようやく、出てきたのね。おふたりさん」


 かなり不機嫌そうな梨子だった。

 腕を組んで文字通り、待ち構えていた。


「あ、姉さんだ」

「り、梨子ちゃん!? なんで、ここに」


 さすがに梨子がいるとは思わなかった。

 大きく動揺する桜雅に、


「……お話をしましょうか。アングレカムに来なさい」

「えー、私、コーヒー飲めない」


 悪びれることなく、有紗は言う。

 

「あ、あのさ、梨子ちゃん」

「……っ」

「えっと……はい、ついていきます」


 人生において最大のピンチ。

 無言の梨子に睨まれて、そう言うのが精一杯だった。

 


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