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好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
17/25

第16話:彼を信じて、前に進んでみよ?

 彼女たちが注文したエビ味噌ラーメンが運ばれてきた。

 エビ風味の香りがとてもいい。


「んー、味もこってりとしてるタイプじゃなくて食べやすい」

「スープが麺に合うでしょ。濃厚な海老感が強いのが特徴なんだよ」

「さすがおひとり様の常連。いいお店を知ってる」

「……独り寂しくてすみませんねぇ」


 口の広がる海鮮の風味。

 たまにはこういういのもいい。


「海老だしがすごい効いてる」

「でしょ。お持ち帰りセットもあるんだけど、缶トマトでアレンジしても美味しいの」

「そして、ひとりユーチューブを見ながら食べてる、と」

「……リアルに戻さないで。泣くからね」


 独り身の寂しさをいじらないでもらいたい杏樹だった。

 しばらくはラーメンに満喫する。

 こうして杏樹と食事に来たのはいい気分転換になった。

 桜雅との関係を意識しだしてから気分がモヤモヤしている。


「私が桜雅のことで悩むなんてなぁ」

「幼馴染なのに」

「逆に聞くけど、杏樹って幼馴染いないの?」

「いるよ。男の子」

「その子とどうにかなると思ったことは?」

「……ない」


 なぜか視線をそらして言う。


「杏樹?」

「私とどーにかなる前に、そいつ恋人できました」

「……あらら」

「その恋人の名前を教えてあげよっか。美優だよ」

「あの子の恋人って杏樹の幼馴染だったんだ?」


 意外な組み合わせに驚く。

 美優に恋人がいるのは知っていたが、実際に会ったことはない。


「というか、私が紹介したからね」

「杏樹が?」

「そう。幼馴染の奴に頼まれて。私的に三ヵ月で終わると思ってたのに」

「案外と長続きしてるんだ」

「高校2年の時でしょ。もう3年目か。高校卒業しても続くなんて、美優の方が何だかんだ言いつつも気に入ってるのかな」


 梨子は「複雑な心境になったりはしなかった?」と尋ねる。

 

「幼馴染のこと?」

「そう。彼が別の誰かに取られちゃったわけで」

「取られる。んー、そういう表現の関係ではなかったし」

「そうなの?」

「イエス。どうぞご自由に恋愛してください」


 はっきりと頷いてみせる。


「だって、小中高一緒だったけど別に恋愛対象になったこともない」

「彼は杏樹の好みじゃなかったわけだ」

「それもあるけど。お互いにそこまで気持ちもなかったし」

「……恋愛関係になりそうな雰囲気もなしだった」

「世の中の幼馴染同士が恋愛関係になるかと言われたら10%もないんじゃない?」


 それが現実。

 どんなに幼い頃に傍にいたとしても。

 成長すれば離れていくだけの存在。

 それが幼馴染である。

 決して、世の中の人が思い込むように“幼馴染”は“恋人”に近い存在ではない。


「梨子さんと桜雅君みたいに、恋人になれるかもしれないって意外と珍しいんだよ」

「そうかな」

「そうそう。だって、漫画じゃほとんど幼馴染なんてモブポジションじゃん」

「……なるほど」

「どんなに絆があっても、いきなり現れた美少女や美少年に取られちゃう」

「負けフラグが立ってるポジションか」


 言われてみれば、納得はできる。


「だから、その縁を大事にしなきゃ」

「改めて考えると、年上のお姉さんの家にきて、毎回、洗濯してくれたり、掃除してくれたりする幼馴染は世の中にそんなにいないのね」

「そんなの桜雅君だけだい! ホントに羨ましい」


 稀有な例だと思い知ってほしい。

 桜雅への気持ちに揺れる梨子を励ますように、


「桜雅君。ちゃんと梨子さんのこと、好きだよ」

「……だと、いいな」

「いやいや、ここで自信がない理由なんてなくない?」

「あの子の口癖、一番目はほとんど舞雪。私は二番なのよ」

「あー、シスコンさんだからね」

「私は恋愛的な意味において、舞雪に勝てるのかしら」


 そこが一番の問題だった。

 大切なのも、守りたいのも、常に一番は舞雪。

 でも。


『一番好きなのは梨子ちゃん』


 そう言ってくれた言葉を信じたい。


「ちゃんと、告白してみれば?」

「相手の想いを確認しなきゃ何も始まらない、か」

「うん。私の目から見て、ふたりは両想いだと思うの」

「ホントに? ただの姉的存在じゃない?」


 どうしても気になるのはそこである。


「桜雅君もそれくらい分かってるって。この前も、梨子さんに例の件が誤解されたの、地味にショックそうだったよ。『俺を信じてくれよぉ』って嘆いてたし」

「……あれは悪かったわ」

「彼を信じて、前に進んでみよ?」

「信じる、か。そうよね。あの子を信じよう」


 彼女は覚悟を決めて、桜雅と向き合うことにした。

 いつまでも先延ばしにしてもしょうがない。

 他の誰かに取られてしまうかもしれない。

 それだけは絶対に避けたかった。


「……あら?」


 そんな時だった。

 スマホが鳴るので見てみると、液晶に表示されたのは、


『美優』


 ここにはいない、もう一人の同僚の名前。


「美優から電話だ」

「なにごと?」

「さぁ? はい、私だけど」


 電話に出ると美優はいつもののんびりとした声で、


『あー、りっちゃん。今、何してます?」

「杏樹と一緒に食事中よ。さっき、誘ったじゃん」

『そうでしたね。私は今、恋人とラブホテル街を歩いてます』

「そんな報告はいらん」


 恋人との生々しい話をされても困る。

 そんな梨子に美優は少しだけ真面目な口調で言う。


『りっちゃん、落ち着いて聞いてくださいね』

「なによ?」

『今、ここで、桜雅君の姿を見かけたんです』

「――!?」


 ラブなホテル街で桜雅の姿を目撃した。

 その事実は彼女を大きく動揺させた。


「え? ひ、ひとりで?」

『そんなわけないじゃないですか。可愛らしい女の子とふたりですよ』

「う、嘘よ。あれは冗談だったんじゃ」


 先日の疑惑は、ただの疑惑で終わったはずだった。

 疑惑は疑惑、だったのに。


『私もびっくりです。二人仲良くホテルに入っていきました』

「桜雅が……?」

『一応、写真撮ったので確認してくださいね』


 そう言われて、電話を切ると、送られてきた画像は、


「本当に桜雅だわ」


 女子に腕を抱きつかれる形の桜雅が写っていた。

 ホテルへと入っていく光景に疑いようもない。

 ドン引きの杏樹は、


「マジだぁ。うわぁ、信じるとか言った後にこれかぁ」

「桜雅の裏切りものめ」


 怒りと悲しみが入り混じり、梨子を困惑させる。


「相手は……あっ」


 そして、相手の少女の顔を見てさらに困惑。


「う、うちの妹じゃん!?」


 なぜか、桜雅の相手は梨子の妹の有紗だった。

 なにゆえに、このふたりがラブホテルに入っていったのか。


「だ、大丈夫、梨子さん? おーい」

「……私、ちょっと行ってみる」

「乱入!? まさかの3人同時プレイ!? ダメよ、破廉恥な」

「するか! うちの妹が手を出してるなんて。最悪な展開だわ」


 彼女は乱暴に財布から3千円をとりだして、


「会計よろしく!」

「おごってくれてありがとー。……あれ、もういない」


 そのまま走り去っていく後姿を見つめる。

 残された杏樹は、


「ホント、素直じゃないやい」


 この騒動の結末がハッピーエンドに向かうことを祈りながら、


「3千円か。これなら残金で追加注文ができる」


 彼女は片手をあげて言うのだ。


「すみませーん。エビシュウマイとエビチリのハーフサイズお願いします」


 今はまだ杏樹には無縁の恋愛。

 恋より食い気の少女に、明るい未来は来るのだろうか――。

 


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