表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
14/25

第13話:今の貴方は疑惑の当事者ですよ

 桜雅のママ活疑惑にアングレカムは緊張感に包まれていた。

 信じたくはない、そう思いつつも、


「ママ活って、大人の女性と金銭的なやりとりで、いろいろとしちゃうやつ?」

「えぇ。女子が男性に、はよくありますけど、今は逆もあるんですよ」


 男子高校生が人妻とママ活で警察に捕まる、などという話もある。

 ただの疑惑ではなく、犯罪になりつつある。


「マジか。ママ活とか、桜雅君……お金に困ってたの?」

「性欲的な意味かもしれませんよ」

「そっかぁ。桜雅君はエロい子だったのか」


 杏樹は「純情な子だと思ってたのに、がっかりだよ」と悲しむ。


「……資金面という意味じゃ、忘れてることがあるんじゃない?」


 さっきまで過去回想していた梨子がいきなり参戦してきた。

 もそっと顔をあげて、話に加わる。


「あれ、店長。もう大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないけど。考えてたらちょっと思うところもあって」

「例えば?」

「ママ活ってお金がメインの目的なわけじゃない。桜雅、ああみえて、お父さんは有名企業の子会社の社長。ちょっとしたお金持ちだったりするわけよ」

「あっ。そうだった、ということは?」

「お金には困ってない。ママ活疑惑はありえません」

「というフォロー。店長は桜雅君の味方のようです」

「当然よ。さすがに人妻相手にどうこうは、私は信じないわ」


 これまで休日を一緒に過ごしてきたのは何だったのか。

 騙されていたとは思いたくない。


「……その可能性を消す意味で、私は桜雅の財布の中を見てみる」

「自分がみたいだけじゃないのっ!?」

「止めないで。これはあの子の疑惑を晴らすためなのよ」

「思いっきり、自分が見たいだけな気が……あっ!?」


 梨子はえいっと勝手に桜雅の財布を開く。

 もしも、高額な金額が入っていれば疑惑は確定する。

 気になるお財布の中身は……。


「えっと、2千円。あと100円が二枚。……これだけ?」

「高校生らしく、健全で普通だった」

「微妙すぎて、何とも言えませんね」


 性と欲望に汚れた大金の影もなし。

 ママ活疑惑、終了のお知らせ。

 ほっと一安心した梨子は胸をなでおろす。


「私、桜雅のことは最初から信じていたわ」

「……店長の勝利。あれぇ、ママ活説終了? じゃ、このポイントカードは?」

「この金額では、同級生説もなさそうです」

「残されたのは人妻交際説のみか」

「いえ、もう一人だけ。お相手がいるんじゃないですか?」


 まだ諦めないとばかりに美優は言う。


「相手って? まだ疑惑の相手が?」

「誰よ?」

「彼が最も信頼と情愛を抱く相手、春風舞雪さんですよ」

「――!?」


 桜雅と舞雪はとにかく仲のいい姉弟である。

 先日も、ふたりっきりで温泉旅行に行ったくらいだ。


「旅行に行ったり、デートをしていたりしますよね」

「口癖のようにお姉ちゃんがよく出てくるし」

「い、いやいや、舞雪とだけはないから。普通の姉弟だから」

「えー。仲良すぎる疑惑なのに」

「性的な意味合いだけはないわ。それくらいは信じましょうよ」


 もしも、舞雪が相手ならば梨子は桜雅をどうにかしてしまうかもしれない。


「結局、推理しても解決できなかった」

「……どれも怪しいけど、確信はなかったものね」

「本人を追求してみます?」

「それしかないかぁ。よし、桜雅君を直撃だ」


 アングレカム乙女推理、解決編。

 悩んで考えても答えはでないので、勝負に出る。

 ちょうど桜雅が倉庫整理を終えてやってきた。

 

「終わったよ。資材で足りなさそうなのは……何さ?」


 全員からジーッと冷たい視線を向けられて困惑する。


「桜雅クン、今の貴方は疑惑の当事者ですよ」

「素直に答えないと、ここの出禁もありえます」

「へ? 頑張って倉庫整理してきた人間に何を言うのだ、この人たちは」

「それは感謝します。それとこれは別問題よ」


 梨子は勇気をだして、彼の前にポイントカードを突き付ける。

 この疑惑、晴らさなければ桜雅自身を軽蔑することになる。


「桜雅。これはどういうことかしら?」

「げっ。そ、それは……」

「相手は誰? 同級生、人妻、舞雪。疑惑の相手が多すぎる」

「姉ちゃんだけはないと先に断言しておきます」


 どんなに好きでも姉に手を出すことはない。

 彼女たちが桜雅をどんな風に見てるのか。

 彼は疑惑を払しょくしようと必死になって、


「まず、人の財布を勝手にのぞいた件については」

「桜雅、誤魔化さない。現実問題、これについての詳細を聞いてます」

「……そっちはいいのかよ。はいはい」


 自分のことは棚上げしてのお説教。

 下手に誤魔化しても怒られるだけなので、彼は真実を述べる。

 素直に話せばやましいことなどないのだ。


「俺がポイントを集めたのではなく、もらったものです」

「へぇ、どなたから?」


 ちらっと梨子を一瞥して、彼は「有紗さん」と名前を出した。

 本当の事なので、嘘をつく必要もない。


「有紗? それって、店長の妹さんの名前?」

「ま、まさか、有紗と!?」

「なるほど。姉妹揃って手を出す、いけない子だったんですね」

「桜雅ぁ! うちの妹とそんな関係だったの!?」


 思わぬ有紗の名前に、梨子は怒りをぶつけてくる。


「ち、違います。誤解をしないでください」

「ホントに? 有紗といけない関係じゃない?」

「ありえません」


 頭が痛くなる想いの桜雅は言い訳を並べて、


「まず、これは有紗さんが前の彼氏と集めたもの。それを今の彼氏とは使いたくないと、先日、なぜか俺にくれたんだい」

「……ホントに? 有紗か。あの子なら、これくらいやるか」

「店長の妹さんがラブな場所の常連さん?」

「だから、俺自身は冤罪。無罪。何もしてない。分かってくれました?」

「……」


 乙女たちの推理は大外れ。

 まったく違う結果に。

 顔を見合わせて、彼女たちは何事もなかったかのように。


「さぁて、後片付けをしましょうか」

「今日も一日頑張ったぁ」

「明日も頑張りましょうね、皆さん」


 散々、疑惑を向けられて、言われたい放題だった桜雅を放置。

 フォローも謝罪もない。

 ぽつんと残された彼は大きなため息と共に、


「……解せぬ」


 お姉さんたちを怒ることもできず、嘆くのだった。

 こうして、たった一枚の紙を巡る騒動は幕を閉じたのだった――。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ