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好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
12/25

第11話:やっぱりそういう仲なんじゃん

「うぃっす。手伝いにきたよ」

「桜雅君、いつも助かる~」


 桜雅が学校を終えて店にやってきたのは4時過ぎだった。

 今日は以前から頼まれていた倉庫整理をしにきた。

 力作業があるために、女子では大変なのだ。


「桜雅。さっそくで悪いんだけど、倉庫整理お願い」

「臨時アルバイトに入ります」

「ん? 臨時ボランティアでしょ? ありがとう」

「……やりがい搾取のひどいブラック企業だぜ」


 文句を言いながらも、店の手伝いをしてくれる。

 お店にとっても大変ありがたい存在なのだ。


「ホント、いい子だよねぇ。よしよし」

「頭を撫でられると照れます、杏樹さん」

「えへへ。素直な反応。可愛がりたくなる気持ちがよくわかる」

「……私の時と反応が違わない、桜雅?」

「梨子ちゃんは慣れすぎてるんだよ」


 今さら初々しい反応など期待もできない。


「身の回りのお世話をしてくれる、優しい彼氏。私も欲しい」

「桜雅、モテるねぇ。杏樹が欲しいって」

「ホントに欲しいかも。桜雅君、お姉さんとお付き合いする気はない?」

「……いいの? この子と付き合うともれなく、あの女王がついてくるわ」


 すかさず梨子がそう言って邪魔する。

 その一言に顔を引きつらせる杏樹は、


「ごめんなさい、桜雅君。気持ちは嬉しいけど、無理でした」

「告白もしてないのにフラれた……」

「だってぇ、無理。春風舞雪だけは無理だよぉ。あの人、怖い」


 舞雪の名前におびえる彼女。

 美優も似たような気持ちを抱いているのか、


「同感ですね。さすがにラスボス相手にするのは大変そうです」

「皆まで言うし」

「いくつも伝説を残したお姉さんです。でも、そうなんだよなぁ」


 改めて杏樹はじっと彼の顔を見つめながら、


「桜雅君は舞雪さんの実の弟なわけで。性格が似てなさすぎ」

「いい子すぎますよねぇ。血の繋がりを全否定したくなるレベルです」

「そこを否定しないでもらいたいんですが」


 同級生の彼女たちは間近で舞雪の暴走を見てきている。

 氷の女王が女王たる所以も思い知ってるわけで。


「姉ちゃん、素敵な人なんですよ?」

「「「――それはない」」」


 三人同時にはっきりと言われて傷つく桜雅だった。

 

 

 

 

 彼が倉庫整理を始めて数十分。

 お店も閉店時間が近づきつつある。

 時々、倉庫から物音がするだけで、すっかりと閑散としてしまった店内。

 少し片づけて、のんびりとしていた。


「今日はこれで終わりかな」

「でしょうね」


 杏樹はカウンター席にもたれながら、奥でコップを拭く梨子に、


「この時間帯だけは一息つけるよねぇ」

「今日のランチタイムはいい感じに稼げてよかったぁ」

「店長は気にしすぎだよぉ。いい日もあれば、悪い日もある」

「お店の経営者として、常に気にしなきゃいけない問題なのよ」

「大変だなぁ」


 店の売り上げは彼女にとって一喜一憂するものだ。

 上がると喜び、落ちると凹んだり。

 そんな毎日の繰り返し、いつかまた倒れるのではと心配の杏樹である。

 

「店長。気になるほど、売上げ悪いの?」

「調子はよくても、いつダメになるか分からないのが飲食店なのよ」

「真顔で言われると怖いデス」

「だから、貯められるうちに貯めておかないと」


 ふたりがそんな話をしていると美優が財布をもってくる。

 

「店長、これって桜雅クンの財布じゃありませんか?」

「あー、ホントだ。高校生にしては地味な色合いの財布に、この微妙な感じのゆるキャラのストラップ付き。間違いなく桜雅の財布だわ」

「制服の上着が汚れないように、脱いだ時に落としたんでしょうね」


 財布を受け取ると梨子はにたっと笑いながら、


「これは桜雅なりの優しさね。寄付までしてくれるなんて優しすぎ」

「や、やめなさーい。桜雅君が可哀想でしょうが」

「無償のボランティアに、お財布まで取られたら鬼ですよ」


 さすがにそこまではしない。


「冗談よ。桜雅の財布かぁ。今時の男子高校生のお財布事情が気になる」

「だーかーら、やめなさいっ。店長、親しき仲にも礼儀あり」

「そうですよ。人様の財布の中をのぞいたら、めっですよ」

「えー。気にならない?」

「なりません」


 真っ当な意見で否定されてしまい、梨子は頬を膨らませた。


「店長だって、財布を見られたら嫌でしょ?」

「エステじゃなくて、接骨院のスタンプカードとか見られたら恥ずかしい」

「腰痛持ちだから針治療してるんでしたっけ?」

「おばさんっぽい」

「うるさいなぁ。そうだ。ふたりもやってみたらいいわ。すっごく効くから」

「痛そうなので嫌です。私、注射も嫌いですし」


 などと話していると、


「あっ」


 つい、うっかりと、梨子は財布を床に落とす。


「いけない、財布を落としてしまったわ」

「……嘘つけ。思いっきり、わざとでしょ」

「わざとじゃないわよ。この変なストラップが邪魔で」


 拾いあげると、財布の中から何かカードが落ちた。


「何だろう?」

「中身は見ない。変なカードだったらどうするの」

「杏樹は意外に真面目な子。あの桜雅の財布に、変なものなんて……?」


 その落ちたカードはどうやらスタンプカードのようだ。


「ん? あの子も接骨院とか行ってるのかしら」

「店長と一緒にしないで。あれ?」


 彼女達の視線がそのポイントカードに集まった。

 それはピンク色の文字で『ラブエンジェル』と書かれている。


「何これ? らぶえんじぇる? んー?」

「え、えっ!? あー、えー?」


 思わぬ店名に戸惑う杏樹と「あらら」と口元を押さえる美優。

 どちらもそのお店は知っている様子。


「うわぁ。店長と桜雅君、やっぱりそういう仲なんじゃん」

「何を言ってるの、杏樹?」


 ワケも分からず、きょとんとする梨子。


「店長の趣味ですか? 噂では内装は女子向けで可愛らしいと聞いてます」

「内装? 何の話かよく分からないんだけど?」


 素で尋ね返す始末。

 事情が分からない梨子に、二人は顔を見合わせながら、


「あれ、店長が気づいてない?」

「もしかして、もしかすると。身に覚えがないのかもしれません」

「……ということは、別の誰かと?」

「ということになりますね。そういう場所ですから」

「で、でも、だって……あの桜雅君が?」


 こそこそと話をするふたりに、「何よぉ」と梨子は説明を求める。


「このお店がどこのものか知ってるわけ?」

「話程度に。相手のいない私には行く機会もないので」

「噂程度に。別の所を利用したことはありますけど、ここは利用しないので」

「どういうところよ? えっと、中は……あら、満タン。次回ご利用時に、全室50パーセントオフ? なんだ、カラオケ店か何か?」

「間違ってはない。けど、違うんだよ、店長」


 どこか気恥ずかしそうに杏樹は言う。


「何よ。もったいつけずに教えなさいよ」

「い、いいのかな。……それ、loveなHotelのカードです」

「らぶな、ほてるの?」


 理解できずに梨子は「?」と改めて見る。

 ラブホテル『ラブエンジェル』。

 郊外でそれ系の店舗が集まるエリアの住所が書かれていた。

 もう一度だけ確認して「マジで?」とカードを手に持ち硬直する。

 

「イエス。なんで、それが桜雅君の財布から出てきたのやら」

「し、知らないわよ。えー?」


 いつのまにか、幼馴染は大人の階段を数段飛ばしで登っていたのである。

 驚きを隠せない。


「念のために聞きますけど、店長が桜雅君とここをご利用したことは?」

「あ、あるわけないじゃんっ!?」

「……ですよねー。となると、お相手はどなた?」

「心当たりとかはないんですか?」

「な、ないです。だ、だって、桜雅は恋人いないもん。そのはずなのに」


 そんな相手がいれば、当然のことながら気づくはずだ。

 ポイントカードは全部押された状態だ。

 つまり、それだけの回数、その店舗を訪れているということになる。

 

「あ、あの桜雅が……ラブな場所の常連さん?」


 嘘だと、信じたくない、という事態が発生した――。

 


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