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好感度99%の恋愛  作者: 南条仁
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プロローグ:どうせシスコンですよ

 春風桜雅(はるかぜ おうが)には大切な幼馴染がいる。

 幼い頃から弟のように可愛がってもらい、慕っている相手。

 実姉と彼女、二人の姉が桜雅は大好きだった。

 どこに行くのにも一緒についていき、彼女たちも連れまわしていた。

 人間関係においては親密ともいえる間柄。

 しかし、成長と共に少しずつ距離は生まれるもの。

 特に年齢差はどうしようもない。

 桜雅が中学生に入れば、彼女は高校生。

 中途半端な3歳差、一緒の学校に通うという時期は小学生以来ない。

 幼馴染なんていつまでも続かない。

 少しずつ会わなくなり、距離ができて。

 大人になれば、それぞれの道を歩み、いずれ思い出の中に押し込められる。


「――そう、思っていた時もありました」


 桜雅が高校2年生になって最初の休日。

 4月上旬、最後の週末はまさにお花見も最後。

 今年は気候的にいつもよりも桜の花が長く咲いてくれた。

 

「やっぱり春は俺の季節だ」


 春風桜雅、まさに春生まれのための名前である。

 桜雅は自分の名前と同じ桜の花が好きだ。

 散りゆく花びらを眺めながら、


「いつか終わって、消えてなくなる。それが幼馴染だよな」


 幼い頃に遊んだ、思い出の中の友達になっていくもの。


「まさかこの年齢になっても、何も変わらず関係が続くとは思わなかった」


 年齢を重ねても変わらず良好な関係は継続中。

 非常に稀有な例だという自覚はある。


「……このままでいいのか悪いのか」


 それに答えを出すのは何年先になるのやら。

 未来のことなんて誰にも分からないものである。


「さぁて、行きますか」


 自分が住むマンションの近所のマンション。

 主に女性が多く住んでいるため、セキュリティーもしっかりしている。

 もはや、顔見知りとなった管理人さんに挨拶をして、中へと入る。


『永井』


 ネームプレートに書かれた名前。

 通いなれた部屋の扉のインターホンを鳴らす。

 

「……返答なし、か」


 想像通りなので、特に気にすることもなく。

 

「入るよー」


 一言だけ声をかけて、桜雅は合鍵を使い、勝手に中へと入る。

 勝手知ったる他人の部屋。

 目の前に広がるのはレイアウト無視に適当に置かれた物や段ボール箱。

 床はあちらこちらに、ゴミが散乱する。


「相変わらず、汚い。これが女子の部屋だと思うと幻滅するし」


 “年頃の女子の部屋”という言葉にすらときめきを感じる男子高校生諸君。

 これが女子の現実だと、幻想をぶち壊す光景。

 どこにでもある、一人暮らしの男子の部屋と言う感じだ。


――乙女らしさは微塵も感じさせない。これが梨子ちゃんクオリティ。


 あちらこちらに散らばるスーパーの袋、中にはごみが詰め込まれている。

 悪臭こそしないが、精神衛生上よろしくない。


「おかしい。先週末、掃除したはずなのに」

「それくらいじゃすぐに汚れるわよ」

「堂々と言うべきじゃないっ」


 女子力皆無の称号を与えたい、この部屋の主。


「やぁ、桜雅。今日もご機嫌だね」

「そう見える?」

「愛しのお姉ちゃんに会いに来て、ご機嫌ななめなわけがないじゃない」

「愛しのお姉ちゃんに会いに来て、げんなりしてるんだけどね」


 彼女はラフな格好でソファーに寝転がっていた。

 綺麗な太ももが大胆にスカートからのぞいている。

 お姉さん系の美人なルックスに、スタイルのいい体付き。

 さらさらなセミロングの茶髪がよく似合う、見た目はかなりの美人さん。

 彼女の名前は永井梨子(ながい りこ)。

 年齢は19歳なので桜雅とは3歳違い。

 昔からの口癖で桜雅は“梨子ちゃん”呼びを続けている。


「梨子ちゃんはもうちょっと、乙女らしさを気にするべきだ」

「してるわよ?」

「してません。せめて、ゴミはゴミ箱へ。それだけでもずいぶんすっきりするよ」

「定期的に桜雅が片付けてくれるじゃない。自動運転を開始してください」

「俺は掃除ロボか」

「えいっ。ポチッとな」

「頭を撫でるな。ボタンじゃない」

「ふふふ、可愛い私の桜雅。さぁ、掃除をしてください」


 幼馴染にプライベート空間を片付けさせないでもらいたい。


――はぁ。乙女の部屋ってどこにあるの?


 遊びに来るたびに彼女の部屋の掃除をさせられる。

 幼い頃からの付き合いがある幼馴染同士。

 お互いに遠慮も配慮もない。


――愚痴っていてもゴミの一つも片付きやしないぜ。


 さっさとゴミを片付け始めることにする。


「ほら、梨子ちゃんも手伝いなさい」

「えー、しょうがないなぁ」

「自分の部屋だろ。まったく」


 呆れた口調で彼は彼女をたしなめた。

 床に落ちたごみを袋に詰めていると、隣でじっと見つめてくる。


「ん? 桜雅、もしかしてまた身長伸びた?」

「何を久しぶりみたいな感じで言っております?」


 少なくとも週3回以上は会っている間柄である。


「改めてそう感じるのよ。成長してるじゃん、男の子だなぁ」

「俺、梨子ちゃんを女子だなぁ、と感じる機会がホントに少ない」

「十分に女子でしょうが!」


 むすっと梨子はふくれっ面をしながら、


「こうみえて、素敵女子として男子を篭絡しまくりなのに」

「はいはい」

「はいはい、って軽く流すな。傷つくじゃん」

「それなら女子力あるところを俺に見せてくれ」


 抗議する彼女を適当にあしらい、手慣れた様子でゴミ袋をまとめていく。

 テーブルには空き缶が積み重なってプチピラミッドと化している。


「こんな足の踏み場もない部屋によく男子を呼べるなぁ」

「うふふ。桜雅しか呼ばないから大丈夫」

「女子力低めすぎて、将来が心配になるぞ」


 梨子は掃除と片付けができないタイプなのである。

 散らかし放題、好き放題のありさまだ。

 ゴミさえなければ、女子の部屋として認めてもいいかもしれない。


「何よ。桜雅だって、恋人らしい恋人ができたことがないくせに」

「俺は姉ちゃんが恋人を作るまでは、作らない主義のつもりです」

「それ、未来永劫に結婚できなくない?」

「失礼な! まぁ、姉ちゃんはマイペースだからな」

「……マイペース。いえ、ただの女王様なだけです」

「相手に合わせることをまずしない人だから。俺のように合わせられる相手にめぐりあえないと難しいな。うん」

「それが無理だと思うの」


 春風桜雅、シスコンの部類に入るお姉ちゃん好きな性格でもある。

 恋愛的な意味ではなく、家族愛が強すぎるのだ。

 大学生となって、家を出て行った姉を常に心配する。

 

「もし、あの子に彼氏ができたら寂しい? 邪魔する?」

「いや、祝福する。姉ちゃんが選んだ人なら文句は言わない」

「あら、大人だわ」

「ただし、年収や生活力、将来性のチェックはさせてもらいます」

「やっぱり子供だ。このシスコンめ」


 桜雅は「どうせ、シスコンですよ」と受け流す。

 姉に悪い虫がついたら徹底対抗してやるつもりでいる。

 それほどに姉を大事に思う自他ともに認める“シスコン属性”である。


「可哀そうに。姉に人生を賭けるせいで結婚もできないなんて」

「最終的には俺が姉ちゃんを養えばいいだけでは?」

「あ、姉と事実婚する気か、こいつ!?」

「……事実婚って」

「ダメだからね! あの子と不埒な関係にだけはさせない」

「姉ちゃんと俺を変な関係に見るのはやめてくれ」

「えー。“シスコン=姉と結婚”の略だと思ってた頃もあったくせに!」

「それはねぇよ。はい、片付け終了」


 話を誤魔化すように彼は掃除を終えた。

 大きな袋にまとめあげて、部屋の片隅に転がす。

 ようやく片付いた部屋を眺めて、


「……ゴミがなくなると、一気に女子の部屋っぽくなる不思議」

「ここに可愛い女子が住んでいるからね」

「悲しいけど、この光景は桜が散る方が先か、部屋が汚れる方が先か」


 多分、後者の方が早いと思われる。

 

「うわぁ、綺麗になったじゃん」

「あとは頑張って維持をしてくださいよ、お姉ちゃん」

「うん、努力はする」

 

 なんだかんだ言っても、桜雅はシスコンである。

 隣で喜ぶ姉的存在が笑ってくれるとそれだけでこちらも嬉しくなるのだ――。

 


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