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第8話 積み木で遊ぼう!


 父の意向なのか、記憶を取り戻した後、俺は早々に一人部屋に移された。

 夜は一人で寝て、昼間にローズがやって来る感じだ。

 ベッドもベビーベッドではなく、普通の大人用を与えられた。


 お城で一人で寝るとかゾッとするが、なんとか耐えている……俺は神童と思われているんだ。毎晩、泣きそうだなんて内緒だ。

 幼児だからか寝つきがいいことだけが救いだった。

 あと、ケルビンの世話を見なくてよくなって楽になったかな?


 そんなわけで以前、ローズやケルビンと一緒に寝ていた部屋ではなく、自室に戻る。

 ローズがイラクサを編んだマットを敷いた床に下ろしてくれて、おもちゃを持って来てくれる。幼児に持てるくらいの大きさに木を四角く切り出したこれは、いわゆる積み木だ。


 この世界にはパソコンとかテレビゲームみたいな便利なものはないので、仕方なくこんなもので遊んでいる。

 楽しいかと言われると微妙だが、他にやる事もないしな。

 ペタンと床に座り込んで、木切れを慎重に積み重ねていく。


 まだ手つきがおぼつかないので、ただ積み木を重ねるだけでも神経を使う。集中していないとすぐに倒れてしまうのだ。

 リハビリとは少し違うが、幼児の身体を上手に動かすための訓練だと思って続けている。


 慎重に慎重に、今まで積み上げてきたものの上に手の中の木切れをコトンと乗せる。

 作品を崩壊させずに重ねる事ができて、俺はホッと息をついた。


「その……何を作っていらっしゃるんですか?」


 飽きもせず何日もかけて俺が部屋の床に作っているのは、この城のジオラマだ。


「お城だよ、ローズ。こないだ、父様に見取り図を見せて貰ったからね」


 答える俺に、ローズはハァ?と怪訝そうだ。


 城の住人や街の人々に狼たちの城(ウォルフスフェステ)と呼ばれるこの城は、石造りの堅牢な建築物だ。

 西洋の城と言うと、フランスのヴェルサイユや、イギリスのバッキンガム宮殿なんかを思い浮かべる人もいるかも知れないが、この城はそんなに絢爛豪華じゃない。


 山間に聳えるこぢんまりとした石の城を想像して欲しい。

 せいぜいイメージ的には砦くらいなものだ。

 そうは言っても日本の一般家屋よりは遥かに大きいわけだが。


 その昔、野盗が使っていた根城を改築して使っているのだとか。

 野盗の前は古代の王族の城だったのか砦だったのか、もはや由来も定かではないようだ。


 城は正面が重厚な真四角の建物で、左右に見張り塔があって、その北側は東棟と西棟に分かれている。

 俺や母様が住んでいるのは東棟の方だ。

 他には敷地内に常駐している兵士の宿舎なんかがあって、その周囲をグルリと城壁が取り囲んでいる。

 そして裏側には岩肌むき出しの崖がそそり立っている。


 どう考えても住居じゃなくて、バリバリ戦闘する気まんまんの城だな!

 文明が発達してない世界って怖い……。

 だがまぁ、生まれてしまったからには仕方ない。俺もこの国の王子として、生き残れる程度には頑張ろうと思っている。

 この積み木のジオラマは、城の構造を知る手始めだ。


 ここが入り口。左右の見張り塔代わりに高く積み木を積み上げて。エントランスホールの先の回廊を囲むように積み木を置いて、と、父様の膝の上で見た城の見取り図を思い出しながら床に積み木の城を作りあげていく。

 一回、チラッと見ただけなのに瞼を閉じるとまるで写真のように鮮明に細部まで思い出せる。

 この身体はずいぶん、記憶力がいいみたいだ。


 積み木が足りなくなってきたので父様に可愛らしくおねだりしたら、追加でホイホイ作ってくれた。実際に作ったのは職人だが。

 父はこれでもかって言うほど親バカで、俺には呆れるほど甘い。


「ルーカス! たくさんの積み木ってこれくらいでいいのか!」


 王様だって暇じゃないだろうに、腕に溢れんばかりの木切れを抱え込んで俺の部屋まで持って来てくれた。


「う、うん。ありがと……」


 あまりの溺愛っぷりに、ちょっと引いてしまった。

 こんなに甘やかされてて、もし前世の記憶がなかったら俺はどんな子に育ったんだろうと心配になってくる。

 大人の記憶があって良かったな。


 それからもせっせと制作を続けていた俺の力作はある日、騒々しく部屋に駆け込んで来た父様に蹴り飛ばされてこっぱ微塵になった……レゴとかと違ってただ単に重ねていただけだったからな。


「ルーカス、すまんっ! わざとじゃないんだ……!」


 父様は平謝りに謝ってきたが、しばらく口を聞いてやらなかった。

 子煩悩な父は俺の機嫌が直るまで、ずっと寂しそうにショボンと肩を落としていた。


 この人は粗野でがさつで威厳とかなくて、本当に王様なのかと疑ってしまう。

 まぁ、そんなところが気さくで親近感が持てると、国民や家臣には慕われているようだが。

 ……悪い人じゃないんだ、うん。


「まったくもー、次はないですからね!」


 むくれながらも俺が渋々、許してあげると、父は途端に笑顔になって俺を抱き上げた。軽々と高い高いされる。


「ルーカスくんは凄いなー。次は何を作ってくれるのかなー?」


 本当に反省してるのか、この人は。


「もうしばらく、あんな大きい作品はいいです」

「そんな事言わずに、もっと頑張れよ、なぁー?」


 猫撫で声で父は俺に頬を擦りつけてきた。

 何が悲しくて三十代のおっさん同士でほっぺたを擦り合わせたりしなくちゃいけないんだ。

 それにこの世界のカミソリはあまり質が良くないのか、剃り残した無精髭がザリザリして痛かった。


「もー、父様ったら!」


 両手で顔を押しのけようとしたが、大人の腕力にはまるで敵わなかった。

 ぶすーっと頬を膨らませても、それすらも可愛いと、父様は締まりなくデレデレと笑った。


 この人はあれだな。前世だったら毎日子供の成長ビデオとか撮って、スマホの待ち受けや年賀状にも子供の写真を使うタイプだな。

 この世界にビデオやカメラがなくて良かった。


 俺はやれやれとため息をついて、困り者の同僚を見る目つきで父様を眺めた。

 どうもこの人と触れ合う時は父親って言うより、友達みたいな感覚になってしまう。前世の俺と年齢が近いからだろうか?

 急に真顔になった俺に、父様はきょとんと不思議そうな顔を見せた。


 

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