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第8話 騎士団と朝トレ!

 

 罰だったはずの俺の筋肉トレーニングは、それからの日々に組み込まれて日課になってしまった。

 まだ日も明けやらぬ薄暗さの中、眠い目を擦りながら起き出して、宿の横の広場などで行われる騎士団の訓練に混ざる。


 三日目くらいまでは俺がいつまで持つか賭ける奴らもいたが、その内、誰にも何も言われなくなった。

 分隊長の方針なのか、毎日、一人ずつ違う奴が俺の隣について補佐をしてくれる。


 こいつらは貴族の三男とか四男とかなので末っ子が多いはずなのだが、中には更に下に弟がいる奴もいて、そいつらは教えるのも上手かった。

 代表はセインか。こいつん家、五人全員、男なんだよな。その次男坊だから下に三人いるはずだ。


 一巡する頃には俺は騎士団の面々をあらかた把握していた。

 例えば、城でアレクと一緒に俺に突っかかってきていた三馬鹿の一人。右側に控えていた無口の大男はルートヴィヒ。通称ルッツ。力自慢で気は優しい。

 少々、自分の頭で考えるのを放棄する傾向があって、大抵、セインやアレクに従っておけば間違いないと思っている節がある。周囲に流されやすいって事だな。


 もう一人はお調子者のユリアンだ。どこを見ているのか分からない糸目で、緩いウェーブを描いた薄い茶色の髪を耳の横にサラッと流している。

 せいぜい三枚目に毛が生えた程度だと俺は思うのだが、自分ではセインの(顔の面で)ライバルのつもりらしい。女の子を見ると声をかけたそうにうずうずしている。こう見えて凄く目がいいので、斥候をこなす事もあるのだとか。


 他にも一筋縄ではいかない個性的な奴らばかりで、分隊の選考基準を疑いたくなる。腕はいいが、比較的、対人に問題のない温和な奴を揃えたんじゃなかったのか。

 こいつらが温厚に見えるとか、祖国の軍人たちはどんだけ曲者揃いなんだと疑いたくなる。


 マーナガルムは軍事国家で、すべからく成人男性は全員、戦う事を義務づけられている。

 農家のおっちゃんも、十四、五歳の若者も、いざという時に臆する人間などいない。

 有事には女性も剣を取るのを厭わないほどだ。


 常設の軍隊は四つ。

 まずは貴族の子息で構成される騎士団。ここはあまり人員は多くない。

 主に城の警護や、王族の護衛任務にあたっている。父の親衛隊もここに属している。

 マーナガムルの騎士は、前世の中世みたく領地を与えられた貴族ではなく、いわゆる職業軍人だ。


 民間人が登用される民兵団が一番規則が緩く、人数もわりかし多い。最近は戦も少ないので気軽に入る若者も多いようだ。

 城や街の巡回警備や、治安の維持、はては道の整備や橋の建設なんて土木事業もこなしたりする、なんでも屋だ。


 戦いの要となるのは、やはりそれぞれの辺境伯が抱える辺境軍と、ほとんど国外に派遣されてばっかりの傭兵団だろう。

 彼らは歴戦連勝。戦場にたなびく赤い双狼の旗を見ると武器を放り出して逃げる敵兵もいるくらいだとか。あれは楽で良かったぜ、とヒューゴさんは笑っていた。


 そんなわけで平時でも国の成人男性の四分の一がいずれかの軍に属し、国家予算の三分の一が軍事費と言う、マーナガルムは戦いに全振りした、ちょっと異様な国だ。発展しないわけだよ。

 脳筋たちは今日も筋肉を比べあったり、打ち込まれてできた青痣を楽しそうに見せあったりしている。マゾなの?


 エラムたち文官が肩身狭そうにしていたのも頷ける。

 ていうか、エラムは軍人嫌いなんだよな。

 兵法の授業で、命令に従わないあのアホどもとか散々罵っていた。

 反対に無茶ぶりしてくる元宰相を軍側も苦々しく思っていたはずで。


 え? ちょっと待って。もしかして俺、第一王子派とか第二王子派とかは置いといて、エラム対軍の喧嘩に巻き込まれてただけなんじゃないの?

 あんのクソジジイー、自分に都合の悪い部分の説明は省きやがって!


 確かに能力的には文官側にならざるを得ない俺だが、師のように兵士を盤上の駒として見ることは絶対にしない。

 ちゃんと一人一人と仲良くなりたいと思っておりますとも。


「そう言えばアレクは国に置いてきた彼女とかいないんですか?」


 騎士たちとの訓練もちょうど一巡し、今日はまたアレクの番らしい。訓練終わりに汗を拭きつつ雑談にいそしんでみる。


「なっ、なんで俺を名指しするんですかっ」

「だってー、セインに聞いたらむかつくじゃないですかー」


 近くで水を浴びているセインは無言。

 最近では俺のイケメンアレルギーも周知され、あまり奇行と思われなくなってきていた。

 と言うか一部、理解を示す隊員もいたほどだ。


 フンッ。シックスパックなんか見せつけやがって。俺が見たいのはお前のお色気シーンじゃねーよ。


「ていうか、セインは女性の見送りがいなかったですね?」


 城での見送りシーンを思い出して聞いてみる。家族との会話もそこそこに、セインは比較的早く馬上に跨り出立を待っていた一人だ。

 隣にはアレクの姿もあったはずだ。


「父や兄がいましたからね。遠慮していただいたんですよ」


 前髪をかき上げ、滴る水もそのままにセインが近づいてくる。夏なのですぐ乾くと思っているようだ。

 どうしてお前はそうイチイチ、全ての動作をキラキラさせるんだ。

 ザイデル騎士団長は厳しそうだからな。息子が複数の女性を連れて俺たちの別れを邪魔なんかした日には、問答無用で切り捨てられそうだ。


「よく騒動にならなかったですね」

「皆さん、きちんと話したら分かって下さいましたよ」


 ニッコリと微笑む笑顔が目に痛い! イケメンビームが突き刺さる!

 複数形は否定しないんだな。

 これ以上、セインを見ていると刺したくなってくるので、クルリとアレクに向き直る。

 話題が逸れたとか安心してんじゃねーぞ。


「それで、アレクはどうなんですか?」


 半ば八つ当たりで、俺は無邪気な子供を装って、ねぇねぇとアレクをせっついた。

 イケメンに受けた心のダメージは、アレクをからかって癒すに限る。


「どう、とは?」


 往生際が悪く、タオルで顔を拭きながら目を泳がせて、アレクはまだ言い逃れる方法を模索していた。


「お見送りはどなたが来られたんですか?」

「あぁ、俺も父と兄たちが……」

「では、女性とのお別れは前の日に済まされたと言うわけですね!」


 ここぞとばかりに言葉を遮って一撃を加える。アレクはグッと喉を鳴らして黙り込んだ。

 その肩越しにユリアンことユーリが、ニマニマとした顔を覗かせる。


「アレク先輩の別れは一週間前ですよ、殿下」


 ぷにぷにと頬を指でつつかれて、アレクは不機嫌にその腕を振り払った


「バッ……おい、やめろよ、ユーリ。殿下にお聞かせするような話じゃない」

「えー、先輩だけ話さないとかずるくないです? あ、殿下、ちなみに俺はお見送りに来ていただいてましたー!」


 ハーイ、と元気良くユーリが片手を上げる。

 うん、ユーリの場合は多分、女友達じゃないかな。交友関係は広そうだが、深い仲の人はいなさそうだ。

 残念イケメンだからこいつにアレルギーはない。


 いつの間にか、隣にのっそり立っていたルッツは無言。


「お前はゼロだよな」


 ユーリにバシンと腕を叩かれても、嫌そうな顔もせずコックリと頷いている。

 分隊で一番背が高いルッツだが、こう見えて歳は一番下で十六歳。まだまだ女性といるより身体を動かす方が楽しいんだろう。


「アレクの話もぜひ聞きたいですね」

「いいっすよ。先輩、出立の一週間前に街のお針子の女の子に……」

「やめろって言ってんだろ!」


 アレクにヘッドロックをかけられて、ユーリはグェッと言葉を詰まらせた。アレクの必死の形相を見るにつけ、上手くいった話ではなさそうだ。

 告白がお別れになっちゃったパターンか。

 不憫だ。

 アレクの背中をポンポンッと叩く。


「いつかアレクの良さを分かってくれる方が現れますよ」

「殿下も、勝手にお察しして哀れみの目で見るのはやめていただけますかねー?」


 とまぁ、こんな具合で騎士団の面々との交流も順調だ。中でも一番年が若いと言うのもあって、この四人が側にいる事が多いかな?

 セインがたるみきった俺たちに、パンと手を叩いて注意を引く。


「いつまで遊んでいるんだ。そろそろ飯の時間だぞ」

「ハイ、副隊長殿!」


 揃って敬礼する三人の横で、俺も真似して敬礼する。

 その様子を微笑ましく思ったのか、道行く人からクスクスと笑い声が上がった。


 ヒソヒソとした喋り声の中に、どんな粗野な人たちかと思ったけど普通の若者なのね。彼の国はあんなに見目麗しい人たちばかりなのかしら。王子様も混ざっちゃって可愛らしい、とか聞こえてくる。

 他国でのイメージアップも順調だな。けっして何も考えずに、たわむれていたわけではない。



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