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第31話 騎士団との邂逅

 

 うずうずと騎士団の連中を眺めていると、俺に見られている事に気づいたその内の数人が近寄って来た。

 ラッキー。


「何か御用ですか、ルーカス殿下?」


 奴らは俺の前で、ことさらに慇懃無礼にお辞儀をしてきた。

 まだ手に持っていた剣を腰の鞘に収めて彼らに向き合う。


「いえ、皆さんは兄上とは親しいんですか?」

「えぇ、アルトゥール殿下は良く我々と稽古をなさいますよ」

「素晴らしいですね、さすが兄上! もうすでに大人と一緒に稽古をしていらっしゃるとは!」

「え……は?」


 俺の称賛の言葉に、先頭に立つ男は態度を取り繕うことも忘れて眉を寄せた。

 ちょっと面長で間抜け面をしている。年は騎士団の中でもそこそこ若い方だろう。十七、八歳くらいか。

 十七歳って言うと前世では高校生くらいだが、十五歳が成人のこの世界では普通に大人だ。


「それで、兄上はもう五歳の頃には対人で稽古をなされていたわけですよね」

「そ、そうですね。陛下の幼い頃にそっくりで、剣の腕前も遜色ないと……」

「あぁ、その頃の兄上にお目にかかりたかったですね。あ、でも僕は生まれたばかりなのか……(チッ。まだ記憶がない頃か)……残念です……(なんで俺は二年近くも兄上に会う機会を逃してたんだろうな)……御覧になった皆さんが羨ましい」


 両手を胸の前で組んで、憧れのアイドルの関係者に出会ったオタクがごとく、俺はとうとうと喋り続けた。

 たまに小声で本性が覗いてしまっているのは……ちょっとヒートアップしてしまったとしか言いようがない。

 若い騎士たちはタジッと後ずさってしまっている。


「剣の才能のない事に気づいて負け惜しみを……」


 口の中で呟いた男をキッと睨みつける。


「今は僕の話はいいんですよ! 兄上の話です!」

「あ、はい……」

「それで、兄上は今、騎士団とどのような稽古をされていらっしゃるんですか? 今度、見学に行ったりできないですかね?」

「え、そ、それは……」


 完全に俺のペースに巻き込まれて、騎士団の男たちは右往左往と視線を巡らせた。

 バカだな。

 オタクにネタを振ってはいけないなんて日本では常識だろ。こんな初歩的なミスをおかすとは。

 特に美少女キャラも幼なじみ設定もないこの世界、俺は母様と兄上の事なら一晩中でも語り尽くす自信があるぞ!


 ニコニコと(ニヤついた)笑みを張りつかせて迫り来る俺に、騎士団のアホ共は困り果てて助けを求めるようにチラッと後ろを振り返った。

 様子を見守っていた一団の中から、一人の青年が進み出る。


 太陽の光を受けて煌めく金髪。海のように深い青い瞳。真っ白い歯がキラッと光っている。


 イ、イケメン……イケメン王子だ!

 身分的には俺の方が王子だが、まさに世の中の女性が夢見る王子様って感じだ。白馬とか乗ってないかな。

 こいつの事は知っている。セイン……えーと、ミドルネームは忘れた。ザイデル騎士団長のとこの次男坊だ。歳は十七歳くらいだったと思う。こいつらの友人だったのか。


「ルーカス殿下、お久しぶりです」


 セインは俺の前までやって来ると優雅に頭を下げた。洗練された動きに、少し長めの前髪が顔の横でサラリと揺れる。

 イケメンって何をさせても絵になるよな。

 そして、こいつは自分の顔がいいのを分かってやってるからイケ好かない。


「我々の仲間が失礼な事を申し上げて、申し訳ございません。ほら、お前らも謝るんだ」


 セインに促されて、三馬鹿は渋々と頭を下げる。


「失礼致しました」

「すみません」


 ムスッとした態度なので謝っているとはとても思えないが、もともと何のダメージも受けていないので構わない。


「気にしていません。むしろ、兄上を慕う者同士、仲良くなれるのではないかと思ってます」


 無駄にキラキラしているイケメンビームには、こっちはぶりっ子で反撃だ!

 手を前に組んでモジモジと、できるだけ可愛く見えるようにはにかんでみたが、反応があったのは三馬鹿だけでセインは顔色を変えもしなかった。

 チッ、手強いな。


「ところでセインは最近、兄上と手合わせをしたりしたんですか?」


 聞いてみるが、セインはフフッと微笑むだけで肯定も否定もしなかった。

 うーん、これは相当、場慣れしてるな。


「お戯れを。次の予定がありますので、御前失礼いたします。ヒューゴ殿もお邪魔致しました。ほら、行くぞ」


 そつなく俺やヒューゴ先生に頭を下げると、三人に顎を振って促す。

 ゾロゾロと騎士団の連中が去って行くのを俺はつまらなく見送った。あまり収穫がなくて、イケメン攻撃を食らっただけになってしまったな。


 そんな風に考えていると、騎士たちが姿を消した瞬間に、真横からブワッハッハッ!と大きな笑い声が上がった。

 驚いて隣を見ると、何がツボに入ったのか、ヒューゴさんが腹を抱えてうずくまっていた。


「ハッハッハ……なんだ、お前……ヒーッ……めっちゃおもしれーじゃねーか」


 息も絶え絶えに笑うその合間に、そんな声が聞こえてくる。あまりに笑いすぎて涙まで漏らしている有様だ。

 今のやりとりのどこに笑いどころがあったんだ。

 納得いかず、ムッと眉を寄せる。


「ハー、堪らん。お前、面白い奴だな。気に入ったぜ、ルーカス」


 ひとしきり笑ったヒューゴさんは、目尻を拭って立ち上がりながらそう言った。

 何気にヒューゴさんに名前で呼ばれるのは初めてだ。いつも、小馬鹿にするように王子様と呼ばれるだけだったのだが。


「才能ないとか、関係ねーよ。俺がお前を強くしてやるよ」

「本当ですか!?」


 俺は目を輝かせてヒューゴさんに向き直った。

 棚からぼた餅。渡りに舟。

 世の中、何が幸いするか分からないものだ。


「剣も上手くなりますか!?」

「そりゃー無理だろ。才能ないんだから」


 どっちだよ、とずっこけてしまいそうになるが何とか踏み留まる。


「なにも戦いなんて剣に拘る必要ねーさ。何やっても生き残ればいいだけだ」


 身体中の傷を見るにつけ、死地から舞い戻って来たに違いない人に言われると説得力がある。


「なるほど」


 俺の心のメモに控えておこう。なんだかカッコ良かったしな。


「じゃあ、今から走れ」

「え?」

「今日から毎日、走り込みしろ。まずは身体を作らないと話にならん。そうだな、もう無理と思うまで走ってから、それから更に二町くらい走れ」


 二町……二百メートルちょいくらいだな。もう無理と思ってから二百メートルとか、実はしんどくないか? 稽古もした後だし。


「勿論、それと同時に筋肉も鍛えないといけないがな」

「ほんとに今から走るんですか~? 明日からじゃ……」


 面倒臭さがありありと分かる声で聞き返すと、ヒューゴさんは眉を釣り上げた。


「お前、戦場で敵に、明日から鍛えるので待って下さいって言うのか!?」

「うぅ~……」

「ぐずぐず言ってねーで、さっさと走れ!」


 怒鳴られて、慌てて走り出す。

 そうかー、ランニングかぁ。俺、前世も含めて今までほとんど運動したことないんだけどな。

 やっぱり何も努力せずに強くなるとか、チートな方法はないんだな。

 本当に残念な世界だ。

 ゼーハー言いながら広場を何周かする。

 もういいかなと思ったところで、


「ここまでだ!」


 と、剣でザシュッと地面を示されたので、最後の力を振り絞って猛ダッシュでヒューゴさんの元に戻る。

 よし、というように頷かれた瞬間、俺は地面に大の字にバタンと倒れ込んだ。


 ローズが驚いて立ち上がったようだったが、ヒューゴさんに制されて不審気にこちらの様子を伺っている。

 疲れ過ぎて安心させるために声をかけることもできない。

 ハッハッハッと荒く短い息をつく。

 心拍数が激しい。

 久しぶりに全力疾走なんてしたよ。もしかして前世ぶりじゃないか?


「よーし、その感覚を忘れんなよ。毎日やってりゃ距離も伸びてくる。あとは筋トレだな」


 頭上に、青い空をバックにいい笑顔が見えた。

 あぁー、この人もドSだったよ……どうして俺の側にはこんな人ばかり集まるのか。額に手を当てて空を仰ぐ。

 雲ひとつない夏の空は、恨めしいほどに青かった。



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