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第25話 ょぅじょかゎぃぃ

 

 無言で公園までついていった行きとは違い、俺たちは帰り道を和気あいあいと楽しく帰った。

 しかし、三つ目の鐘が鳴るまでに、って言うのは、鳴ってから帰れって事じゃなくて、鳴るまでには帰ってないといけなかったようだ。


 家に帰った俺はベルタさんにクドクドと叱られた。

 遊んでる最中にミリアがこけてしまって、余所行きの服が土塗れになってしまったのも説教の原因のひとつだ。


「まぁー、何をして遊んだらこんなになるんですか!」


 ちょっと服の裾に土がついただけなのに大げさな。

 なんて反論ができるはずもない。汚れてないのに俺も着替えさせられて、エプロンも新しいのを渡された。


 クロードが呼んでいると言うのでミリアには部屋に戻って貰って、調理場へ行く。

 彼は午前中、俺がミリアに割らせた大量の卵が入ったボウルを前に、腕を組んで渋い顔をしていた。


「これをどうしたらいいんだ。卵なんて割ってしまったら日持ちしないから今日中に使い切らないといけないぞ」


 クロードは背が高くて上背ががっしりとした、あまり料理人らしくない男性だ。傭兵って言われても頷けるくらいだ。

 その彼に目の前に立ち塞がられるとけっこうな威圧感があった。


「卵料理なんていくらでもあるでしょう?」

「しかし同じ味ばかりだとげんなりするし、卵だと腹に溜まらんだろう」


 そう言う事か。ようはあんまり卵料理に見えなきゃいいんだろ。


「奥様と旦那様は帰りが遅い。特に奥様は先方で召し上がってこられるはずだ。だから人数としてはお子様お二人と、俺たちだけだな。エルサは通いなので家に帰る」


 ふむふむ。スーも含めて大人が四人と、成人前の子、それから俺とミリアか。あと、ベーヤー氏の夜食も用意しておいた方がいいみたいだな。


「ミモザのサラダと、ふんわりかき卵のスープ、卵とほうれん草のキッシュに、ポークピカタとかどうですか? 普通ならミモザのサラダにはゆで卵を使いますけど、薄く焼いた卵を刻んで入れてもいいんじゃないですか? それにキッシュなら冷めても美味しく食べられると思います」


 俺がやすやすと料理を羅列したものだから、クロードは子供の癖になんでこんなに調理方法知ってんだ、みたいな目で見下ろしてきた。

 食いしん坊ですみませんね!

 正確なレシピまでは知らないから大まかに覚えている事だけを伝える。クロードは本職だから、ちゃんと形にしてくれるはずだ。


「すみませんが、姉は力仕事をしてきてかなり食べると思うので、女性と思わず若い男並みに用意していただけますか」

「考慮しよう」


 さすがプロなだけあって、調理し始めたクロードはフレンチやイタリアンのシェフみたいでカッコ良かった。

 小さな玉ねぎみたいな野菜の皮をナイフで剥き、手際よくみじん切りにしている。

 いつまでも見ていたい気持ちもしたが、俺にも仕事があるので渋々、調理場を後にする。


 エルサに着替えさせて貰ったミリアは、案の定、痺れを切らして不機嫌になっていた。

 俺が部屋に入って来たのを見て、腰に両手を当ててプリプリと怒り出す。


「ばんごはんまで何するつもりなのよ?」

「そうですね。何をすればいいんでしょうか?」


 俺は二歳からずっと、勉強や研究ばっかりしてたから、この世界の子供たちが何をして遊んでいるのか良く知らない。

 なによそれ、とミリアは若干、不満そうながらも助け舟を出してくれた。


「エルサとは人形遊びとか、おままごととかしてるのよ」


 女の子の遊びの定番だな。

 しかし夕食まであまり間がないし、ミリアが遊びに集中し過ぎて片づけさせてくれなかったら俺がまたベルタさんに怒られそうだ。

 道具を使わない遊びの方が良さそうだな。


「おままごとする時間はなさそうですから、グーチョキパーでもします?」

「あんたって変なことばっかり言いだすのね?」


 ミリアは奇妙そうに俺の事を見上げているが、興味はありそうだ。

 じゃんけんはこの世界にもある。勿論、掛け声は違うが、ややこしいのでじゃんけんと翻訳しておく。


「今度は簡単ですよ。歌を歌いながら、それに合わせて手で形を作るだけですから」


 俺は日本でもおなじみの、グーチョキパーでなに作ろ~♪の曲を歌いながら、手を動かした。


「右手がチョキで、左手がグーでかたつむり~♪……って感じです」


 日本の指を出した右手の上に、左の拳を重ねただけの単純な形を見て、ミリアがプッと吹き出す。


「な~に、それ。めちゃくちゃ簡単じゃない!」

「かたつむりに見えませんか?」

「見えるわよ! 見えるからおかしいんじゃない!」


 ミリアはケラケラ笑っている。四歳って言ったら地球でも就学前の幼稚園児だ。このくらい単純なものが分かりやすいみたいだ。


「他にはですね、右手がグーで左手もグーで雪だるま、とか」

「それはてきとーすぎるわね!」

「じゃぁ、えーっと……右手がチョキで左手もチョキで猫さんです」


 両頬の横に猫の髭のようにチョキを出す俺を見て、ミリアはまたキャッキャッと笑い声を上げた。


「それくらいならミリアにもできるわ!」

「じゃぁ、やってみてください」

「んーと、あのね……」


 ちょっと恥ずかしそうながらもミリアはちっちゃい声でグーチョキパーの歌を歌って、パーの形にした両手をちょこんと頭の後ろから覗かせた。


「右手がパーで、左手もパーで……うさぎさん」


 なんだこれ! めちゃくちゃ可愛い!

 幼女の破壊力、半端ない!!

 俺は思わず口を押さえてへたり込んでしまいそうになりながら、必死に衝動に耐えた。


 子供なんて煩くて手がかかるばっかりかと思ってたけど、前世から数えて四十二年、なんで親が子供に夢中になるか初めて理解したわ。

 こんなの目の前で見せられたらウチの子が一番!になるに決まってる。

 あ~、癒されるわぁ。


 くれぐれも言っておくけど、これは父性みたいなもんであって、やましい気持ちは一切ない。


「凄いです。とっても上手です! よくすぐに思いつきましたね?」

「こんなの大したことないわよ」


 俺が満面の笑みで拍手しながら褒めたものだから、ミリアはほんのり頬を染めながらも満足そうに手を下ろした。

 多分、あんまり褒められ慣れてないんだな。

 何でもない振りを装いながらも、嬉しさが隠しきれていない。


 それからも俺たちはグーチョキパー以外に、じゃんけんぽいぽいとか、あっち向いてホイとかして遊んだ。

 途中でベルタさんに呼ばれて、ミリアが夕食を食べられるように部屋に机や椅子をセッティングする。エルサはもう家に帰ったみたいだ。

 それからクロードが配膳するのも手伝って、ミリアが食事をしている間は側に控える。


 ミリアはまぁまぁ上手に晩ご飯を食べた。キッシュは相変わらず手掴みだったけど、これくらいは目を瞑ろう。


「ぁによ? なんふぁ、もんふあんの?」


 口いっぱいに頬張りながらミリアは、何よ、なんか文句あんの?と言ったようだった。俺を横目でじっとりと睨んでくる。


「いいえ。ごゆっくりお召し上がりください」


 行儀まで教えろとは言われてないからな。他の四歳児のマナーのレベルがどんなものか良く分からないが、零さず食べられてたらそれでいいんじゃないの。

 食事の後片づけをして、ミリアをパジャマに着替えさせて、寝かしつけたら今日の俺の仕事は終わりだ。


 今日一日、色んな事をして疲れたのか、ベッドに入る頃にはミリアは相当、眠そうだった。うつらうつらしながら、拳で目を擦っている。

 俺は伸び上がって、ミリアの肩まで布団をかけた。


「あんた、明日もいるの」


 ベッドに横になったミリアがぽつりと呟く。


「明日も明後日も、旦那様に首だって言われるまではいますよ」

「そう……」


 ほんのりと口元に笑みを浮かべてミリアは寝つき良く、すーっと眠りに入っていった。

 ベルタさんを呼んで、俺には手が届かない部屋の蝋燭を消して貰う。

 俺も結構疲れたけど、朝から一日中働いて充足感がある。やっぱり俺は忙しくしてるのが性に合ってるみたいだ。


「お疲れ様でした。もうお姉さんも帰って来ていらっしゃいますよ。今日はよろしいので食事になさい。明日も早いので、ゆっくり休むように」

「はい。ベルタさんも今日一日、教えていただいて有難うございました」


 ベルタさんに労われて、嬉しくなってペコリと頭を下げる。

 前の職場(前世)では業務の話以外は、おはようございますとお疲れ様でしたの挨拶くらいしか触れ合いがなかったので、ほんのちょっとの気づかいがすごく嬉しい。

 食事を受け取るために調理場に行ったら、なぜかスーがいた。


「あ、ルー。ただいまー」

「おかえり……」


 答えながらも俺は、唖然とスーを見つめた。

 スーは俺のおまけでベーヤー家では居候みたいなもんなのに、我が物顔でキッチンの調理台にもたれて、パクパクとキッシュを食べていた。

 今日が初日なのに、まるで生家のように馴染んでるじゃないか。

 クロードも苦笑しきりだ。


「お前の姉さん、強烈だな? 俺たちの食いもんまでなくなりそうだから止めてくれ」

「ちょっとスー! 人のまで食べたら駄目だよ!」

「え? これ、スーのご飯じゃないの?」

「まったくもー!」


 クロードに平謝りに謝って、俺の分とスーの分(キッシュ抜き)の食事を受け取って部屋に帰る。

 おかずだけになったお盆の中身を見て、スーは指を咥えて不満そうだ。


「それっぽっちしかないの」

「ったく、ちょっとは遠慮ってもんを覚えろよ!」


 俺のは絶対やらないぞと、テーブルの端に置いて威嚇する。

 俺だってしっかり働いてお腹がペコペコなのに、分けてたらお腹が鳴って寝られなくなる。

 多分、ノックもせずに部屋に入って来る人はいないだろうから、カツラを取って椅子の背にかける。いい加減、頭が蒸れてしんどかった。これも慣れるしかないな。


「明日から何か買い食いしてきたら?」

「さすがルー、頭いい」


 スーはおかずもペロリと平らげて、さっさと上段のベッドに入って寝転んだ。ほんとにスーはびっくりするくらい、どこでもすぐに順応するな。

 クロードの腕はさすがに大商会の一族に雇われているだけあって、かなりのものだった。このご飯を毎日食べられると思うと、これからの日々が楽しみになってくる。


 食器を片づけて部屋に帰ると、俺もすぐに睡魔が襲ってきた。

 寝間着に着替えると、万一に備えてカツラを枕の側に置いて布団に入る。


「おやすみ……」


 上段のスーに声をかけたけど、返事を聞く前に俺は即座に眠りに落ちて行った。


 

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