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第14話 前世の記憶で発明三昧?

 

 まず最初に作ったのが湯たんぽだ。

 異世界に来て最初の製作物が湯たんぽとか……まぁいい。


 この国は鉄が普及していて、なんでも鉄で作るので陶器を見かけたことがない。皿やコップなんかも全部、金属製だ。

 鉄で湯たんぽを作ってもいいのだが、陶器の方が保温力があるかなと思った。


「ふーむ、陶器ですか」


 なんの気になしに相談してみたら、エラムが髭を弄りながら目をキラリと光らせた。このじーさんがこんな顔をする時は油断してはいけない。


「確かに儂も以前に見た事はありますが……」


 他国では陶器を作っているところもあるらしい。ウチの国は鉱山があるので鉄製品が豊富なのだとか。

 エラムはよどみなく説明してくれた。


「東方よりもたらされる、人の作りし宝石ですな。小振りで無地のものでも金貨十枚は下らず、色つきであれば途方もない値段になるでしょう」

「え……そんな高価なものじゃなくて、普通の粘土でいいんですけど」

「なんとっ、殿下は陶器の制作方法を御存じなのかっ!?」


 興奮したエラムが口から泡を飛ばしながら詰め寄ってくる。顔が近い、近いって。


「師よ、落ち着いて下さい。さすがに僕も制作方法までは知りません。だから相談しているんです」

「ふーむ……粘土。粘土ですか……」


 冬なのでエラムが暇している農民に頼んで粘土を探してくれた。俺は小さいからか、まだ城から出して貰えないからな。

 山間の国なので粘土はわりとすぐに見つかった。成型も別に壺とか作るわけじゃないので、ろくろも必要なく簡単だった。


 湯たんぽと言っても、日本ですぐ思い浮かべるような楕円形をふたつ張り合わせた形ではない。

 それは難しそうだったので、下はグラグラしないように平らにして、上部が半円形で、水を入れる口に木の栓をはめられるようにした。


「次はいよいよ焼成ですな!」

「上手くいきますかねぇ?」


 問題は陶器を焼く窯だったが、俺が修学旅行とかテレビで見て覚えている限りを伝えると、エラムがまたもや農民たちを使って城の裏庭に製作してくれた。

 それらしい窯ができて俺たちはご満悦だったのだが、最初の頃は失敗続きでげんなりした。

 なにせ、何度焼いても陶器が粉々に大爆発するのだ。


 後に分かったが、爆発する理由はおおまかに三つあった。

 ひとつ目は粘土を捏ねる過程で入った空気が全て抜け切っていない時。

 ふたつ目は成型した陶器が完全に乾いていない時。これは、中に水分が残っていると熱で急膨張して爆発するようだ。

 最後は炉内があまりにも高温過ぎる場合だった。


「なっ、何事だ……! と……ルーカス殿下とエラム様!?」

「えへへ~」


 何度も爆発を起こしては、その度に血相を変えた兵士が駆けつけて来る。

 危うく、父様に実験を中止させられるところだった。なんとか俺とエラムで説得したけど。

 父は昔の家庭教師であるエラムが今も苦手なのだ。


「くっそじじい! 息子を巻き込んで何するつもりだよ!」

「ほっほっほ。ただの実験じゃよ、実験。そうケツの穴の小さい事を抜かすな、ひよっ子め」

「父様、僕がエラムに頼んだんですってば! エラムもそう言う事、言わない!」


 とまぁ、こんな感じでこの二人は顔を合わせるたびに言い争いをしている。仲がいいのやら、悪いのやら。


 他にも何回か生焼けだったり、ヒビが入って使い物にならなくなったりもしたが、実験を繰り返す内になんとか湯たんぽも形になってきた。

 売り物の皿を作るわけじゃない。お湯を入れて漏れなきゃいいんだ。


 そうして完成した湯たんぽをまずは母に、それから城の皆に配っていったが、これがとても評判が良かった。

 冬の間は城内の女性陣に湯たんぽカバーを編むのが流行ったほどだ。


「ルーカス殿下、これはなかなか良い具合ですな」


 もう歳で寒さが厳しくなってきていたエラムも気に入った様子だった。

 温石(おんじゃく)を入れ替える必要のなくなった召使いたちにもありがたがられた。ただ、朝に水を捨てないといけないので重さがちょっと不評だったが。


 一方、ストーブだが、これはなかなか上手くいかなかった。

 素人考えで、四角い鉄の箱の中で薪を燃やせばいいんじゃないの?とか考えたのだが、まず薪が燃えない。

 物が燃えるには空気が必要なのだ。


 そうだ、空気穴だ。と思いついたまでは良かったが、次は熱伝導率が良くない。中で薪を燃やしても暖かいのは周辺だけで、とてもじゃないが部屋全体なんて温まらない。

 ストーブってただの四角い鉄の箱じゃなかったんだな。地球の先人の知恵に脱帽だわ。


 前世の記憶をできるだけ詳細に思い出そうとするが、ストーブなんてじっくり眺めた事がなかったからなぁ。

 ましてや薪ストーブなんてテレビでしか見た事がない。

 結局、ストーブを形にするまでは次の冬までかかった。


「ルーカス殿下、またですか? これ、何か前と違いがあるんですか?」

「う、うん、ちょっとこの空気穴の大きさを変えてみたんだけどね……?」


 暑い夏の最中に何度も打ち直しをさせて鍛冶師には悪い事をした。

 だがその結果、とても効率のいいストーブができ上がった。日本のものと、そう遜色ないんじゃないかと思う。


 やはり空気穴と、ストーブ内での空気の対流が大切だったのだ。開閉式で空気量を調整できる取り入れ口を両側面と下部、上部に計四つ。

 それとストーブ内に反射板を設置する事によって空気の対流を作り、燃焼効率を上げることができた。


 暖炉と違って、ストーブは少ない薪で部屋を効率よく暖める事ができる。煤も少ないので健康にもいい。

 それに暖炉だと鍋で煮炊きくらいしかできないし、温度調節も難しいが、ストーブは色々なものを煮たり焼いたりできる。思いがけず調理場にも喜ばれた。


 同時に母様の部屋を大改造した。

 ストーブの排煙筒を取りつける場所が必要だった事もあり、この機会に断熱材と床暖房も入れる事にしたのだ。


 石壁や天井に木の枠を組み、間に羊毛の断熱材を入れた。羊毛は虫に食われやすいらしいから、じっくり燻して、防虫剤もかけた。

 そのせいでなんだか部屋が草っぽい匂いになったが、元々、薬草の匂いが強かったのでそう変わったものではない、と思いたい。

 木の板で覆った上に、もう一度薄い石を貼りつけたら見た目もほぼ元通りだ。


 足元はなんちゃって床暖房だ。

 本当は温水式にしたかったのだが、某リフォーム番組を良く見ていたとは言え、さすがにそこまで知識がない。

 循環が上手くいきそうにないし、お湯を垂れ流すほど沸かす技術を思いつかなかったので、ストーブを利用した温風式にしてみた。

 空気だと水より保温性がないので効率は悪いが、ないよりマシだ。


 もちろん日本人としてコタツも作ったぞ。

 火鉢を真ん中に置いて暖めるタイプなので火傷に注意が必要だ。


 かくして母様の部屋は極寒の冬でもポカポカと暖かく、まるで常春の国のように快適になった。

 あまりの暖かさに召使いたちが他の部屋に行きたがらなくなったほどだ。


 あと、母様も冬はほとんど部屋から出なくなったのだが、ひとつだけどうしても行かなければならない場所があり、俺にこっそり耳打ちするのだった。


「あのぉ、ルーカスちゃん、お手洗いとかはあったかくできないのかしら?」


 それから程なくして、トイレの改装が行われたのは言うまでもない。

 昨年の冬に比べて目に見えて顔色のいい母様に、俺はホッと胸を撫で下ろした。



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