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第13話 ママはちょっと病弱です

 

 ちょっと話が逸れてしまったが、次は母を紹介しよう。

 名前はソフィアローレン。通称、ソフィア。

 細く長い白金の髪(プラチナブロンド)に、黄色味を帯びた茶色の瞳。透けるような白い肌。出会った人が驚くほどの美少女だ。


「ル~カスちゃ~ん」


 ぽわぽわ~っと笑って手を振られると、どうしてこの人が俺の母なのかと天を呪いたくなってくる。


「ルーカスちゃん、なんて可愛らしいのかしら。大好きよ」


 父に引き続いて、母も俺には大甘だ。甘すぎる。

 ローズに連れられて部屋に面会に行くと、いつも無邪気に笑って抱きしめられたり、頭を撫でられたりする。


 大人の記憶を持つ俺としては正直、前世の俺より年下の女性に撫でられるのは気恥ずかしいのだが逆らわない。

 俺だって、こんな美少女に見える母にはいい顔をしたいのだ。


 たまにほっぺにチュッとかキスされる事もあって、そこまでいくと俺にはキャパオーバーだった。何度されてもドギマギと胸が高鳴り、顔も真っ赤になってしまう。

 日本人に、この愛情表現は酷だわ。

 ここは異世界……中世ファンタジー風の世界、と呪文のように心の中で唱えて、なんとか平静を保つ。


「どーしたの、ルーカスちゃん?」


 緊張感のないぽややんとした表情の中に澄み切った瞳を見せて、母がきょとんと首を傾げる。

 可愛いのは貴女の方ですとも、はい。


 年齢的に少女はおかしいのだが、母はあどけない顔立ちのせいでどう見ても少女にしか見えない。

 父様はもしかしてロ……っ、ゲフンゲフン。いや、もう母様も二十歳過ぎてるんだから、それはないな。うん。

 ……多分。


 ちなみに母上と呼ぶのは凄く嫌がられたので、なんとなく母様と言う呼び方で落ち着いた。それに伴って、父は父様と言う呼び方になった。


 女性の名前には変な偉人のミドルネームや家名はついてない。

 公の場では父親の名前とともに名乗るので、正式にはシアーズ公主アドミラル・デュパリエの娘ソフィアローレン、が正しいのだろうか。


 母の生まれ故郷シアーズ公国は、マーナガルムよりかなり南に位置する小さな国だ。そこでは山間の小さな国々が集まって同盟を結んでいる。

 だからまぁ、王様と言うよりほとんど領主みたいなものらしい。

 ちょっと遠いので俺はまだ、おじいちゃんとは会った事がない。


 父と母はこの世界には珍しく恋愛結婚だ。

 大恋愛の末、半ば駆け落ち同然に輿入れしたと言う話だ。今も吟遊詩人に謳われる程のラブロマンスだったらしい。


 母はシアーズ公国の第一公女だ。公主(俺の母方のおじいちゃんだな)にとっては年を取ってからできた目に入れても痛くない一人娘だったので、本当は婿を取って国を継がせたかったらしい。

 一国の王とは言えこんな歳の離れた、しかも第二王妃になど、かなり反対されたようだ。


 二人の最初の出会いは、若かりし父が武者修行の旅の途中にシアーズ公国に立ち寄った時だと聞いた。恐らく母が十代にも満たない頃だ。

 父の名誉のために言っておくが、もちろんその時の父に恋愛感情などなかった。

 ちょっと綺麗な子がいるな、と言う程度で、滞在中は何度か言葉を交わしたくらいだったらしい。


 でも母様はうっとりとした瞳で、


「その時のフィル様ったら、きゃっ!」


とか言って、ポッと染まった頰を両手で覆ったりしたので、どうも初恋らしかった。

 クソ親父。爆発しろ。


 それから時は流れ、父が武者修行の旅から帰国してすぐに、マーナガムル王国は動乱の時代を迎える。

 なんと、その当時の王である祖父が急死したのだ。


 祖父の跡を継いで若くして王となった父は、大国イグニセムの姫を妻に迎える事で動乱を乗り切った。この人が正妃だ。

 全面的な戦争にはならなかったが、婚姻、およびイグニセム王国との同盟を発表するまでは、周辺諸国との小競り合いが絶えない戦の日々だったようだ。


 その後、後継である第一子が生まれ、ホッと一息ついた頃に、つき合いで渋々出かけた園遊会で母と再会したと言う。

 それがイグニセム王国主催の園遊会で、どうしても断れなかったと言うのだから、正妃の国で第二王妃と出会うとか皮肉な運命としか言いようがない。


 母は生まれつき心臓に疾患があり、高名な医師を訪ねてイグニセムに来ていた。

 イグニセム王の伝手で医師を紹介して貰った関係上、母も断り切れず園遊会に出席していたらしい。

 そこで具合を悪くしたところを父が介抱してくれたのだそうだ。


 初恋の人と再会した母と、幼かった少女が成長して目の前に現れた父。

 両親とは言え美男美女の恋愛話はムカつくので以下、割愛する。


 父のロリ疑惑は置いておくとして、この世界では十五、六歳で結婚するのはおかしな話ではない。

 婚約だけだったらもっと早いどころか、大きな国の王族なら生まれる前から決まっている事もあるらしいからな。

 恐らく平均寿命が五十歳くらいなので、早婚早産が当たり前なのだ。

 戦や事故で若くして死ぬ人も多く、寿命を全うできる人は少ないみたいだ。


 何はともあれ無事にマーナガルムに嫁いできた母だが、この国はかなり北にある。

 首都であるここマーナルガンは標高も高い。険しい山の中腹の、ほんの少しだけある台地に、みっちりと家々が詰め込まれているような場所だ。

 冬は寒く、厳しい。


 身体の弱い母に、これは相当な負担になったようだ。

 俺を産むくらいまではまだ外に出る事もできたらしいが、産後の肥立ちが悪く、次第に寝込むようになってしまった。


 石造りの城は底冷えがする。

 夏でもひんやり冷たいくらいだ。

 部屋に断熱材も入っていない。

 せいぜい床にイラクサで編んだマットが敷いてあるくらいだ。絨毯なんてものはないのだ。もっと金持ちの国に行けばあるのかも知れないが。


 それにストーブもない。

 庶民の家では家族全員、囲炉裏に集まって暖を取るものらしい。囲炉裏って日本特有のものじゃなくて普通にあるもんなんだな。西洋風の世界だからちょっとびっくりした。


 ウチは城なので囲炉裏ではなく、幾つか主要な部屋に暖炉がある。ただ暖炉は熱効率が相当悪く、薪も大量に必要だ。煤が出ると言う欠点もある。

 初めての冬にあまりにも寒すぎて眠れず、湯たんぽがないか聞いたら、湯たんぽ?と不思議そうな顔をされた。


「え? あっためた石を入れるだけなんですか?」


 温石(おんじゃく)と言って、少し大きめの石を火で炙って温めたものを布で包み、布団の中に入れるだけらしい。

 びっくりしすぎて、いつもの舌ったらずな喋り方ではなく思わず素で喋ってしまって、召使いのおばちゃんが怪訝そうな顔をしていた。


 実際に体験して分かったが、石は布団に入れた当初はそれなりに暖かかいが、あまり保温性がない。

 夜に何度か入れ替える必要があるのだが、幼児の身なので熱した石など持てるわけがなく、もちろん召使いがしてくれている。

 夜中の見回りの時に、俺を起こさないようにそーっと入れ替えてくれているらしいが、流石に気が咎める。


 それに冬になって急に寝込んでしまった母の体調も気がかりだった。


「大丈夫よ、ルーク。気にしないで」


 母はそう言って無理に微笑もうとしたが、もうベッドに起き上がる力もなかった。

 寝込んでいる姿を俺に見せると気に病むと思われたのか、面会できる日もぐっと少なくなった。

 俺を生んでさえいなければ、と思ってしまうほどの衰弱ぶりだ。もし俺に大人の記憶がなければトラウマになっていたかも知れない。


 早急に寒さ対策が必要だ。

 今こそ、俺の前世の知識を活かす時がきたのではないだろうか!

 それから俺はいくつかの発明品を生み出す事になる。


 

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