表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/228

第10話 ドSじーさんがやってきた!


 マーナガルムは武闘派の国だ。

 建国したのは伝説に謳われる苛烈王(かれつおう)エズワルド。彼は国を興した後、それを不服とする近隣諸国をことごとく迎え撃って国土を広げている。


「マーナガムルを建国されたのは、始祖エズワルド様でいらっしゃいます。ルーカス様から見られると高祖父(こうそふ)に当たられる方ですね」


 ローズがそう教えてくれた。


「高祖父?」

「ひいおじいさまのお父様です」


 四代前ってことか。

 まだできて百年も経っていない国らしいから、そんなものか。

 ちなみに俺のおじいちゃんである前王はすでに亡くなっている。だから父様はあんなに若いのに王様をやってるんだな。

 本来であれば年齢的にはまだ父様が王子で、俺は国王の孫だったはずだ。


 俺のひいひいおじいちゃんであるエズワルドは、この城にはびこっていた山賊を退治すると、どっかの国からお姫様を嫁に貰って勝手に王国を名乗り始めたらしい。

 最初はどこの馬の骨とも分からない奴が大言壮語を吐いていると思われていたのかも知れないが、百年も経ってくると、それなりに周辺国にも認知されているようだ。


 ひいひいおじいちゃんは、つけられた二つ名からも分かるように逸話に事欠かない人だった。


「エズワルド様は天を衝くような大柄で、大層、戦上手であられたと伝えられています。漆黒の巨馬リープリングに跨り戦場を駆けると、たちまちの内に幾十もの敵の死体が転がったとか」

「ま、マジっすか……」

「マジ?」

「あ、ごめんなさい。すっごく驚いただけです」


 思わず日本語を漏らしてしまった俺をローズが眉を寄せて見下ろしてきたので、慌てて誤魔化す。


 他にも素手で狼と戦ったとか、たった百人で十倍以上もの敵を撃破したとか、そんな本当かよと言いたくなるような話ばかり聞かされた。

 かなり恐ろしい世界に生まれてしまったんじゃないだろうか。

 ひいひいおじいちゃんの武勇伝にガクブルする。


 しかし、よくよく聞くと始祖エズワルドはこの世界でも特殊な人のようだった。そんな怖い人ばかりじゃないと知って安心したぜ。

 建国の父なので、大げさに誇張されているのかも知れない。

 情報があやふやなこの世界では、百年近く前の出来事はほぼおとぎ話に近いのだ。


 そんなわけでひいひいおじいちゃんが傭兵団と言うか、野盗崩れの連中を率いて建国したのがこのマーナガルム王国だ。

 自然、家臣には体育会系が多い。


 時代が移り変わって祖父の代になっても政治面(頭脳面)に不安があったマーナガルムにその昔、宰相として他国から迎え入れたのが、俺の家庭教師としてやって来たこのじーさんらしい。

 今は年を理由に宰相の座は退き、隠居していた。

 まだ足腰はかくしゃくとしているが、あまりお年寄りの姿を見ないこの世界では珍しく白髪に長い髭を持つ老人だ。


 初対面のじーさんは、悠々自適の隠居生活から呼び出されて不機嫌な様子を隠そうともしていなかった。


「まったく、フィル坊も親馬鹿が過ぎるわ。若い嫁を貰ったせいで色ボケが頭に回ったか? 儂が教えずとも子供の世話など乳母にさせておれば……」


 聞こえても俺には意味が分からないと思ったのか、口の中でブツブツとけっこう酷い内容を呟いている。


 フィル坊と言うのは父の事のようだ。

 父が生まれた時からマーナガルムにいて乳飲み子の頃からずっと成長を見守ってきたじーさんにとっては、未だに幼子(おさなご)を見る感覚なのだろう。


 しかし俺からしたら、親を悪く言われて気分は良くない。

 確かに俺の目から見ても父は単細胞で、なおかつ親馬鹿も過ぎると思うが、それを他人に言われるのは別だ。


 こう見えて俺は、家族や家臣を大切にし、国を担う重責を抱えながらも仕事に手を抜かない父フィリベルトを尊敬しているのだ。

 たまに俺より子供っぽいなと思う事もあるけれど、忙しい職務の合間を縫って俺と遊んでくれる時は子煩悩ないいパパだ。


 吠え面かかせてやるぜと思う俺も、学習しないと言うか、十分単細胞だが。

 子供には大きすぎるソファを、うんしょうんしょと降りてじーさんに向かい合う。


「ブロムベルク師でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。初めまして、僕はルーカス・アエリウス・エル・シアーズです」


 ペコリとお辞儀をすると、じーさんは顎が外れそうなくらい口をあんぐりと開けて固まった。


「フオオオォォォォオオオ……!」


 なんだか妙な声が漏れていて怖い。


「だ、大丈夫ですか?」


 放っておくわけにもいかず、おずおずと声をかける。じーさんは俺の目の前で突然、膝から崩れ落ちて床に手をついた。


「狼の子が小さいからと言って見誤るとは、儂の目は節穴か……ッ!!」


 それから急に両手を高く掲げ、天井を仰ぐ。

 全ての動作がいきなりすぎてびびる。


「神がなぜ儂をこの年まで生き長らえさせたか今、分かったぞ! この方にお仕えするためだったのだ! おお、マーナガルム神よ、感謝いたします! 年老いたこの身に、このような大役を託されるとは!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 父もそうだったが、この世界の人ってみんな、こんななんだろうか。芝居がかっていると言うか。

 展開について行けずドン引きの俺の前でじーさんは居住まいを正し、床に座ったまま深々と頭を下げた。

 ど、土下座。土下座だ。


「ルーカス殿下、お初にお目にかかります。不肖エラム・ブロムベルク、今この時をもちまして、命続く限り生涯、殿下にお仕えすると大神マーナガルムに誓言致します」


 なんでそーなるんだ。

 俺を見上げる目がギラギラと輝いていて怖い。

 やりすぎたか?と思うが、実際には挨拶しかしていない。どこがじーさんの琴線に触れたのかよく分からない。


 かくして鬼教師によるスパルタ勉強の日々が始まったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ