1話・王道の始まり
「本当にすまなかった」
「……えーと?」
俺は今、老人に頭を下げられていた。
一体どういうワケなんだろう。
老人にこんな事をさせる性格では無い筈だが。
それに此処は何処だ?
俺と老人は机を挟んだソファに対面して座っている。
家具はその机とソファしか無く、そしてその二つが真っ白な空間の中プカプカと浮いているではないか。
「私のミスで、君を死なせてしまった」
「死んだ? 俺が?」
そう言われて初めて思い出した。
俺は高校への通学の途中、晴天にも関わらず何故か雷に撃たれて倒れてしまったのだ。
当然意識は無く、気絶したと思ったのだが……まさかあの後に死んでしまったのか。
少し現実感が薄い。
戦争のニュースをテレビで見ているような気分だ。
実感が湧かない、とでも言おうか。
「キミは随分と落ち着いているな」
「状況がよく分かってないだけですよ」
素直に告げる。
その後、老人から詳しく色々教えてもらった。
まず、目の前の老人は神様である。
信じられないが、魔法的なモノを見せられて納得した。
何でも生物の生き死には神様が決め定めるようで、本来なら俺は今日死ぬ命では無かったとか。
しかし神様がミスを犯してしまい、間違えて俺が死んだ。
しかも天界のルールとかで、地球で生き返る事も出来ない。
そこで神様は提案してくれた。
地球とは全く違う世界、異世界で記憶と肉体を保持したまま、つまりこの状態で転生してみないかと。
地球とはまるで違う異世界、か。
しかも剣と魔法のファンタジー世界らしい。
俺も男だ、正直心踊る。
「その提案、受けさせてもらいます」
「分かった。ならば色々融通を利かせよう」
神様は何事か呟く。
すると、一瞬だけ俺の体が光った。
「魔法の才能・強靭な身体・神の如き幸運。この三つを君にプレゼントした、これで余程の事がない限り死ぬ事は無いだろう」
「ありがとうございます」
貰えるものは貰っておく。
便利に越した事は無い。
「そろそろ時間だ、伊東王助くん」
伊東王助と言うのは俺の名前だ。
流石神様、名乗ってないのに分かるなんて。
「さようなら、神様。またご縁があれば」
「うむ。次会うとしたら、来世の君の魂かの」
「「ははははっ!」」
二人で笑う。
その後、俺の意識は突然消えた。
6話まで一時間更新です。