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現代夜話  作者: 達雄
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【第一夜】単身赴任

記念すべき最初の話は折角ですので、私が体験した不思議な話を聞いてください。


まず、先にも書いたように、今でも私は自分に霊感やそういった類の能力があるとは思っていません。


日常的に霊を見ることもないですし、何かを感じ取るなんてことも、金縛りになったこともありません。


まぁ、もともとそんな繊細なタイプでもありませんしね。


今から聞いていただく話は、そんな霊的に鈍感な私が体験した、ある不思議な夜の話です。


高校生の頃、私の父親は単身赴任で岡山に住んでおりました。


父は毎週末になると欠かさず、私達家族の住む実家へ帰って来ていたのですが、夏休みのある時、母の提案で、父の住む岡山へ遊びに行こうということになりました。


もちろん、泊まりがけで。


その頃の私は、アルバイトや夜遊び三昧の毎日を過ごしており、家族で行動することが少なかったのですが、折角の機会だからということで、旅行も兼ねて父親の単身赴任先へ、家族と共に行くことにしました。


当日父は単身赴任先の岡山から車で私達家族を迎えに来て、そのまま私達を連れてまた岡山まで帰るというハードワークをこなし、その上、家族を色々な場所へ連れ出してくれました。


そんな中、私はというと、当日の朝まで遊んでいた為に、家族が楽しんでいるにも関わらず、車内に残ってほぼ眠っている始末。


今思えばなんとも可愛げのない息子だったと反省しております。


あっという間に時間も過ぎ、父の住む単身赴任先のハイツに着いたのはもう午後8時だったり9時だったと思います。


父はもちろん、母も妹もクタクタだったでしょう。各々代わりがわり風呂も済ませ、明日はどこへ行こうなんて話もそこそこに、久しぶりに家族四人、川の字になって眠る準備を始めればもう12時間近。


父はすでにいびきをかいていました。


皆が眠りにつこうとする中、日頃から昼夜が逆転し、日中に睡眠を十二分にとっていた私が、家族と同じように眠れるわけがありません。


コツコツと、時計の秒針の音だけが響く部屋で、ひとり退屈な時間が流れていました。


ふと、枕元の時計を見ます。


時計は1時を過ぎた頃だったと思います。


予想に反して全く進んでいない時間に嫌気がさした私は、家族の寝る部屋をこっそり抜け出し、リビングにある音楽雑誌を眺めに行きました。


ペラペラと、ページをめくりながら睡魔を誘いますが、なかなかやって来てくれません。


その内結局雑誌にも飽きてしまい、何もやることが残されていない私は、仕方なく何かに諦めをつけ、再び眠ることにしました。


そーっと、家族の眠る部屋に入り目を瞑ります。


コツコツと鳴る秒針の足音。


コツコツ、コツコツ。


だめだ、やっぱり眠れない。


瞑っていた目を再び開け、私は天井を眺めていました。


と、その時。


ふっと何かが一瞬遮りました。


私が横たわる足元の方向。そこには壁があり、その壁には通気用の細長い縦長の小窓が付いています。


曇りガラスで向こう側はぼやけてハッキリと見えないのですが、月明かりがそこから部屋に入って来て、それが一瞬何かで遮られたのです。


じーっと見ていると、月明かりがまた一瞬遮られて、また月明かりが差して、また一瞬遮られて、また差して、と繰り返しています。


気になった私はじーっと窓を見つめていました。


窓の向こうの影は、どことなく人に見えます。


まるで窓の向こうで、人が行ったり来たりしているような、そんな風に見えるのです。


ぞっとしました。


先にも書いたように、私は霊感なんてないのです。


それでも半信半疑の私は滑稽なことに、霊感がないという絶対の自信だけを支えにすることで、目の前の不思議な出来事に無理矢理理由をつけようと必死になっていました。


散歩。


そう、散歩。


言葉は悪いが、田舎の人だし、散歩する時間がべらぼうに早いのだと。


きっと、窓の向こうのあの人は、おじいさんだかおばあさんで、朝早くから畑を耕すのだけれど、その前に日課で健康の為に、犬か何かを連れて散歩をしていて…云々…。


そんなことを必死で考えるのですが、考えたがために、私は気付いてしまうのです。


父の部屋はハイツの二階なのです。

もちろん小窓の向こうにベランダなんてものも、ハイツの周りに建物なんてものもありません。


窓の向こうの人は、異常に背が高いのか、浮いているのか。


そんなことを考えてる最中も、窓の外の人は行ったり来たり。


私は考えるのをやめて、目を瞑り、眠れ、眠れと心の中で叫び続けました。






気が付くと、朝でした。


父親が家族が眠る横でテレビを観ています。


窓から射していた月明かりは、太陽の光になっています。


「おはよう…」


父に声を掛けました。


「おう。」


まだ眠そうな声で父は応えます。

そして私は、続けました。


「父さん、昨日俺幽霊みた。」


「なんやそれ。あほなこと言うな。そんなんええから、そこのカーテン開けてくれ。」


父は私の話にまったく興味を示さず、相変わらず寝そべりテレビを観ています。


そんな父の背中を眺めていると、昨日の不思議な出来事も夢のように思えてきた私は、いそいそと布団から抜け出してカーテンを開けに向かいました。


シャッと勢いよく開けたカーテンの向こう、私は驚愕しました。


父の住むハイツの裏手にあったのは、広大な敷地に見渡す限りの墓石、暮石、暮石。


だだっ広い大霊園がそこにありました。


「父さん、俺やっぱり昨日、幽霊見たんやわ…」


呆然とする私に父は、


「幽霊おっても、俺見えへんからどうでもええわ。それより、パン取ってきてくれ。」


これが、私の数少ない心霊体験のひとつであります。


ちなみに、私が父の単身赴任先に訪れたのは、これが最初で最後であり、父は何事もなく数年後実家に帰ってきました。


もちろん父は、現在も健在過ぎるほどに健在です。

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