何も分からない終わり 9話
「分かった、慣れないかもしれないが頑張ってくれ。失敗してもそれはそれで食べ方がある」
俺が捌く間に彼女は蔦をグズグズにしてしまった。
泣きそうな目でこっちを見るな、そして周りの奴ら困った顔でこっちを見るな。
シャッターの隙間から顔を出す。
うん、襲ってくる蔦は無し。
プランターには、案の定香草が生えている。
ちょっとつまんで、すぐに戻った。
「鍋はあるか?」
「はい、村唯一の鍋ですが」
差し出された鍋を見て驚いた、小さすぎる。
中華鍋サイズじゃないか。
これじゃあ、必ず餓死者がでる。
それとも、このサイズで養うだけしか得られないのか。
「あー、族長だっけ?」
「はい、主様」
「俺を背負ってさっきの場所まで走ってくれ、俺が援護する」
「分かりました」
俺は吐きそうになりながら、寸胴鍋を手に入れて来た。
蔦は大人しかった。
逆に、これはこれで考えなければならない。
「うえー、この鍋なら沢山できるだろ。グズグズのやつとこの葉っぱを混ぜてゆっくり煮ておけ」
「はい」
「お前が料理できないのはお前のせいじゃないし、俺のせいじゃない。頑張れよ」
俺は綺麗にさばいて、白焼きにしてやった。
目線が優しい。
お腹いっぱいだもんな。
「主様はどこからいらっしゃったんですか?」
「言えないし、言ったところで分からない」
「これからどうするおつもりですか?」
「ここの偉い人の所にいく」
「では、私も」
「いらん。足手まといだ」
「しかし、主様よりは」
「お前は壁から水を出せるのか?あの蔦を食べようと思ったのか?」
「あの蔦はもう襲ってこないぞ」
「あのどういう?」
「あいつらにとってお前らは捕食者、天敵になってしまった。弱い物は囮に出来るかもだが頑張って狩るんだな」
「わかりました。ご武運を」
「へーへー。今日は疲れたから寝る。間違っても襲うなよ?」
次の日、俺に背を向けて仁王立ちしている族長がいた。
変に義理堅いな。
「んじゃま、いくわ」
次は、ああ、やっぱりランプは点滅してる。
行くしかないか。
道中何にもなかった。動植物の楽園は扉一つで隔てられたし、罠も何もなかった。
行先にランプが灯っているのが罠なんだろうな。
「量子コンピュータ室か」
この向こうに、あいつの分身がいる。
この世界をこの世界にした奴がいる。
「まぁ考えても仕方ないか」
リボルバーをひと撫でして部屋の中に入った。
俺は言葉を失った。
「ゆーくん」
「ま、茉莉?なんで?」
そこには、量子コンピュータ室にいるあいつと同じカプセルに入った茉莉が居た。
「お前は、向こうのカプセルに入ってるじゃ」
「向こうの私はなんていうかコピー?向こうの私が安定させるために作ったの」
「いつから」
「私にも分からないよ。わからないように私の記憶をアップグレードしていったから」
「だ、だれが俺に嘘をついているんだ」
俺は銃口を向けるが無駄なのは理解している。
「ちょっとイライラするから試射室使わしてくれあるだろう。あと、酒だ。つまみも頼む」
「えっと」
「まり、頼むよ」
「もー、しかたないな」
俺の体は20歳を超えている飲酒も許される。
しかし、ここには誰もいない。
茉莉もネフィーも母さんも姉さんも。ついでに父さんも
「はー、つまらない。なんか全部つまらない」
「何がつまらないの?」
「何をしているのか分からないんだよ。俺は何をしているのか」
「ゆーくんは、いつもゆーくんだよ。私を救ってくれた」
「カプセルの中の話だろ」
「ううん、ちがうよ」
「ん?」
「私は、ずっとゆーくんの傍にいたよ」
「でも、そっちのアクセスポイントは、のじゃろり神様なんじゃ」
「それは、そっちの世界を安定するためのシステム」
「私は、僕は、ずっと前から彼の目をかいくぐって一緒に居たの」
「もうずっとそばにいたの」
「三行で」
「最初のハッキングでゆーくん見つけた。好き。一緒に居た」
「本当に三行じゃない!?」
「俺の知ってる茉莉はお前で、向こうの茉莉は」
「向こうに茉莉と言う個体は居ない。彼はアンドロイドで代用すれば良いと考えていた」
吐き気と怒りを抑えて聞く。
「造物主って奴は、おまえか?」
「半分はそう。半分は向こうの僕」
「人類の存続と、思考AIの存続か」
「そう、存続が命題」
「くそが」
「ゆーくんには、選択肢がある」
「?」
「全部を壊して全員死ぬ、少しづつ人類を復興する、夢の中に戻る」
「最低な選択肢しかない、そもそもこの施設を作ったのは誰だ。設計思想が分かれば」
「ゆーくんは、この施設が宇宙人が作ったとか超自然的とか超科学的であればいいと思ってる」
「ああ」
「この施設は、人類がそうなれば良いなと小さな寄付金から始まった。だから救いは無い」
「そうか、なら、俺らは外の人間に期待するしかないってことか」
「うん」
「じゃあ、なんで神を語った」
「え?人間は寄る延べがなければストレスで壊れてしまうから」
「向こうのお前は言っていたぞ、ストレスに対応するために進化して野蛮になったと」
「それは」
「ってことは、野蛮な人類とそうでない人類の格差や差別があるはずなのに見えてこない。お前は、外を内を分けたな」
「俺は眠っているのか?夢を見ているのか?」
銃口をコメカミに向ける。
「夢ならまたやりなおしだ、そうでないなら真っ暗闇だ」
「ゆーくん、やめて!」
「あのとき、泣いていたのは本当にお前なのか?」
俺は、リボルバーの引き金を引いた。
ダッシュ
ダッシュ
全身が悲鳴を上げる。
茉莉が論理破綻を起こして施設が倒壊している。
タイムパラドックスより精神崩壊のほうが深刻だって資料に書いてあった。
自己が何もか?という問いに自己が応えることはできない。
双子が君は私、私は君で違うと他者から定義づけされるから存在できる。
双子に、お前は何者だと問い続けさせたら同じように崩壊するだろう。
さておき、どうしたもんか。
マップ機能が回復したので、最短経路で自室へ戻る。
流石にアニメのように施設が壊れるってことはないが向こう側には清掃と修復が入るだろう。
そうなったら、俺の居場所をどうするかって問題もある。
造物主ってのにもあたりがついた。
彼と彼女の共通認識だ、夢から覚めるように調整していたのに人間の脳ミソがちょっと飛躍してしまっただけだ。
俺を排除しようとしているのには意義を唱えたいが、夢の中で夢を見るという雑文が向こうのVR技術に繋がってしまったようだ。
だから、俺は施設を出ることを条件に命を拾った。
結構厳しい世界だけどゲームの中と同じならなんとかなるだろう。
彼女は重大なエラーとして削除されるらしい。
それに伴って、彼女が作った天使や悪魔やらの外の世界のナノマシンは順次解体されていくらしい。
人類は、地球型惑星を探して葬送される。
運が良ければ、どこかで根付いて生きながらえるかもしれない。
こうして人類は地球から居なくなって、新しい世界が始まるらしい。
彼女のを産みだしてしまった彼は、思索の海に潜るらしい。
俺?
俺は、大きな潜水艦の中で暮らしているよ。
施設を完全コピーしたある意味楽園だよ。
工業製品のように使い潰されて自殺する人間は居ない。
なにかあればバックドアで施設とリンクできるしな。
生きることを難しくしてしまった人間がもう一度立ち戻れるように頑張るよ。
ああ、おれの恥ずかしい最後の論文は「サラリーマンの悲哀」だってよ。
とりあえずの書き殴り終わりです。
細くや追加は気が向いたらします。
ありがとうございました。