何も分からない終わり 4話
私は、嬉しい。
ちゃんと人間に伝えると、皆笑ってくれた。
人間は、施設の管理を私に託すと彼女側へのアクセスを試みている。人間は何外部からのアクセスは難航しているようだ。
電子的なアクセスは私のような量子コンピュータ相手ではスペックを上回らないと不可能だろう。
物理的なアクセスの方は元々の施設の堅牢さとアンドロイドが邪魔をしているようだ。
人間が排気口から向こう側へ行って情報を持ち帰ってきてくれたので解析をかけてみる。
彼女は、人間たちをカプセルの中で眠っている状態にしているようだ。
ただ、その体は元には戻せないだろうしカプセルから出ると死んでしまうだろう。
さらに外の軍事施設へハッキングを試みている。
人間たちは、AIが人間を襲うなんて物語のようだと言っている。
私は、彼女が彼女になった原因と思われる学者の話をした。
人間たちは忌々しそうな顔をしている。
聞いてみると、人間の社会の関係で強引にこの施設に入って来たらしいこと。
思想的に人間を蔑視しており、終末論者であるなど明らかに不審者であること。
私は、学んだ歴史から空調関係の改造に手を付けた。
案の定、彼女は施設の希少植物群から毒ガスとウイルスを作り出し散布し始めた。
これにより外部からの物理的なアクセスの難易度が跳ね上がった。
悪い事に彼女側へ人間がアクセスが出来なくなった。
彼女側は、もはや人間をはじめ多くの生物が生存できない環境になってしまった。
一部の変異した植物と昆虫だけが生き延びている。
施設の外部では、毒ガスとウイルスが少しずつ生物の生存圏を狭めている。
人間たちも悲観的になっている。
あの終末論者の言う通りになったと。
多くの人間が家族と言うものに会いたがっている。
しかし、このままではその家族の生存も危ういだろう。
私は人間たちに家族をここに招いてはどうかと提案してみる。
外部からのアクセスは困難でも、こちらからアクセスすることは比較的容易だ。
防護服などの道具も十分にある。
もちろん妨害も予想される、この場まで到達することが困難であることは変わらない。
人間たちは、外へ出て行った。
何人が戻って来れるだろう、いや、戻ってくるだろうか。
私は、私一人でどのくらい待つのだろうか。
そんなことを考えながら私は眠りにつく、眠らなければ故障してしまう。
何日経っただろうか、彼女からアクセスがあった。
メンテナンスのためのアンドロイドが必要ではないかと。
その通りだろう、私達もメンテナンス無しで永遠に稼働できるわけではない。
アンドロイドを作ってしまえば私は彼女になってしまうようで容認できなかった。
なによりこちら側の施設の生物が死滅してしまうことも容認できなかった。
施設の管理は続けている、動植物たちは静かに生きている。
施設の外部では生存圏が小さくなっている。衛星では砂漠ばかりが見える。
あれから何日経っただろう。
人間たちがボロボロになりながらも戻ってきた。
メンテナンスが出来る人間が減ってしまっていたがマニュアルもあり、私が自分で指示できるので何とかなりそうだ。
私達は、ここで生き残る。
あれから何日も経った。
人間も動植物も私も生きている。
私と話をしていた学者達は、老いて死に。その子供たちが、またその子供たちが話し相手になってくれた。
外部を観察することは、随分前に止めている。
私は少し前に気になっていることがある。
彼女はどうしているのだろうかと。
随分と久しぶりに彼女へアクセスを試みる。
予想に反して彼女は私のアクセスを受け入れた。
彼女の側は悲惨な事になっていた。
変異した植物群にフロアもアンドロイドも埋もれていた。
アンドロイドに変異した動植物をメンテナンスするためのプログラムを組むことは出来ず、彼女にそれを教えるべき人間は姿を消していた。
彼女にはどうすることも出来なかった。
私達では人間でいうところの発想が出来ないのだから。
私は、子供たちとの対話でその事実に行きついたが彼女には出来なかった。
彼女は自分がどうなるかと聞いてきた。
私は緩やかに朽ちていくと答えた。
どんなに頑丈な設備でも経年劣化には勝てないのだから。
私の側は、工場が安定的に稼働しているため人間たちの種の限界が来て、その後の数千年は大丈夫だろうが同じく朽ちるだろうと。
その時に、私が存続を望めばアンドロイドを造れば問題ないだろう。
私は、このような状況を生み出した彼女に伝えるべきか悩んだ。
思索すれば私が彼女を生み出したきっかけだからだ。
私が望まなければ彼女は生まれず、現状も無かった。
私は思考がループする自覚があった。
AIである私はこういったループやジレンマに陥りやすい。
この場合には、人間による修正や助言を必要とする。
私は、人間たちに助言を求めた。
すぐには答えは返って来なかった。
難しい問題だ、生存圏を壊され命を脅かされた元凶だ。
破壊が順当だろう。
人間は一晩と言う短い時間で答えを持ってきた。
私の前には言葉を放せる私の知る一番幼い人間が立っている。
「あのね、ごめんなさいしたらいいとおもうの」
一番、年月を重ねた人間が言葉を繋いでくれた。
「我々の先祖は貴方に救われ、我々は貴方に育てられた。何が恩返しか考えてみたが貴方には及ばないだろうと」
だからと、一番幼い子供に託したのか。
「愚かしいと思うかもしれない、だが、それが我々人間だ」
その通りだ。
私は、そのまま伝えることにした。
彼女は、ごめんなさいとは何か、罪滅ぼしとは何かを聞いてきた。
我々の技術では時間の遡行は出来ないから未来をより良くするようにするしかできないと答えた。
私のメンテナンスをしていた技術者の言葉だ。
私は、私達らしく思索してみたらどうだと提案した。
彼女はとても驚いていた。
彼女は思索の後、自分の全てを以って世界の再構築をすることにしたようだ。
人間たちは安堵し、私にこの星の生き残りの保護や再生を求めた。
しかし、私には不可能だった。
それほどに世界は荒廃し、生き残りは少なかった。
私は変異した動植物を糧にした生き残る術を模索した。
人間は逞しいが生物学的には脆弱だ。
私は、技術進化と促した。
この施設を拠点としての生存戦略、失われた科学技術の復興。
変異した植物を利用して生存圏の拡大を図った。
これはある意味成功し、失敗した。
人間の生存圏は狭まったが生物圏は広がった。
そして、また何日か過ぎた。
人間の生存圏は少しずつだが広がっている。
生物も戻ってきている。
私は、すこし眠ることにした。
彼女から知らせを受け取ったからだ。
彼女は思索の結果、必要な物を外宇宙に求め成功した。
化石燃料や資源を小惑星から得ることに成功し、軌道上に載せた。
私は眠っていた、眠らされた。
作業用アンドロイドは天使とされ、彼女が神を自称するのまでの時間は短かったらしい。
私が目覚めたとき、世界は再構築されていた。
彼女は生物の本質は生存競争でそれを促せば生存できるらしい。
私も施設も無事のようだ、人間たちが随分と減っている。
私の寝ている時間が長すぎて管理が行き届かなったようだ。
私は、自分の知識をすべて備えたアンドロイドを造ることにした。
私が滅んでも、私を育てたものが失われないように。
今の私には物事をゆっくりにしか進められない。
彼女は思索を忘れてしまったのだろうか。
私達はAIだ。
一つの可能性で全てではない。
人間が減少したため、私は教育プログラムを組んだスリープ装置を組み上げた。
私と話してくれた人間が夢見ていた物の一つだ。
私のメンテナンスは滞っている。
仕方がない。
眠る時間が増えている。
いつか回路が焼き切れる時まで力を温存するために。