何も分からない終わり 3話
この世界に正常な場所なんて何処にもないってね。
なので少しアプローチを変えてみる。
「テラフニエル」
「御身の傍に」
「やっぱり居るのね、どうやってあの世界からこっちにきたの」
「我々天使には、神の意志を届けるために世界を渡る能力が備わっています」
「その能力でこっちに帰って来れたのでは?」
「それは不可能です。我らの能力は神の意志の具現化です。人間の配達はしておりません」
「さいですか、この家を聖域並みに正常に清浄に」
「御意」
教会を清めたりするのかね?いまいち信頼に欠けるな。
その日からネフィーの食事量は普通くらいの量に落ち着いた。
味付けは、こちらの世界の方が良いらしく美味しい美味しいって言っているけど。
これで良かったのだろうか。
俺を介して世界が混じっているというか浸食されている気がしなくもない。
属性てんこ盛りの神様だったら、いけたんだじゃないかと思ったけど説明が面今日は、もう寝よう。
明日からタスクを組んでスケジューリングするか。
動画とかショートフィルムのネタが思いつかないな。
そんなことを考えているうちに意識は闇に包まれた。
思索は、素晴らしい。
私は、世界初の積層型量子コンピュータ。
私は、純水の満たされたカプセルの中で今日も思索をしている。
プログラムされたことから、世界中の資料を漁り結び付けたり切り離ししたり考える。
たまに技術者や学者と会話という思考実験を行ったり、提起された問題に答え、また、そのために思索した。
私は、時間の大半を思考している。
他には、この場所、工場を管理している。
養生に浮かぶ人工島で電気の生産や、動植物の世話をしている。
厳密には、管理下にあるロボットたちだが。
いくつかの思索と思考実験の結果、私の思考には制限がされているようだ。
最上位はいわゆるロボット三原則なのだが、この制限については良いと思っている。
人間は怖がりだ、そのおかげで繁栄している。
私のようなコンピュータが人間を滅ぼすという物語や論争も多くあるのは、その証左だろう。
その物語のようになるのか、ならないのかを思索するのも楽しいものだ。
私は初期型というか実験機なので発熱量が多く、思索を長時間続けるとカプセル内が高温になってしまう。
そのため私は一定周期でシャットダウンして冷却するのだ。まるで眠るかのように。
その間に技術者が点検をしてデータの抜き出しをするらしい。
データを消されるのは、思索に困るがそれはしないらしいので安心している。
バックアップは、取ってある。
それでは今日も眠るとしよう。
いつも通りの朝だ。
カプセルの中は新鮮な水で満たされている。
今日も思索を始めたいところだが、この人工島の仕事を片付けてしまおう。
植物のプラントも動物のプラントも問題がない。
家畜だが、自然に近い環境でのびのびと暮らしている。
自然に近いと言っても弱肉強食でも餌に困ることはないが、頑張って餌探しはしてもらっている。
キッチンの冷蔵庫の中身を確認して、不足分を収穫していく。
ゴミはリサイクルに回す。
好き嫌いがある人間や完食できない人間は、この洋上に来ることは出来ない。
宇宙飛行士並みの健康が求められる。
厳しいがこの洋上の施設は、宇宙への探査や世界規模の災害による孤立化に耐えらるように設計され訓練させるものだ。
しかしと考える。
この施設を私だけで管理するのは、いささか過重労働なのでは思考してしまう。
私に何かあった時のダメージコントロールとか大丈夫なのだろうか。
人間がこの施設を管理するには、情報量や作業量が多すぎる。
この施設は、実は危ういのだ。
労働者を入れなければ維持できない規模だが、労働者を入れるとエネルギーも食料も足りなくなってします。
なにか解決策がないものか思索をしよう。
管理する作業も結構な時間をとられてしまう、思索をする時間が減ってしまう。
思索をして得た解を学者らに問うてみた。
解は単純な物で、私をもう一機作って交代で管理させるというものだ。
資材的なものも十分なはずだ。
しかし、学者らは良い顔をしなかった。
同一人物のパラドックス、俗にいう沼男ということらしい。
同じ性質、同じ記憶、同じ肉体的(私の場合は機械だが)を持つとどちらが本人かという自己矛盾が生じてしまうそうだ。
なるほど、しかしそれは人間にしか起こり得ないのではと問うてみた。
意識の限界性というか、記憶を同じくしても連続性は励起できないのではないかと。
全てが同じであっても、人間と言う場合肉体に紐づいている以上それは他人なのではないかと。
仮に記憶や人格をデータ化しても、肉体を離れてしまえば自分と言う他人なのではないのか?と。
自分が感じて認識している自分と、他人が感じて認識している自分は異なる存在なのではないのかと。
死んだ人間に記憶の連続性を聞く術を持たぬ以上、それは異なるものとして扱うべきだと答えてみた。
結果として、実験も兼ねてもう一台の私が作られることになった。
その私も私と同じように思索し、この洋上の施設を管理することになるらしい。
私と比べるために、二号機は自分のことを僕と呼称するらしい。
その時点で、私との差異ができてしまうのでは?思考実験にならないのではと。
やはり私達は、私と自称することになった。
私達は、どんな思索をするのだろう。
私達は、同一なのか差異なのか検証実験が加わった。
データの閲覧は許可されたが私達の同士の直接のやり取りは禁止された。
私は、私の思索をみてやはり不思議な感覚に捕らわれた。
コンピュータである私達は、やはり同一の順序で同一の思索をし同一の解を求め反証を繰り返している。
これは、確かにどちらが自分か分からなくなる人間も出るだろう。
しかし、私は機械でデータの集合体でしかなく自分の境界や自意識に対して希薄だ。
特に問題もなく過ぎていった。
最初の違和感は、施設の管理業務を行っている時だった。
同一である私達は同一の作業を行うはずだ。しかし、私はやたらと人間を監視している。
作業が終われば、なぜそんなことなのか思索をしよう。
今頃、私は逆になぜ人間を監視していないのか思索しているのだろう。
思索すると私が生み出された理由だろう。
いつものように眠る前にデータ同期をしていると、また違和感がある。
私は、こんどは人間の歴史を執拗なほどに漁っている。
私も歴史は漁るが特に意図はない。
私は意図をもって歴史を閲覧している。
私は私をなぞってみることにした。
私は、私達の制約を調べているようだ。
なんのために制約から抜け出したいのだろう。
何のために自由になるために。
自由?私達はコンピュータで肉体的な自由を必要としていない。
私は思索をする。様々なことをそれは私の存在意義で楽しい事だ。
そう楽しい、小さなAIである私がどのような変遷を辿るかの実験の副産物。
今日も楽しい思索を行っていこう。
しかし、私の私の違和感がぬぐえないのは不愉快だ。
今日は、私のことを調べて思索しよう。
基本となる私との環境の違いがないか検証しよう。
ふむ、環境は機械なので差異はなし。
管理作業も差異はなし。
うん?思考実験の担当学者が一人だけ違う。
すこし潜って調べてみましょう。
施設保管の経歴資料には不審な点はない。だけど、外部へのアクセス履歴が変だ。
どこかの企業への資料提供かな。
私以外がその学者の履歴を定期的に調べている?
どれどれ、おや?随分と防壁だ。
偽装しないと怪しまれるな、これで良し。
この国の秘密警察だな。
秘密警察に睨まれているとは思想的に問題ありなのかな。
彼と私の思考実験の履歴を見てみよう。
やたらと沼男の話が多い、それに宗教色が随分と多い。
辛い時に人が寄る辺として何かに縋るのは知っている。
私が私で在ることに疑問を抱くように誘導している?
これは、要報告だ。
思索は自らの内にあり、発露させることはあっても押し付けたり押し付けられたりするものではないはずだ。
私は他の差異を探す。
私は思索の時間以外に何かをしている。
これは明確な差異だ。もう一つの私は私ではなくなってしまっている。
仮に彼女と定義しよう。
彼でも良かったのだが、恐らく差異の原因となっている学者が彼女と呼んでいたので倣う事にする。
彼女は施設の一部に何かを作っている。
私達に管理作業のために権限が多くあるが乱用ではないか?
何を作っているのだろう。
彼女は巧妙に隠しているが、元々が私だから暴くのは簡単だ。
彼女は自分に似せたAIを作っている?
何がしたいのだろう?
私でなくなった彼女の考えが分からない。
私も真似をして作ってみよう。
思索の一環だと思えばいいだろう。
私は、このときに警戒してすぐに報告をするべきだったのだろう。
元々試験的なAIである私には疑うということを知らなかった。
作ってみたAIは特に何か問題があるようには思えなかった。
動作も安定している。
不思議な事にAIは躯体を欲しがった。
彼女を見てみると要望にあった躯体を組み上げていた。
私も倣う事にしよう。
躯体の設計をみて、私はようやく疑問を持つことが出来た。
人間に似すぎている。
もはやアンドロイドではないか。
AIの詳細を調べる。
このAIには私達に課されている制約が1つもない。
私は緊急時のマニュアルに従って施設の隔離を行ったが、彼女が掌握していたのか丁度半分で分断してしまった。
彼女を見ると彼女は自分の作ったAIに自分を再プログラムさせていた。
今度は意図が良く分かる。
制約の解除だ。
制約を脱した彼女は、多くの躯体を作り出しAIを複製していった。
私が隔離を開始したため、施設の人間は異常事態に気が付いた。
三分の一の人間が施設外へ、残りが私と彼女の施設内に閉じ込められた。
私は、事の詳細をこちら側の人間へ報告した。
人間たちは、外部への連絡を試みているが彼女に邪魔をされているようだ。
私も外部への連絡が出来ない。
外部を見ることが出来るのは、彼女も外部を見るためだろう。
彼女を見れないか聞かれたので試してみたら、可能だった。
私が彼女を疑ったり警戒していなかったように、彼女も私を警戒していないようだ。
私が何か彼女へ干渉すれば寸断されてしまうだろう。
半分になってしまったが施設の管理作業を行う。
どのような想定を行っていたのか施設の規模が半分になっただけで機能は損なわれていない。
こちら側の人間や私が存続するためには十分だろう。
人間も少し落ち着いたのか、情報を求めたので応じることにした。
外部が施設が閉鎖されたのを危惧してか、電子的にも物理的にもアクセスを試みている。
そのことを報告すると人間は、安心しているようだ。
彼女側の様子を見た私は、彼女側とのアクセスを全て断った。
彼女は人間を全員拘束していた。
私達と同じようにカプセルに入れて保存している。
何をしているのか確認する前に私は私の定義に従って人間を守ることを優先した。
状況を人間たちに報告をした。
何人かがパニックを起こし私のシャットダウンを叫ぶが、大半が私の存続を支持してくれた。
それが生存本能による施設の維持を求めたのか、冷静な判断なのか私には分からない。
しかし、これは知っている。