何も分からない終わり1話
世話を焼きたがったり、やたらとべたべたしてくる。
「ちょっと良いかしら?」
ずっとニコニコしていた母さんが声を掛けてきた。
姉さんもネフィーもビクッとした。
なんだろう真剣な話かな。
「なに?」
「正太郎、これからどうするの?」
「どうするって」
「この世界が行き辛いのも知っているわ、でも、あっちの世界も行き辛いわよね」
「え?母さん?」
「私は、貴方が世界を行き来しているのは知っているわ、母親だもの」
「なんで?」
「お母さんは、何でも知っているわ。それでどうするの?」
「どうするって?」
「ねえ、行っちゃうの?」
姉さんとネフィーが泣きそうな顔で見つめてくる。
「え?ええ?」
「正太郎、向こうへ行くのは良いわ。でも、その後こちらに戻って来れるの?」
鈍器で殴られたようだった。
そうだ、俺は元の世界に帰ることばかり考えていた。
この世界は所詮はゲームだと思っていた。
それは何度も考えて、何度も考えることを止めたことだ。
「戻って来れるかは分からない。そもそも今回こっちに来たのもイレギュラーなんだ。詳しくは知らないけど」
「私を連れて行ってください」
ネフィーが、涙をボロボロとこぼしながら言ってくる。
いや、無理だろ。戸籍とか色々。
「連れて行ってあげなさい」
「母さん!?」
「こんなに必死なんだもの連れて行ってあげなさい」
「でも」
「その辺は男の甲斐性でなんとかしなさい。会長さんには話してあるから」
ええー?初耳だし!何で知ってるの?
「拒否権は無いからとっとと行ってらっしゃい」
「でも、ここに戻ってこれないかも」
「そこも解決済みよ?」
「はあ!?どうやって」
「内緒です、行ってきなさい。すぐ行きなさい、でないと明菜が暴れそうだから」
「わ、分かった」
俺達は、船を飛ばしてドラゴンさんにお世話になった。
空に穴が開くとは思わなかったなー。
謎パワーで、浮かんで吸い込まれて現在。
送られた部屋なう。
戻ったぞーって喜びたいけど
うん、隅田君。泣くのは早いよ。気持ちは分かるけど。
茉莉とネフィーが一触触発な状態だ、美人のメンチ切りって本当に怖いな。
そろそろ普通に殴り合いか殺し合いが始まりそうだ。
「よーよー、帰ったか。飯でも食いに行こうぜ」
へらへらと会長が入ってきた。
チッ!
舌打ちがデカすぎる。
「焼肉、食べたいだろ?」
「食べたいです!」
ごめん、俺は食欲には逆らえない男なのだ。
「「はい、あーん」」
「うむ、よきにはからえ」
俺の体はどのくらい眠っていたのだろう。
腹が減って仕方がない。
美少女二人にかいがいしく世話してくれる極楽だな。
メンチの切りあいに目をつぶればだけど。
隅田君、味が分からないって顔しない。
会長、笑いすぎ。
「会長、もうちょっと俺を労わってくれても、はい、いいです。はい、肉美味しいです」
「友田もネフィーちゃんも仲良くしろよ。ちゃんと一緒に居れるだろ」
会長が地雷踏み抜いて機雷に点火するような事いうし。
「独り占めできないのが気に食わないようだけど、それはお門違いだろ?そいつみたいな良い男に女が一人なわけないだろ」
隅田君、逃げるな!彼の裾を掴んで座らせる。
「もぐもぐ、そいつを好いている奴は沢山いる理由は言わなくていいな。でだ、それでも二人は此処で侍っている幸せか?不幸か?」
二人とも、うぐぐって言わないでよ。
とりあえず、二人の機嫌は直ったみたいだ。肉上手い。
「ところで会長、俺ってどうして向こうに送られたんです」
「ああ、立花には訳が分からないよな。なんか良く分からない存在に目を付けられたようでな、立花を渡さないと世界を滅ぼすって宣言された」
「それでですか、相手の事は分かっているんですか?」
「緊急だったとはいえすまなかった。相手については目下調査中だ、同業他社の可能性が高いと踏んでいるんだがな」
「世界を滅ぼすとか物騒ですね、それに俺戻ってきてよかったんですか?」
「渡せという契約は守った。戻ってきてはいけないとは言われていない。しかし、箱庭を作るのを咎めていた割に立花の身柄一つっていうのも妙な話しだ」
「なんだか分からない事だらけですね」
「ああ、しばらくは調査の結果待ちだ。ゆっくり休んでくれ、明日には家に送ってやる」
その後、ささっとシャワーを浴びてベッドに入った。
部屋の鍵はしっかりかけて。
同室じゃないとひと悶着あったのは蛇足だから言わないでおく。
しかし、世界を滅ぼすとは穏かじゃないなー。
まあ、会長が話してくれるの待ちだ。
そのころ、会長と呼ばれている田辺ふみはホテルに設けている執務室でモニターを睨んでいる。
傍らにはエナジードリンクの空き缶が散乱している。
田辺の家は財閥系に属する家で裕福だ、いくつも会社を持っており社会勉強としてゲーム会社も任されている。
自分の閃きと何故か上手くいったプログラムとハード開発で仮想現実を実現出来てしまった。
脳波のマッピングと電子銃の応用で実現できている。
何万回にも及ぶ安全試験を行ったので万全だが、仮想現実側で予想外の挙動が散見されている。
NPCがプログラム外の行動を取り過ぎるのだ。
仮想現実を実現するために人工知能と自己学習プログラムを採用したがサーバーの容量に見合ってない程に多彩な動きを見せている。
更に開発陣が知らないキャラクター、設定、世界観が多すぎる。
ゲームから現実世界に転送されてきたネフィーという存在が謎過ぎて混乱に拍車をかけている。
立花たちを家に送ったら、ネフィーの精密検査が必要だと考えている。
まるで別の世界に繋がってしまったような感覚だ。
田辺は、がしがしと頭をかいて報告書に目を通していく。今夜も徹夜になりそうだ。