探求 09話
あらあら、誰か見ていると思ったらエリーさんの中の人ね。
えーと、ああ、隅田君っていうのね。
私は、真雪。
明菜と正太郎の母であの人の妻。
あの日、天使にあの人が天使に連れられて文字通り天に召された。
いままで、実在が疑われていた天使や悪魔が実在するのではないか。
他の伝説も実在するのではないか、自分たちの勢力に組み込めるのではないか。
そう思う人間が居てもおかしくなかった。
この世界で、働き手を失くした家族への風当たりは厳しい。
私達の生活は急激に厳しくなっていった。
夫は研究職で軍部に身を置いていたため、比較的内地に居たために生活費が高かったのが災いした。
そうしている間に、明菜が事故で足を失った。
きちんとした治療を受けさせてやれず、切断することになってしまった。
私も働きに出たが大した給金にはならなかった。
そんな時、軍部から提案という名の命令を受けた。
夫がなぜ天使に選ばれたのか、天使はどういうものなのか質問という名の拷問が始まった。
そして、私は肉体を分解され脳を直接に弄られた。
それでも、子供の達の生活が保障されるならと耐えられた。
ある日、軍の研究部が何かを掴んだようで歓声が感じられた。
私は家に帰ることを許された。
脳だけの状態で生命維持装置に繋がれたまま。
その頃になると、コンピューターを脳内の電気信号で操ることが出来るようになっていた。
研究部が質問に答えられるようにと付けた装置が役にたった。
家に戻されて愕然とした。
家は、内地ではなく前線基地になっていた。
息子は、傭兵になっていた。
私は、哭いた。
涙の出ない目で血の涙を流し、声の出ない喉が裂けるまで心が壊れそうになるほどに。
私は狂ったように情報を収集し、整理し、正太郎のサポートに回った。
あの子が天に召されないように。
明菜にも苦労を掛けてしまった。
こんな状態の私の面倒をみて、弟の心配をして痛いほど気丈に明るく振舞っていた。
そんな日常の中、私は気が付いた。
いつもあの子を見ていたはずなのに、いつの間にか見えなくなる時があることに。
あらゆる衛星やセンサーを使っても見当たらない。
まるで、この世界から居なくなってしまったように。
あの子まで夫のように失ってしまうのかと死に物狂いで探した。
しかし、しばらくするとひょっこり戻ってきている。
これは絶対に違う世界と行き来していると確信していた。
私は、今まで以上に正太郎を見て感じるようにした。
そうすると正太郎が違う世界に行く道に辿り着いた。
私の良く知る、0と1の道だ。
その先に正太郎とは姿が違うが、我が子が平和に暮らしていた。
私は嬉しかった。
あの子が幸せだったことに。
しかし、この世界で辛い目に合わせていることが悲しかった。
私が思っているより、ずっと早く軍は天使の力を手に入れたようだ。
しかし、この世界で天使を人間の手で顕現というか受肉させるには苦労しているようだった。
その代わりに、悪魔が世界を闊歩するようになった。
あの子が天使を連れてくるのは予想外だった。
そして、私が身体を取り戻す奇跡も予想外過ぎた。
あの子は、向こうの世界で色んなことを学んでいたようだ。
男の子はすぐに手元から飛び出してしまう。
近所だった奥さんが良くこぼしていた。
その気持ちが今は良く分かる。
正太郎は、本当にあっという間に大人になってしまったようだった。
私は可能な限りあの子を助けよう。
あの子が私達を助けてくれるように。
でもと。
私は、少しだけ幸せな溜息をつく。
女の子にモテモテなのは後で苦労するわよ。
弟離れの出来てない姉に妄信している女の子が二人。
あのお友達が泣いているように修羅場になる未来しか見えない。
あの子の事だから、誰か一人に決めることができなくて困る姿が目に浮かぶ。
さすがにハーレムは容認できないわ。
とりあえず、明菜には釘を刺しておきましょう。
後の二人には頑張れってエールを送りましょうかしら。
でも、これからも増えそうな気がするので釘も刺しておきましょう。
さて、正太郎は今頃、何をしているのかしら?
ちょっと覗いてみましょう。
本当、あの子は何をしているのでしょう?
いつでも迎えに行けるように船の準備だけはしておかなくっちゃ。
正太郎は、今度はいつまでこちらで過ごすのかしら。
それもきちんと聞いておかなければならないわ。
あの子が向こうの世界で暮らすことを望むのなら、母として笑顔で送り出さなきゃね。
そろそろ、衛星が軌道に入るわね、ちょっと覗いてみましょう。
本当、あの子は何をしているのでしょう?