探究 05話
「テラフニエル!」
「御身の傍に」
「月が三つあるぞ!」
「質問の意味が分かりません」
「月が三つっておかしいだろう?」
「一つは、地球の衛星である月。他の二つは人工衛星として機能しております」
えー?今の世界ってなんか常識ぶっ飛んでないか?
「テラフニエル、バルキアケル、悪いが常識のすり合わせをしたい」
天使達との会話は驚愕の一言だった。
まず、人類は二つの月と地下のシェルターに住んでいる。
そこで、普通の社会生活を行っている。
動物も植物も管理保護されている。
その代わり、国の代理戦争よろしく地表では戦争が行われている。
これが俺の知っている冒険者の仕事だ。
それを娯楽のように楽しむのが一番の娯楽らしい。
「悪趣味だが、世界は回っているのか?その衛星はどうやって稼働させているんだ?」
「地球保護の観点から、資源衛星の軌道確保と資源探査船によって成り立ってます。地上産まれの人類には極秘とされています」
「なんか神様ごっこみたいだな、とりあえず何処かの集落に移動できないか?」
「北西に湖があるので、その周辺がよろしいかと。珍しく一次産業を行っている集落があります」
「んじゃ、そこで、とりあえずおやすみ」
流しに空になったコップを浸してベッドに潜った。
夜明けの湖は、幻想的だな。
雄鶏が元気よく鳴いている。
湖から村へ向かう道をのんびり歩いている。
ここは、地上では珍しい自然が豊かで、森と大地と湖の恵みを受けて農業をメインに慎ましく過ごしているらしい。
「マイナスイオンでも出てるのかね、気持ちがいい」
うん、伸びをして道を歩く。
お、農具を手にした第一村人発見。
「おはようございます」
「おはよう、こんな辺鄙な所に人が来るなんて珍しい」
「休暇がてら旅しているんですよ」
「そうかいそうかい。うちの村に宿屋は一軒しかないがゆっくりしていくといいよ」
「ありがとうございます」
俺は、村人と別れて村に向かった。
そういや、宿屋の名前くらい聞いておけば良かったな。
村は、柵に囲われているが門番もおらず、鶏がのんびりと道を歩いている。
「さてさて、宿屋は大体村に入って直ぐにあるもんだ」
ほれほれ、それらしい看板が早速あった。
看板娘でもいれば、なお良しだけど田舎じゃ期待できないかな。
ドアを開けるとチリンチリンとドアベルが気持の良い音で迎えてくれた。
「いらっしゃい、旅人さんかい?何にもない村だけどゆっくりしていっておくれ」
優し気な女将さんが迎えてくれた。
「ありがとう。とりあえず、10日分で幾らになるかな?」
「朝食付きで一泊銀貨一枚で、金貨一枚でいいよ」
これは参った。
ここでは傭兵端末でのクレジット支払いが出来ない。
しかも、硬貨というのは価値が一定していない。
仕方ない、一番含有率の良い金貨を渡しておく。
クレジットでの支払いが出来ない事もあるので多少は金貨も持っている。
「へえ、真金貨じゃないか。若いのにお金持ちなんだね」
「まぁ、それなりに傭兵してますから」
「傭兵だったんだ」
女将の目がほんの少しだけ細くなったのを俺は見逃さなかった。
傭兵は、嫌われ者かな?
まぁ、乱暴者も多いしな。
「はい、これ部屋の鍵ね。出かける時は声かけてね、夜は酒場が開いているからおすすめよ」
「ありがとう」
俺は鍵を受け取ると部屋に入った。
思ったより良い部屋だ。
豪華ではないが、掃除は行き届いているしシーツも清潔だ。
しかし、妙だな。
「テラフニエル、バルキアケル」
「盗聴器が5つ、監視カメラ2つです」
不穏だねー
バルキアケルに小さな天使を生んでもらって周辺へ飛ばしてもらう。
もちろん、ステルス仕様なので人間に見つかることはない。
「散歩に行ってきます。湖って釣りしても大丈夫ですか?」
「漁の邪魔にならなければ大丈夫よ。道具屋で釣り具も売っているわ」
「ありがとう」
ブラブラと歩きながら、道具屋を探す。
ふと、思った。
人、少なくない?
そのまま道具屋らしき所に着いた。
「こんにちわー」
「いらっしゃい」
皺くちゃの婆さんが迎えてくれた。
「釣り具、一式とお勧めのポイントとかあれば嬉しいな」
「そうかい。道具屋の私が言うのもおかしいが止めておきな」
「どうして?」
「魚は、釣れないからさ」
「じゃあ、何が釣れるの?」
「何にも釣れないさ」
「え!?魚が居ないの?」
「いや、魚は沢山いるさ、昔は湖の漁業も盛んだった、しかしね、いつの間にか魚が採れなくなった」
「大丈夫なの?」
「全然さ、男衆は出稼ぎに出なきゃならなくなった。傭兵になって命を散らした若者も多い」
「そう、なんかゴメンね。でも、釣り具は貰うよ」
俺は、テクテクとバケツに釣竿を持って歩いていく。
「天使の何体かが応答しなくなりました」
バルキアケルからだ。
「湖の方向から?」
「ご存知でしたか」
「なんとなくね」
「宿の方に動きは?」
「今は、なにも」
「そ、動いたら教えてくれ」
なんだろうね、なんか行く先々でトラブルとかそんなのに見舞われている気がするよ。