本当の世界とは? 24話
見張りは居るが、やる気が無くあくびをしている。
俺は空を見上げた。
キラっとした瞬間、構えた俺の手にはスリングショットやら頼んだ物が収まっている。
俺は、足元の小石をいくつか拾うと、少女を捨てた場所へ向かった。
見張りは居ない。
バシュバシュ。
死体に群がったネズミをスリングショットで屠っていく。
都合、10匹ほど狩るとネズミが逃げ出した。
俺は、ネズミの内臓をその場で隠し持っていた小さなナイフでかきだしてバラック小屋に戻った。
戻ると、全員が起きていた。
「あれ?なんで起きてるの?」
俺の隠密だと全員朝まで起きないはずなのに。
「胸騒ぎがしたもので」
「ああ、それは、すまない。直感持ちか?」
「隠しても仕方ないでしょう、ええ、直感もちです。そのおかげで生き残ってしまいました」
「そうか、それが幸せかどうかは他人が決める事じゃないな。とりあえず飯にしたい」
「食事は既に終わってます」
「それは奴隷根性ではないな、生きるための知恵か」
俺はボリボリと頭をかいた。しばらく風呂に入っていないからフケが飛んだ。
「取りあえず、取ってきたネズミはばらすよ。何とか火を焚いても大丈夫な場所ないか?」
「それなら、裏は誰も近寄りません、不浄場ですから」
「なるほど、放置されたトイレってことね、臭いも漏れないか」
そして、俺はネズミを解体して肉をトイレで焼いている。
「荷物に岩塩があるのは、テラフニエルの入れ知恵だろうな、小さな荷物に随分と便利道具が詰まっているもんな」
俺はネズミの焼肉に塩を振りバラックに戻った。
肉にかぶりつくと、ぱさぱさしているが久しぶりの肉に身体が歓喜をあげている。
視線を感じて、目をあげると涎を垂らしている子供がこちらを見ている。
「秘密を守る、俺に従う。ならば、食っていい」
「止めなさい!」
飛びつこうとした子供を、直感持ちの少女が止めている。
「結局、奴隷と同じです」
「死ぬより良いだろ」
子供たちは、ネズミにかぶりついた。躊躇していたが女性陣も結局空腹には耐えきれなかった。
俺は、追加の肉を狩って焼いた。
そして、夜が更けて鉱石を運んでいる。
ネズミとはいえ、たんぱく質を摂れたうちの班は誰も倒れなかった。
しかし、やはり死人は出た。
今夜も、ネズミを齧りながらバラック小屋で話をする。相手は何時もの直感もちの少女だ。
名前を聞くと感情移入してしまうからあえて聞いてない。向こうも聞いてこない。
「こんだけネズミが居るのにコレラとかペストとかないんだな?」
「コレ?なに?」
「病気の名前だよ」
「ああ、病気は起きないわ、理屈は分からないけど全て焼き殺したって私が連れてこられたときに聞いたわ」
「そうか」
俺は、病気にならない安心を得た代わりに不安も得てしまった。
「テラフニエル、エリーにこの施設の放射線量を」
「既に実施しています、人間の許容量を超えています、恐らく核が使われたかと」
「見張りが少ないのも、死人がやけに多いのも」
「はい、飢餓と過労に加えて被爆による内臓疾患によるところが多いです」
俺は、一つの疑問を持った。
「このバラック小屋は俺が来てから死人が出てないが?」
「はい、極限状態から栄養素が補充されたことによって進化が見受けられます、放射線に耐性がついています」
「おれ、やってしまった?」
「分かりませんが、放射線に耐性がある人類は目の前の方たちなので希少でしょう。それが遺伝するか研究の余地がある以上価値は」
「もういい、分かった」
結局、此処に居る人たちの面倒を見ることだろ。
「ああ、今回はお人よしは無しだから、死んでも人体実験でも見捨てる」
「そんな、苦しそうな顔を為されなくても」
仕方ない。仕方ないんだ。
その夜中、俺はまたバラック小屋を出る。
見上げるとキラリと光と共に手に手紙がある。
エリーからの準備完了の合図だ。