本当の世界とは? 23話
案の定だよ。俺の預金の大半が吹き飛んだ。
哨戒ヘリが3機、哨戒機1機、なぜか戦略爆撃機1機。
型番聞いても分からなかった。
逆に目立つんじゃ?って思ったよ。
制空権については、天使の飛空艇はチートだったから文句が言えない。
それぞれの搭乗員はNPCを雇うので費用が嵩んで仕方ない。
今回の作戦に、これだけのものが必要なのか疑問でしかない。
マモンから配置図も規模も手に入れている。
なにより、俺はその航空機に乗らないんだ。
え?俺はどうなってるかって?
手錠に繋がれてボロボロのトラックに載せられて、目的地に向かっているよ。
変装のためにボロボロの服着て街道をフラフラしてたら、案の定人攫いに攫われて運ばれてる。
それを、哨戒機たちが追ってるんだから潜入ミッションじゃないだろと突っ込みたい。
「今回の収穫はいまいちだな」
「ああ、女も居ないしな」
どうやら、下衆なのは確定だな。
「エリーが、航空機ばかり買わなければ、こんな風に潜入しなくてもよかったのに」
俺は、一人ごちて周囲を見回すと女子供ばかりが詰め込まれている。
全員に痣があるから真っ当な状況ではないだろう。
しかし、行先は割り出しているので大人しくしておくことにする。
それから数時間後、俺達はバラック小屋に降ろされた。
「エリー、俺の位置は分かるか?」
俺は首に巻いた骨伝導型無線機のチョーカーに響くように小声で話した。
「ああ、ばっちりだ。そこは目標の中だ、恐らくそこから配分されるんだろう」
「了解」
女子供しかいないのは、反乱を恐れているんだろうな。
と言う事は、ここの警備にそれほど脅威ではないだろう。
俺は、しばらく大人しくすることにした。
俺の足には足枷がつけられた。案の定、この採掘場は原始的な方法を取っていた。
比較的大柄な子供や女性が鶴嘴で鉱石を掘って、俺のような小柄な子供がそれを運び出す。
流石に生成は最新の設備が使われていたが、採掘に大型機械を導入しないことで敵に発見されることを防いでいる。
その分、従事している人間、いや、奴隷の生存率は低い。初日で目の前で小さな子供が倒れた。
栄養失調と過労だろう。いまは何もできない。
倒れた子供を見つけて見張りの兵士が近づいてきた。
銃口で、つつくが反応が無い。
兵士は、そのまま引き金を引いた。近くの子供に死体を捨てて来るように命じた。
その中に俺も含まれている。
そして、採掘場の隅の穴の中にその子を落とした。勿論、弾丸は抜いて最低限の治療はしてる。間に合うかは神のみぞ知るだ。
気分の悪いまま、俺は自分のねぐらであるバラック小屋に行った。
此処は夜間の作業はしないらしい。照明代をケチっているのか灯火管制にあるのかは分からなった。
一日に一食の食事が配られる。
臭い薄い塩味のスープに固い黒パンだ。
生きるのに最低限以下の食事だし、ビタミンもたんぱく質も足りていない。
そのため、バラック小屋にいる面々は顔色も悪く、やせ細っている。
「死んでも替えが効くと思っているんだろうな」
俺は、自嘲気味に笑った。
ここ何日間で分かったことがある。
働かされているのは、戦闘力のない女子供。警備は薄い。
そして、ないより欲しかった情報。浄水施設の差別化だ。
警備の兵士には、汲み上げられた水を浄水塔から供給している。
奴隷状態の俺達には、組み上げたそのままの水が家畜用の水入れに入れられている。
その水は、当然汚染されていて、子供たちは下痢が止まらない。
さて、どこから手をつけたものか。
まぁ、エリーの対応待ちだな。
俺は、ボロボロの寝袋に潜り込んで無理矢理寝ることにする。明日も無駄な仕事だ。
一方、採掘場の外。
温かい、こんなの何時以来だろう。
村が野党に襲われて、お父さんもお母さんも殺されて私は採掘場で荷運びをしていた。
はっ、早く起きないとまた怒られて殴られる。
私は、ガバッと身を起こしたけど頭がフラフラしてまた、倒れてしまう。
「やれやれ、正太郎のメモより重症じゃないか、ゆっくりお休み。ここは安全だ」
あれ?私の視界には筋骨隆々の女性?と天使様?がいた。
私は、そのまま瞼を閉じた。
「大丈夫なのかい?」
「危険な状態です。点滴を推奨します」
「そんな道具、この世界には基地に行かないと」
「エリー様、正太郎様からそのチェストに必要な物は全て置いてあると聞いていますが」
此処は、採掘場から数百メートルの距離しかないところに建てたテント。
正太郎が、仮拠点として隠密性を重視して作ったものだ。
チェストを開けると医療キットの中に点滴一式がある。
「正太郎は、予想していたのかね?」
「むしろ、同じ世界に生きていたエリー様が予想できないことが私には理解不能です」
「あんた、天使のくせに口が悪いね」
「それは否定します、私は事実を述べただけです」
「この世界はどうなってるんだ、私の世界では奴隷も居なかった」
「それは、この世界が現実に近いからでしょう」
「現実?」
「人間は同種を物の様に扱った歴史があるではないですか、それより正太郎様からは?」
「まずは、この子の治療が先だ」
エリーも簡単な治療の心得は傭兵としてある。
小さな血管に点滴をしていく。
小さな体が少しずつ、少しずつ赤みと体温を戻していく。
「ほんとにこの世界はなんなんだい。こんなんじゃ精神がもたいないよ」
エリーは、スヤスヤと眠る少女を苦しい顔で見つめていた。
はぁー、腹減ったな。
俺はおもむろに起きだした。
幾らゲームでも、いや、ゲームだからこそ飢餓によるマイナス補正は避けていきたい。
俺は、バラック小屋から外に出て、裏に回る。