未来は、まだ、分からない 7話
二人は、エレベーターで地下へと下っている。
地下施設は、シェルターを兼ねているため深くまで下りていく。
エレベーターの中で正太郎は無言だった。
レイコの行方を聞きたいとも思った。
しかし、自分に背中を向けているにも係わらずヨーコの暗殺者にも似た気配に身動き一つ出来なかった。
チン、と小さな電子音と共にエレベーターのドアが開いた。
そこは、何とも奇妙な場所だった。
長い廊下の両側に等間隔で扉が並んでいる。
その先は、あまりに長く見通すことが出来ない。
「正太郎様、ここはシェルターの一つ前の階層で個別でブリーフィングを行うためのフロアです。先はただの行き止まりになっています」
正太郎の表情から、ヨーコが先んじて説明した。
正太郎は納得していないが、自分には関係ないことだと興味を失った。
二人は、約5分程歩いて一つの扉の中に入っていった。
そこは、応接セットと珈琲サーバーが置かれているだけの殺風景な部屋だった。
しかし、そのテーブルは3次元で映像を投影でき、その映像をそのまま操作できる最新式のシステムだった。
テーブルの1メートル程上に地図が投影されている。
ヨーコが珈琲を二つ持って、正太郎に席に着くよう促した。
珈琲を渡されると地図上にマーカーが表示された。
「それでは、ブリーフィングを始めます」
ヨーコがテーブルに手をかざすと幾つもの画面が表示される。
「今回の作戦は指名依頼のため極秘任務となっております、他言なさらないよう念のため申しておきます。作戦目標は敵ヘリ基地の殲滅及び基地に秘匿されている兵器の鹵獲です」
「あんた、本気で言っているのか?」
「ええ、順序としては秘密兵器の鹵獲の後、基地の殲滅となります。殲滅を先にされてしまうと鹵獲に支障がでると予想されるからです」
「俺一人で、敵の基地に潜入して、得体の知れない秘密兵器をぶんどって更に殲滅しろと?」
「左様でございます」
「不可能だろ!どう考えても!俺一人じゃ殲滅の火力が足りない。潜入するにも警備を潜り抜けられるはずがない秘密兵器の保管場所だぞ」
「基地の詳細は、この様になっております」
3次元映像がより立体的な構造図を表示した。
「基地には、ヘリが14機配備されており、内2機が輸送用の大型ヘリとなっております。基地の構造は基本的なヘリ基地と変わらずヘリポート、管制塔、保管整備用の倉庫となっております」
表層の映像は、その通りになっている。
しかし、地下へ深く続くように通路が伸びており、その最下層に基地の半分ほどのスペースが広がっている。
「お察しの通り、この地下に兵器が格納されていると思われます。整備用倉庫からエレベーターが続いているようです。エレベーターの大きさから兵器自体の大きさは、さほど大きくないと推測されます」
「質問だ」
「なんなりと」
「兵器が部品で搬入されていた場合、すべてを持ち出すのは不可能だ」
「おっしゃる通りです。その場合は一部の持ち出しのみで結構です」
「潜入の手筈は?まさか一からって訳じゃないだろう?」
正太郎には、この依頼のアンバランスさに気が付いた。
敵の情報が詳細に渡って把握しすぎている。まさに準備万端と言った感じを受けた。そこで、すこしカマをかけてみることにした。
「ええ、光学迷彩を採用した装備と基地内部での通行用IDの用意が出来ています」
「基地の殲滅は、ヘリを使用不能でいいのか?」
「いいえ、完全に破壊していただきます。表層部は航空支援による爆撃が可能ですが、深層部については爆破をお願いします」
やっぱりだと正太郎は思った。
基地への潜入も殲滅もお膳立てが揃っている、いや揃いすぎている。
ここまで用意周到なら自分でなくても十分達成可能なはずだ、それなのにソロの自分に指名依頼となっている。
考えられる可能性は、秘密兵器自体の鹵獲が困難であるか作戦終了後に自分が口封じされるかだ。
どちらかといえば、口封じの可能性が大きい。
「報酬と準備期間は?」
「報酬は100億円、この報酬とは別途ご家族への遺族年金が適用されます。準備期間は1週間です。1週間後には基地を出発してください」
「失敗条件とその場合はどうなる?」
「鹵獲の失敗が条件となります。また、失敗の場合は通常通り何もありません」
ああ、これは詰んだと正太郎は思った。
失敗条件が鹵獲のみってことは殲滅は、自分たちで可能ということだ。
さらに正規兵でない傭兵に年金までちらつかせてきた。
これは何としても成功させて、そして殺されなければならない。