本当の世界とは? 20話
「正太郎、言っちゃなんだがこれはないぜ」
「うん、俺もそう思う」
俺達は、店員の居ないボロボロのダイナーの辛うじて残っている席で向かい合っている。
補給基地とは言ったが、目に入ってきたのはガソリンスタンドだ。
食事できるとかちょっとした買い物ができるアメリカ形式だと思う。
行ったこと無いから分かんないけど。
「今の俺達に必要な物は?」
エリーがダイナーのキッチンに入って何かごちゃごちゃと触りながら訪ねてくる。
「足です」
「そうだ、足だ。ここには車も何もないぞ」
「はい、おっしゃる通りです。会長に頼むの忘れました」
「まったく、どうしてゲームの中ではこう抜けているんだい?」
「ゲームだからとしか」
「珈琲があったぞインスタントだけど、後、これなーんだ?」
エリーが俺の前に珈琲の入ったカップを置いて、何かをチャラチャラと見せびらかしている。
「それは、車の鍵?」
「ああ、大方倉庫にでも眠ってるだろうさ、さっそく見に行ってみよう」
「分かった」
「俺は、珈琲を一気にあおるとエリーと一緒に倉庫に向かった。
「普通の乗用車だね」
「そうだね、これじゃあ道が無いと走れないけど、無いよりマシかな後は動けば良いんだけど」
エリーが運転席に乗ってキーを回すがうんともすんとも動かない。
「うーん、だめだねー」
ボンネットを開けてエリーがあれこれとチェックしている。
俺は修理のスキルを取ってないから何にも出来ることが無い。
「あー、バッテリーが死んでるのかな。バッテリーはさっきの店にもあったな。ちょっと取ってくるよ」
エリーは、嬉々として走って行った。
俺は、ふとを腕を見るとキラキラと光る腕輪を見た。
「テラフニエル?」
「御身の傍に」
「うを!」
そこには、翼を畳んで地面に降りたった天使が一体居た。
「みんな無事?」
「ええ、筒がなく過ごしております。移動なさいますか?今ならお父様のお力で月まで転移が可能ですが」
「い、いや。やめておくよ」
エリーが鼻歌を歌いながら戻ってきた。
「良いのがあったぜー、これで車も元気になるよって、誰だいその美人さん?」
あれ?意外と普通だな。
「まぁ、自己紹介は後だね。まずは車ちゃんを直しちゃうよー」
テキパキと作業して、エンジンを掛けた。
子気味の良いエンジン音が倉庫の中に鳴り響いている。
「んじゃ、ガソリン満タンにしてくるぜー」
エリーは、そのまま倉庫から出て行ってしまった。
言えない、車じゃ行けないところに行こうとしてるなんて。
どうしよう。
まごまごしてても仕方ない。
とりあえず、装備も必要だ。近くの基地までは行きますか。
「お、来たね。ガソリンも満タン、謎の美人さんも一緒に行こうぜー」
「了解しました」
「とりあえず、装備だね。あ、自己紹介が遅れてごめん。私はエリザベス、エリーって呼んでくれ」
「私は、テラフニエルと申します。正太郎様の守護天使をしております」
「テ、テラ?なんて?守護天使って濃いキャラぶっこんできたね。でも、嫌いじゃないよ!これからよろしく。さぁさぁ乗った乗った」
隅田君は、ゲームだとはっちゃけるタイプなのかなーと助手席の窓から移る景色を眺めていた。
「端末が無事で良かったけど、折角の装備が全部パーになったのは痛いねー」
「うん、俺もそれは思った。普通に一回依頼受けて金を稼ごう」
「賛成ー、オンラインできない仕様だから共闘は世界初だよ。楽しみだ」
「それはそうだけど、NPCとの共同任務とかあっただろ」
「そこは、やはりNPCというかパターンが出るでござるよ」
エリー、中身が出ちゃってるぞ。
「パターンとか分かるのか?俺には全然理解不能だよ。NPCとは組みたくないね、勝手に暴走して勝手にやられたりするし」
「まぁ、その辺は割り切って任務の遂行だけを考えるからね。だから、助けないし助けてもらえない世知辛いよ。だから、正太郎と任務するのは楽しみで仕方ないよ」
なんだよ、ちょっと照れくさい事を言うじゃないか。
それじゃあ、こっちも本気を出して挑みますか。
「エリー、これからのことにいちいち驚くなよ?それがミッション達成の絶対条件だ」
「舐めたこというんじゃないよ、こちとらトップランカー張ってたんだ何があってもだいじょうぶだ」
「ははは、期待しないでおくよ。市場に向かうぞ」
「了解」
「テラフニエル、適当に財宝を持っておいてくれ。マモンとの取引だ」
「了解しました、明菜様より必殺アイテムを預かってます」
「姉さんから?なんだろう?」
「正太郎様には、明かさない約束です」
「そうかい、期待しておくよ」
「なに二人でコソコソしているんだい?仲間外れは寂しいよ」
「なんでもない。現状の打ち合わせだ」
俺達は、市場の奥にある八百屋に向かった。
「八百屋なんてあったんだ、って何のステータス付与もかからない商品ばかりじゃないか。フレーバーテキストのかわりかね?」
俺はエリーに、ニヤリと笑みを送って店主に話しかける。
「西瓜を一つ、代金はこれだ」
金貨を渡すと、店主は店の奥へ案内してくれた。
「な、なんだいこれ?こんなシステム知らないでござるよ」
隅田君、素が漏れてるよ。
「これは、これは正太郎様、お久しぶりです」
「俺的には、そうでもないんだけどな。椅子を宝箱に変えたんだな」
「ええ、やはり便器ですとベルフェゴールとまちがえられますので、私は勤勉ですから」
「笑えないが、正しいな」
「ななな、なんでござる?これはステータスも出鱈目でござる」
「お客人、むやみに他人を覗くのはよくないですよ」
「お前が言うな。エリー、こいつはマモン。この世界では一番の情報屋だ料金は高いがな」
「エリーです。よろしくお願いします」
隅田君、キャラぶれぶれだぞ。
「今回はどんなご用件で?」
「ああ、この作戦対象の敵性勢力の規模とマップ。それと幾つかの細菌兵器だ」
俺は、端末を差し出して言う。こいつのことだこれだけで十分な情報が得られるはずだ。
「畏まりました、しかし、中々の難易度ミッションですね。対価もそれなりに」
「それは私が」
テラフニエルが、小さな小袋を差しだした。
「これは!?」
マモンの顔色が変わる。
「悪魔のお前なら分かるだろう、これに込められた神性が」
「ええ、ええ、これなら十分に対価になります。むしろお釣りを出さなければ」
「それは、正太郎様に必要な物資に替えてください」
テラフニエルが文字通り天使の微笑みを浮かべる。