本当の世界とは? 19話
ゲームの中の世界は、乾いた空気をしている。
良い空気とは言えないが俺は嫌いじゃない。
「会長、中に入りました。俺達はどうしたら良いですか?」
「正直分からない」
「え?正太郎の家族NPCが移動を停止した、其処へ向かうか?」
「でも、こっちに向かっているんですよね?」
「恐らくでしかない、何か連絡手段は無いのか?」
「みんな傭兵ではないので、携帯端末を持っていないんですよね。うーん、神頼みならぬ親頼みしてみようかな」
「なにか案があるのか?」
「正直、どうなるか分かりません」
「エリー、買い物に出かけよう。PCを一つ買うんだ」
「珍しい物を買うんだな」
「うん、回線はこの携帯端末を利用して、メールを送るんだ」
「誰に?」
「自分に」
「何を言っているんだ?」
「多分、うまくいくよ。市場に行こうぜ」
「分かった分かった」
俺達は、エリーと一緒に市場に向かった。
この世界で個人がPCを持つことは珍しい、一番は需要が無い事。
武装以外の量産が無いから異常に高いし、傭兵が使う物の方が高性能で高耐久だからだ。
しかし、どんな世も物好きがいるもので、多少値が張るが個人用に持つ者も存在している。
メールが送信できれば良いので、旧型のノートパソコンを手に入れた。
家に帰って直ぐに設定して、自分の傭兵用アドレスにメールを送信した。
自分の家に帰ってきている事を自分に送る。
こんな変なデータが飛んでいたら、きっと母さんが拾ってくれるはずだ。
「エリー、お茶でも飲んでゆっくりしよう」
「ほいほい、そう言うと思って淹れてあるよ」
「ありがとう、紅茶なんて珍しいね。緑茶かと思ったよ」
「そら、世界観は合わせないとね」
ポーンとメールが届いた音がすした。
「早速、返信が来たよ」
「自分に出した、メールに返信が来るのかい?」
「ああ、うちの母さんは電子戦では無敵だからね、このくらいするさ。会長確認できていますか?」
「ああ、こちらでも確認できた文字列はおかしいが何となく読める」
俺は、メールを開ける。
普通に母さんから心配する言葉と何処に居るかのかというメールだった。
「エリー!緊急脱出だ、急いで逃げるぞ!」
「な、なんで急に!?」
「母さんが居場所を聞いてきた。これはあり得ない。母さんなら発信源位すぐに分かるはずだ」
俺は、パソコンに弾丸を打ち込んで電源を差したまま水を掛けてショートさせる。
エリーは、すでに外で車のエンジンに火を入れている。
この辺の危機管理は、このゲームをやりこんでる感がある。
中身も知っているだけに心強い。
けたたましく砂煙をあげながら、俺達は基地を飛び出した。
「会長!ログアウトの許可をください」
「一体、どうしたんだ?」
「いま、会長がモニターしている俺の家族NPCは偽物の可能性が高いです。現有戦力では捕縛される可能性が高いです」
「分かった、そこから南に進んだ場所に補給地点がある、そこで強制ログアウトさせる」
「ありがとうございます。エリー!飛ばせ!」
「了解!」
俺達は、補給地点のガソリンスタンドで車を降りた、ログアウトのカウントダウンの中で見たのは大きなキノコ雲だった。
「大丈夫か!?」
俺達は、大量の汗をかいてヘッドセットを外して、床に転がる。
皮膚が焼けただれる感覚や痛みを幻視してしまう。
会長と茉莉がタオルで、俺達を拭いてくれる。
「すまなかった、こちらの落ち度だ」
「どういうことです?」
「君たちがダイブする前に、メールが届いていたんだ。偽物に注意しろと書いてあった」
「一体、なにが起こっているんだ」
「こちらでも解析を進めている。サーバーを止めることも考えたが全てが消えてしまっては闇の中だ。そのまま動かしている」
「会長、メール来てます」
茉莉がノートPCを持って入ってきた。
「なんと言っている?」
「正太郎は、無事かと聞いてます」
「無事に脱出したと返信してみてくれ、これまでは一方通行だったがこちらからもアプローチしても良いだろう。なにか嫌な予感がするしな」
「二人には、申し訳ないがもう一度潜ってもらう。もちろん、別の基地からスタートだ。あんな大量破壊兵器は実装していないはずなのだが」
会長は、思案顔だ。
「会長、このゲームの基幹プログラム組んだ人とかでも分からないのですか?」
「ああ、スタッフは全員休暇返上だ。しかし、何も分からない。何しろコードが文字化けしている部分もあって一部がブラックボックス化してしまっている」
「そんな異常事態なのですか?」
「ああ、飛び切りの異常事態だ。しかし、他のユーザーには何にも影響が出ていない。だからこうして君たちに頑張ってもらっている」
俺は、ふと思ったことを聞いてみた。
「会長」
「なんだ?」
「俺のデータ削除で全部終わるんじゃないんですか?」
「それも一つの手かもしれない。それには君の同意が必要だ、それに何故かそれをしてはいけない気がするんだ」
「そうですか」
「会長、メールの返信来ました」
「なんと?無事を喜ぶ言葉と何とか合流できないかという内容です」
「茉莉、そのメールで聞いてみてくれないか?俺はあの時、失敗して世界を燃やしてしまった。地獄も地上も天界も炎に焼かれたはずだ。なんで無事なのか?と」
「う、うん」
それは、メールの差出人を疑っている言葉だ。
疑いたくはないが、さっきの事を考えると何も信じられなくなってしまう。
「分かった、聞いてみる」
直ぐに返信が来た。
「お前が作った月の基地に避難していたから無事だった。地球が燃え尽きて直ぐに再生したのには流石にびっくりした。神やってたら転移位お手の物だ、お前の父より」
そうか、月の裏側までは炎は届かないよな。燃焼するものがそもそも存在していないのだから。
なんだろう、ただのゲームの中のデータでしかないのに安心している自分が居る。
「会長、管理者権限でログイン場所弄れませんか?」
「もう潜るのか?」
「ええ、でも、ログアウトした場所も安全じゃなさそうですから、どっかの補給基地にしてほしいです。それから、メールで其処の座標を送っておいてください」
「分かった、しかし恐らく長くは持たないぞ。ミサイルの発射を確認したがお前たちの居場所が探知されているかもしれない」
「PCは吹き飛んでいるので大丈夫ですよ」
「分かった、無理はするなよ?」
「はい」
俺達がまたヘッドセットを着けて横になろうとすると、茉莉がこちらを見つめている。
心配そうな顔だ。
「大丈夫だ、心配するな。ちゃんと戻ってくる」
そう言ってまた、あの世界へ潜って行った。