本当の世界とは? 16話
「お前の家族NPCが移動を開始した。通常、NPCがPCが同行しない形で移動することはプログラムされていない。解析を始めているが時間がかかりそうだ。行先に心当たりは無いか?」
「正直、分かりません。もしかしたら僕らが居るここに向かっている事はないですかね。一番長く住んでいた場所ですから」
「そうかもしれない。すまないがそこで暫く待機してくれるか?」
「だ、そうだ。エリーはどうする?」
「どのくらい時間がかかるか分からないから、食料でも仕入れて来るよ。毎日レーションじゃ味気ないしね」
俺は、やる事も無いから家の中をうろついてみる。
ゲームの中でしかないのに、妙に懐かしい。
自分の部屋に入る。
ゲームでは自室に家具を設置したりできるのだが、俺は興味がなく殆ど何も置いていない。
備え付けのベッドと机と椅子。
何とはなく椅子に腰を下ろして、机の引き出しを開けてみる。
「なんで、これがここに・・・」
引き出しの中では、クリスタルの様な素材で出来た腕輪が淡く光を放っている。
俺は、これを知っている。
腕に嵌めて、念じる。
目の前に槍が現れる。手に取ると良くなじむ。
槍は、また腕輪に戻った。
俺はリビングで呆然としている。
考えがまとまらない。
この世界は初期化されている、隅田君と一緒にプレイするためにNPCの設定とかを繋いでいるのは聞いた。
だが、これは今の時点では存在すらしていないはずなのに。
「おいおい、正太郎なにを呆けているんだ?」
エリーが食料を仕入れて帰ってきた。
「基地内の配置とか、部屋の配置とか何処も一緒だね、この辺を凝ればもっと面白いんだろうに。お、冷蔵庫は生きてるね」
エリーが冷蔵庫にどんどん物を仕舞っていく。
初期配置は、同じだけど所有すれば色々カスタマイズ可能なんだよな。戦闘ばかりしていると中々気が付かないんだろうな。
「立花!隅田!聞こえるか!?」
会長が慌てたように通信を入れてきた。
「聞こえています、どうしたんですか?」
「二人とも急いでログアウトしてちょうだい、NPCの異常行動が感知されたわ」
「わ、分かりました」
俺達はメニューから、ログアウトボタンを選択した。
ちょっとした浮遊感と暗転の後、俺たちは現実世界に帰ってきた。
VRギアを外すと、会長が部屋に入ってきた。
「二人とも無事だな?何か違和感など無いか?」
「はい、大丈夫です。何があったんですか?」
「詳細は解析中だが、何が起きたかは気になるだろう夕食でも取りながら話をしよう。ホテルに入っている寿司屋にでも行こう」
「俺、そんな高い物食えませんよ」
「気にするな、調査の経費で落としてやるから気にせず食べろ。風呂にでも入って来いその後に皆で行こう」
俺達はダッシュで自分の部屋にダッシュした。
ダイブ型のVRは身体を動かさないため、エコノミー症候群回避のため適度の休憩と運動が推奨されている。
血行の促進と湯船に浸かることも同様に推奨されている。
しかし、寿司を前にした俺には関係ないシャワーをざっと浴びるだけに済ますつもりだったのだが。
「さすが高級ホテル、無駄に風呂もデカいな」
俺は湯船に浸かっている。
どうしてこうなったのかは明確だ。俺の向かいで湯船に浸かっている奴の存在だ。
「ゆーくんの事だから、シャワーだけに済ますつもりだったでしょ。会長もちゃんとお風呂に入りなさいって言ってたでしょ」
「だからって、お前まで入ってくること無いだろう」
「私がちゃんとしないと、ゆーくんはサボるもん。ほら、洗ってあげるからそこに座って」
これ、なんてエロゲ?
これでも健全な高校生だぜ?でも、何でだろう?茉莉には性欲が湧かないんだよな。
いっときEDかと悩んだけど、茉莉以外にはキチンと機能して安心した。使ったこと無いけど。
俺は家族に欲情しない感覚なのかと納得している、一緒に居る時間が長すぎたんだろうな。
「頭、洗うから目を閉じていてねー」
結局、丸洗いされてしまった。
もう、お婿に行けない。
なんだかんだで良い気分転換になった。
湯船で天井を見上げていると、茉莉が声を掛けてきた。
「ゆーくんがアクセサリーとかするの珍しいね、誰かからのプレゼント?」
「俺は、アクセサリーなんてしないぞ似合わないしな。それに俺みたいな奴にプレゼントなんかくれるのはお前位だよ」
「じゃあ、その腕輪なに?」
「え?」
俺は、自分の腕を見た。
違和感が無いくらいぴったりとしたサイズの腕輪が嵌っている。
クリスタルの様な素材で出来たシンプルな腕輪だ。
「な、なんでこれがここにあるんだ?」
「ゆーくん、大丈夫?真っ青だよ?」
「もう出よう、なるべく早く会長と合流しよう。その時に腕輪の事も話すから」
「う、うん」