本当の世界とは? 12話
エンドロールが流れる。
「うんうん、悪くないな。CGの作りこみとか合成が甘いけどアマチュアだしこんなもんだろう。茉莉、どうだった?えー!?」
茉莉は、号泣していた。
自分が出てる映画で泣けるとか、あるいみ凄いな。
ティッシュを差し出すと、無言で受け取って涙を拭って盛大に鼻をかんだ。
「ゆーくん、感動したよ。すごいよー」
「わかった、わかった。ありがとう。皆のおかげだ、明日にでも隅田君を呼び出して原版を渡してしまおう。彼の事だ、みんなで上映会でもしてくれるさ。あ、そうなると先に観ちゃまずかったかな?」
「大丈夫だよ。私もう一回観ても泣ける自信あるもん」
「うん、よく分からないけどありがとう」
俺は、さっそく隅田君にメールをした。
「うを!返信早っ!ダッシュで来るって」
「ああ!どうしよう!」
「どうした!茉莉」
「私、パジャマだ。奥さんだってバレちゃう」
「なんだろうね、どこからツッコんでいいか分からないよ。まず、そのニマニマした顔から直したら?奥さんでも無いし」
茉莉がジト目で睨んでくる。
「なんだよ。ほら、ジャージ貸してやるから」
ジト目のまま、ゴソゴソと着こんでいく。
ピンポーンとチャイムがなる。
「はーい」
トテトテと茉莉が部屋を出ていく。
「お前が出るんかい!」
俺は、関西人でもないのに関西弁が出た。
「こんばんわでござるよ」
「いらっしゃい」
「それも、お前が言うんかい!」
「祐介氏、なにをそんなに疲れているのでござるか?」
「いや、何でもないよ、まぁ汚いのは何時もの事だから気にしてないよな。ほい、原版」
「おおー、金の生る木がここに!」
「隅田君、普通にアマチュアが作った学芸会状態だからな?」
「それでも、御飯3杯はいけるでござる」
「粗茶ですが」
「これはこれは、かたじけない。友田嬢も奥方姿が板についてきたでござるな」
「そんなー、えへへ」
「あるぇー?なんだろう。この疎外感」
「早速、試写会の都合をつけねば!」
「隅田君や、なにをくねくねしているんだ?気持ち悪い」
「やや、失礼な!試写前に確認をしたい、しかし、試写会で初見で観たい!その葛藤がわからないのでござるか!」
「うん、全然、分からない。試写会とか大したもんじゃなくて視聴覚室でいいだろう」
「隅田君!私は、一回観たよ!もう何回でも泣ける!」
「そうでござるか!友田嬢の審美眼は信用できるでござる、早速準備に取り掛かるでござる」
隅田君は、そう言うと光のごとく消えていった。
数日後。
「どうしてこうなった?」
俺は、寂れた映画館の真ん中に座らされている。
一応、商店街に組み込まれているがハリウッドフィルムを配給できる予算もコネもない場末の映画館。
オーナーは、リタイア組で悠々自適に昔ながらの映画を放映している。
一応、デジタルデータも放映出来るらしいが、フィルムの雰囲気が好きだとオーナーは映写室でフィルムを巻いている。
そこに隅田君が、飛び込み営業したらしい。
試写会の話は、もちろん出演者に知らされる。
出演者がSNSにそのことを書き込んだら、反響が反響を呼んで館内は立ち見が出ている。
学生のほかにも、明らかにプロっぽい人がいる。
まぁいいか。
そして、試写会が始まった。
俺的には、二回目なので普通だ。
その後は、知りたくもない。
隅田君は、ディスク販売を映画館内での物販のみに絞った。
そして、スクリーンで観る良さ、家で観る良さを両方噛みしめて観客は満足しているらしい。
全世界配給がどうとか言っていたけど知らん。
数日前から、鳴り止まない携帯は解約した。
「俺は、平穏を手に入れた」
真新しい携帯を眺めながら俺は、ベッドで呟いた。
「ゆーくん、おはよう」
「ああ、おはよう」
「ゆーくんが起きてる!?」
茉莉は、窓を開けて空を見上げている。
「なにしてんの?」
「ゆーくんが爽やかに起きてるから、天変地異の前触れかと思って」
「へいへい、槍でも降ればいいですねー」
俺は、むくりと起きだしてシャワーに向かった。
シャワーから上がると、茉莉は俺のベッドにダイブしていた。
「なにしてんの」
「確認」
「なんの?」
「他の女の匂いが無いか」
「はあぁ?」
この萌豚の俺に女の匂いなんてするはずないだろう。
「意味が分からん。そんな理由で夏休みの朝から突撃してきたのか?」
「悪い?」
「いや、別にいいよ。今はやっと暇になってゲームやら漫画やら楽しめるから」
「ゆーくんは、私に隠し事してないよね?」
「隠し事?エロ画像フォルダは隠してあるな」
「ばか!そうじゃなくて!」
「なんだよ」
「茉莉は、ゆーくんが他の人を好きになっても仕方ないと思う」
「それこそ何言ってんだよ、俺のもんがあるのにそんな無駄なこと・・・・」
「俺のもんが?」
ニマニマするな、失言だった。
「色々、今更なんだよ」
茉莉が真剣な眼を向けてくる。
「ネフィーって誰?」
俺は、思考がフリーズした。
ネフィーは、ゲームのキャラでこの前バッドエンドを終えたばかりだ。
「ネフィーは、ゲームのキャラだ」
「嘘!」
「嘘なんか言ってない、ゲームのログ見るか?」
茉莉は、今にも涙が落ちそうだ。
「じゃあ!なんでゲームのキャラからメールが来るの!?おかしいもん」
「へ?メール?」
俺は、PCを立ち上げて確認するが運営からも何もない。そもそもゲームのキャラからメールするなんて機能は備わってない。
「メールなんか来てないぞ?本気で何を」
茉莉は、ノートPCを指さしている。
「ここにメール来てたもん」
「そこには、文字化けしたメールしかって、茉莉、読めるのか?」
「読めるもん!」
何が書いてあったか分からないがただ事ではなさそうだ。