閑話 スクラップヤード
少女は、沢山の車が積まれているスクラップを漁っている。
オイルまみれになりながらも、真剣に何かを探している。
見つけ出した部品を陽光に翳しながら、満足そうな笑みを浮かべてバッグに詰め込んで、また、別のスクラップに手を伸ばした。
幾つか自分で持てるだけのスクラップを担いで少女は、バイクに跨った。
砂丘を幾つか越えて、スクラップ工場にやって来た少女は、強面の男にスクラップを見せる。
男は、首を横に振りつつ数枚の硬貨を少女に渡した。
硬貨の枚数に不満だったのか、男に何か叫んでいるが取り合ってもらえずトボトボとまたバイクに跨った。
少女は、倉庫のような所でバイクを降りる。
汚れてはいるが、整理はされている倉庫の中には、何か大きなものが布を掛けられている。
結構な光量を発しているランプの傍で、一人の青年がボロボロの作業服で機械を弄っている。
その傍らには、綺麗なドレスに身を包んだ可愛らしい少女が何かに腰を下ろして足をプラプラとさせている。
ドレスの少女は、一生懸命な若い男を微笑みながら見る目ている。
そこへ少女がやって来た。
二人ともそれに気が付いたのか、軽く手を挙げて挨拶らしいものを交わしていく。
少女は、バッグから先ほど見つけたパーツを青年に渡すと、青年は目を輝かせて喜んでいる。
どうやら重要な部品のようだ。
青年は、奥に引っ込むと紙袋にパンやら缶詰を入れて戻ってくると、少女に手渡した。
少女も笑顔で遠慮なく受け取ってバイクに跨って倉庫を後にした。
粗末なバラック小屋が立ち並ぶ一角に少女はバイクを止めると、テントを組み立てコンロで温めた缶詰とパンを口にする。
その表情は、安心感に満たされているというより寂しげであった。
翌朝も少女は、スクラップを漁っては適当に売り払い、めぼしい物は青年と食料を交換した。
そうして、幾日も過ぎた日。
青年の倉庫に部品を届けたとき、いつもと違って青年は少女を呼び止めた。
ドレスの少女と笑顔を交わして、隣に立つと青年がその部品を組み込むと布を剥ぎ取った。
そこには、武骨な船が鎮座していた。
全長30メートル、全幅が12メートルの流線型の船体が其処にはあった。
二人の少女は、嬉しそうに拍手している。
青年は、真剣な眼差しで船内に入り、操縦席に座った。
小奇麗さとは真逆のスイッチだらけのコンソールを操作していく。
幾つもの光が明滅し、暗くなっていく。
そして、真剣な眼差しで一つのスイッチに手をかけて、ひと呼吸おくとスイッチを入れた。
ブーンという反応炉が起動する音と共に船内に光が灯った。
青年は、シートに深く体を沈めた。
少女たちは、成功を我がことのように喜んだ。
目の前の流線型の船は、確かに台座から離れ浮いている。
こうして、青年の夢は一つ叶い、宙への切符を手に入れた。
バラック小屋を見下ろす丘の上に建つ大きな家の窓から、ドレスの女性が倉庫を見下ろしている。
その日の夜、倉庫から一筋の流星が宙へ昇った。
次の朝、丘の上の屋敷に向かってドクロを描いた船体が降りて来た。
船体から、旧時代の海賊を思わせる風貌の美女が獰猛な笑顔で降りて来た。
それを屋敷から倉庫を見下ろしていた女性が出迎える。
冷えた視線のまま、一枚の写真を差し出した。
その写真にはドレスの少女が写っていた。
海賊は、写真を乱暴にひったくると、ひらひらと手を振って船の中に戻って行った。
そして、そのまま船は流星となって宙へ昇った。
少女は、二つの流星をバイクに跨ったまま見送った。
少女は、地上に残ることを選んだ。
今まで通り、スクラップを漁り日銭を稼ぐ日々を。
テントの中で、ボロボロになった写真に触れて涙を拭った。
いつものようにスクラップを漁っていると、近くに車が停まった。
人さらいかと身を固くするが、その車に描かれているエンブレムを見て笑顔で走り出していく。
ずっと待っていた人に向かって。