本当の世界とは? 10話
「さて、じゃあ、とっとと編集してアップしますか」
「そうだね、すごく楽しみ」
えーと。
「ん?えーと。ここ俺の部屋、基本、俺一人。オーケー?」
「オッケー」
「なんでいるんだよー!!撮影も終わったろう!」
「うん、ゆっくりできるね」
「ちっがーう!もう、帰ってくれよ」
「無理」
「え?」
「ゆーくんは、私に公園で寝ろって言うの?」
「はああぁ?」
「あのね、お母さんがね」
茉莉から聞かされた事に俺が頭を抱えた。
ひとつ、返しきれない恩がある。
ひとつ、あんな素晴らしい人はいない。
ひとつ、好きならば押し倒してでもものにしろ。
ひとつ、むしろ妊娠しろ。
ってな事を吹き込まれていた。
全否定だ!
俺のグダグダニート生活にそんな重たい責任とか無理だ。
後半なんて茉莉の気持ちとか完全無視じゃん。
なので、涙を飲んでお断りしました。
「うう、どうしよう。私、帰るところないよ」
「をいー!おばさん何してくれてるのー!いや、なんか見慣れないキャリーとかあるなと思ってたけれども」
「私、前みたいに、ここに居たい」
本当に小さな声で茉莉が零した。
俺は、頭をガシガシとかいて諦めることにした。
「その感じだと、おばさん公認で泊まりに来ている?」
「うん!!」
あー、そうですか。もういいです。
「今日は、適当に編集するっていっても時間かかるぞ?どうするんだ?」
「うーん、私が出来る事ってないよね」
「そうだな。適当に暇つぶししてな」
「分かった、おばさんにご飯どうするか聞いていおくね?あ、明日、晴れみたいだから洗濯するから出しておいてね。隠しても洗うからね」
「ああ、分かった。その辺はもう突っ込まない。適当にしてくれ。あと」
「コードとかスイッチには触らない、でしょ?」
可愛くウィンクする幼馴染をみて、恵まれているなと思った。
俺って、ひょっとしなくてもリア充なのか?
「ゆーくん、ゆーくんはリア充じゃないよ。私がいなかったらボッチだし」
「やっぱりかー」
俺が改めて頭を抱えた
「ゆーくんは、私のだもん」
「何か言ったか?」
「ううん、何にも。晩御飯どうする?」
「そうだなー、久しぶりにラーメンでも食べに行かないか?」
「お出かけ?嬉しい」
「いつもの商店街だぞ?」
「うん、ゆーくんとは久しぶりだもん」
「そんなもんか」
「そんなもんです」
なんだろう、茉莉のニヤニヤがムカつく。
そのまま、数時間編集に費やした。
「そ、素材が多すぎる」
「使わなければいいんじゃ?」
「勿体ない!」
そんなやり取りが続いて夕方、商店街に繰り出した。
「あの、茉莉さん?」
「なに?」
「手は」
「なに?」
「いえ、何でもないです」
俺は、茉莉に手を引かれて商店街を歩いていく
。
視線が完全にニヤニヤしてるのが腹立つ。
シャッター街にしておけば良かった。
最近は都市部でも商店街は壊滅的だ。
そらそうだ、生産者がネットワークを駆使して直接消費者に安く商品を届けたら、仲卸も小売店も太刀打ちできない。
結果が、商店街の壊滅と買い物難民の発生だ。
契約農家制度は、農家に安定した収入を約束しているため、付け入るスキがなくなった。
結局、逆らえない農家と高額に転売する系列スーパーだけが生き残っている。
一部、極低品質なものを安値で展開しているが、将来の事を考えている人は手を出さない。
しかし、飢えには耐えきれず汚染させているだろうモノを食している現状だ。
そこで、俺たちはシャッター街を利用して完全水耕栽培で野菜を栽培している。
完全無農薬、完全無認可、江戸時代の隠れ田圃みたいなもんだ。
いや、違うな。
親父の入れ知恵と資本投下がされているんで、この商店街だけ隔離されたコロニー実験にされている。
地下では、牧畜も行われている。もちろん無許可なんで見つかったら地盤沈下に見せかけて崩落する予定だ。
しかし、安全で昔ながらの味を知る人たちには好評で人の流れが絶えない。
そこに、我らが四天王目当てのパパラッチやらもお金を毟られていく。
日曜の朝市ともなれば近隣県からも人が集まる。そんな商店街だ。
「ゆー坊、ちょっと味見てくれよ」
蕎麦屋の老舗を継いだ、先輩から声がかかる。
一見すると優男だが、その広背筋には鬼が宿っている。
先輩は、ボクシングをしていたらしい、主に広背筋を鍛えるために。
そして高校卒業と当時に店を継いだ。
先代は何も言わず、縁側でニヤニヤしてる。
ぶっちゃけ、味は変わらない。
しかし、思い出が味を美化してしまって先代の方が良いと言われる典型例だった。
「あの、これからラーメン食いにいくんですけど」
「タダで、良いから味見して」
「茉莉、いいか?一枚くらいだったら食べらるだろ?」
「うん!」
なにがそんなに楽しそうなんだろう。
俺の前には、盛りそばが置かれている。
客は開店前なので誰も居ない。
ずずっと一息に食べていく。
「をい、店主を呼べ」
俺のくぐもった声が張り詰めた空気の中に響いていく。
「いや、目の前に居るからね?」
「雰囲気作りです」
「で?味は」
「最低ですね」
俺の言葉に店主はニコニコしている。
「これの味が分からないなら廃業してください」
「いや、これが不味いのは知ってるよ」
「はぁ?」
「いや、ぶっちゃけ僕たちの商店街ってある意味自給自足で完結してるじゃん?市場に行っても良い物なんかないし、この辺の爺と婆は核戦争が起きてもこの商店街だけは大丈夫っていうくらい。そのまえに隠居しろよとか思うけど」
言えない、親父の宇宙コロニーの実験場になっているなんて言えない。雰囲気だ。
「でも、普通の人には分からない程度なんで安いなら勝手も良いんじゃ」
目の前の優男から一気に殺気が溢れでる。
「ユー坊、俺が親父が命を懸けてる蕎麦屋を愚弄するのか?」
こえええ、しぬ、殺される。
「じゃあ、なんで、こんな話俺にするんですか!」
もう帰りたい。
「そんなの決まってるじゃん、うちの商店街に余所者が入ってきそうだから知らせたかっただけだよ。あ、これ渡された名刺ね」
ちらっと名刺をみると、ああ、なるほど大手チェーンだね。
そのせいで俺がこんな目に合うのは理不尽だ。
「美味しい、お蕎麦はまだですか?」
をいーーー!
茉莉さん、何平然と言ってるの?
「ああ、ごめんごめん。今日はユー坊だけじゃなかったんだ。僕の失態だ、ごめんね直ぐに出すね」
えええーーー!?
どういうこと?
なにこれ、この世界はゲームなの?