本当の世界とは? 9話
「ゆーくん、起きてー、朝だよー」
「ええ、休みなんだろー寝かせろよー」
「ダメだよー、そうやってダラダラするつもりでしょー、起きてー」
「ああ、分かった分かった、起きるよ」
俺は風呂場に向かってシャワーを浴びて、リビングに向かう。
「ゆーくん、おはよう。今日は私が朝御飯つくったんだよー」
見事な和の朝食が並んでいた。
鮭の塩焼きに、ヒジキに味噌汁に納豆と素晴らしい。
「はい、ゆーくん、御飯。一杯食べてね」
「ありがとう。いただきます」
デザートにリンゴを向いてもらって、ドタドタと部屋に戻った。
「ふー、食った食った。ゲームでもしようかな」
「ゆーくん、今日は何するの?撮影の準備?」
あれ?俺、いま、ゲームでもしようかと言ったよね?これってダメって事?
なんとなく、そんな予感と悪寒がするぞ。
絵コンテか宿題の二択になってしまったぞ。
俺は、仕方なく絵コンテを描くことにした。
しかし、俺は基本的に絵が描けないので、棒人形でレイアウトしたのを茉莉にラフ画を起こしてもらうことにした。
さっさと仕上げて、ゲームしたい。
「茉莉、これにラフ描いてもらっていいか?」
「うん、いいよー。わー、もう物語になっているね」
「そんなの物語じゃねーよ。適当に書いてるだけだ。今日中にラフが出来上げったら宿題するぞ」
「うん、了解。隅田君達にも声かけて分担して終わらせるように連絡しておくね」
「了解、変な要求されないように用心しろよ?」
「あはは、隅田君は、ゆーくん以外には優しんだよ?」
「ほんとかよ?信じられないがお互い協力した方が早いな。茉莉は、そのままラフ描いてくれ、俺は国語関係の宿題を片付けておく」
「うん、分かった」
俺は、普通に面倒くさい宿題を片付けていく。
「腹減ったな、母さんは仕事か。茉莉、昼飯は俺が作るんでいいか?」
「え!?ゆーくんが作ってくれるの?楽しみー」
豆腐にネギに茄子を切って、レトルトのルーを一緒に炒める。
丼にご飯をよそって、更に麻婆茄子を掛ければ出来上がり。
簡単麻婆丼の出来上がり、レトルトのスープを添えてダイニングに並べていく。
茉莉に、昼飯が出来たと伝え、お茶を淹れる。
ドタドタと下品な音を立てて茉莉が階段を降りて来た。
「お腹すいたー!」
二人だと、どうも茉莉は幼児化するようだ。
「「いただきます」」
「ラフ画は、どうだ?」
俺は、大盛りの丼に箸をつけながら聞いてみる。
「うん、ただのラフ画だし、イメージは何となく分かるから今日中には出来る上がるよ。ゆーくんは?」
「大体、出来たかな?感想文系はテンプレ化しておいたから、各自でお願いする感じかな」
「茉莉、先輩たちの予定聞いておいて。それに合わせて撮影のスケジュール組むから」
「りょーかーい、洗い物はやっておくね。それとゲームしちゃだめだよ」
うぐっ、神は死んだ。
ゲームを禁止されたので、漫画でも読むか。
いや、ここでダラダラしたらきっと怒られる。
モーターショーの動画とオフショットを問題ない程度で上げてしまおう。
ちらっとテーブルを見ると、俺の棒人間がちゃんとイメージ通りのコンテになっててちょっと複雑だった。
適当に動画を見ていると、いきなり携帯が鳴り出した。
基本バイブ機能しか使ってないので、画面を見るとメールが次々と送られてきている。
四天王や隅田君からは、スケジュールの催促。あとは、オヤジさんとか業者関係だ。
しかし、知らないアドレスからのメールが結構来ている。
念のため開かず、ドメインから探していくと、ファッション雑誌やら芸能事務所やらのドメインがでるわでるわ。
もう、この携帯は知り合い以外ブロックにしないといけないことが決定してしまった。
いや、普段から鳴らないから良いですけどね。ぐす。
「茉莉ー、ちょっと携帯がえらい事になって収拾付かないから、そっちでスケージュール管理してもらっていいか?」
「やっぱり、そうなったかー。会長さんが何となくそんな事言ってた」
茉莉は、お茶を二つ持って上がってきていた。
「ゆーくん、お茶ここに置いておくね。それとスケジュールは基本ゆーくんに合わせるってみんな言ってたよ」
「え?そなの?こりゃダラダラしてたら皆に怒られるな」
俺は、宿題を片付けにかかった。
親父さんにも連絡して、撮影場所としてスクラップ置き場の一角を借りることにした。
電話をしたときに、問い合わせばかりが多くて仕事にならないと言っていたが、無視だ無視。
そして、隅田君に衣装をお願いした。
今回は、大したメイクもいらないため化粧は各自でしてもらうことにして、来週から撮影に入ることにして近くのファミレスに全員を集合させた。
「とりあえず、これが今回の絵コンテ。何となくで良いからイメージを掴んでもらいたい。今回は、セリフが無いから覚える事は少ないけどその分イメージが大切だと思ってくれ」
ビデオカメラは、全員が持ってきてくれた。
うん、そうだよね。小学校とか親でも撮影禁止になってて本当に小さい時にしか使わないことが多いもんね。
うーん、こんなに合っても撮影する人間が居ない状態だ。
まあ、適当に予備バッテリー代わりに使いまわさせてもらおうかと考えた。
レフ版とかも欲しいけど、言い出したらキリが無いから諦めよう。
後は、天気予報を信じることだけだ。
衣装は、各人で保管して持参してもらう。いちいち管理していられない。
翌日、ジャンクショップの一角で撮影を始めた。
着替えは、着替えは事務所の一角をカーテンで区切って順番にしてもらった。
親父さんが真っ赤な顔していたのが笑えた。
撮影は、3日間を予定している。それ以上だと恐らくマスゴミが嗅ぎつけて来そうだからだ。
そうして、手始めに茉莉のシーンからドンドン撮っていく。
カメラマンが二人だからか結構捗って、どんどん撮れていく。
なにより、リテイクが殆ど無いのが凄い。
芸能事務所が欲しいと思うのも頷ける。
こうして3日間の撮影を終えて、また、ファミレスに来ている。
結構な時間になってしまったので、今は俺と茉莉と隅田君の三人だ。
「はぁー、つかれたー」
「お疲れ様、今回は茉莉も出番が多かったしNGも無かったし、よく頑張ったな」
「拙者も流石に疲れたでござるよ、しかし、四天王とお知り合いになれたので祐介氏には感謝しかないでござるね」
「隅田君もありがとう。でさ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでござる?」
「これから、どうしたら良いんだ?」
「へ?」
「いや、実際、言い出したのって隅田君だろ?日本文化研究部と演劇部の部費の足しにするみたいな事しか聞いてないし」
「そう言えば、何も言っていないでござるね。ぶっちゃけ何にも考えていないでござる」
「ええ!?どうするのさ、かなりがっつり撮ったぞ?」
「大丈夫でござるよ」
隅田君は、ドリンクバーで無駄に混ぜたジュースを飲みながらおどけて見せた。
正直、腹が立ったがスルーすることにした。
「なにが大丈夫なんだ?」
「宣伝は、モーターショーで十分出来ているし、円盤にすれば簡単に売れるでござるね。流石にパッケージ変えたりだけのアイドル商法はしないから安心して任せて下され」
「分かった。こっちもショートバージョンをアップしておけば良いな?」
「十分でござるが、変に凝ったPV風は止めるでござるよ?」
「分かった、冒頭数分だけにしておくよ」
それから俺たちは、他愛のない話をして家路に着いた。