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天使戦争  作者: 薬売り
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閑話 私の王子様

 私の名前は、友田茉莉。16歳

 ゆーくんの幼馴染。

 今はまだ、幼馴染。

 周りの皆は、私がゆーくんと一緒にいると不思議がったり嫌がったりする。

 私には、ゆーくんが一番。

 私を救ってくれた王子様。

 小学生の頃、私は根暗でガリガリで髪も服もボサボサで、あだ名は貞子だった。

 皆が私を嫌ってた、私も皆を嫌ってた。

 家に帰れば、お父さんがお母さんを殴ってた、たまに私も殴られた。

 私は、産まれてこなければよかったと思ってた。

 クラス替えでゆーくんと一緒のクラスになった。

 いじめっ子とも同じクラスになった。

 いつものように紙くずを投げつけられた。靴を隠された。

「これお前のか?」

 これが最初の会話。

 ゆーくんが靴を見つけてくれた。

「どうして」

「え?違うのか?探し物は得意なのになー。勘が早くも鈍るとかヤバくね?」

「ううん、違うの。私の靴。どうして探してくれたの?」

「なんだよ、合ってんじゃん。ビビったわー、どうして探したかってお前が探してたから」

 私は、訳が分からなくて、そうなんだしか返せなかった。

 急に視界が明るくなった。

 ゆーくんが私の髪を掴んで顔を全開にしていた。

 私は、また、イジメられるのかと思った。

「なんだ、可愛い顔してんじゃん。でも、まだ原石ってとこだな。磨かないとならんね」

 何を言ってるんだろうと思った。

 私が可愛い?こんな私が?

 私は、顔を赤くして気が付けば走り出していた。

 名前も聞けてないし、お礼も言えてないと途中で気が付いたけど、戻る勇気は出なかった。

 後日、盗み聞きで、ゆーくんが祐介って名前なのを知った。

 今日も紙くずが飛んできた、けど、私には当たらなかった。

 ゆーくんが下敷きで打ち返してくれた。

 ゆーくんがからかわれた。私のせいでゆーくんがイジメられるかと思うと涙がでそうになった。

 殴られてもイジメられても涙なんかでなかったのに。

「おい、立花。貞子なんて庇って好きなのか?ガリとデブで丁度いいな、お前ら結婚しちゃえよ」

「こいつは貞子じゃないぞ、茉莉っていうんだ。好きかだと?好きに決まってるじゃん」

 ゆーくんは、普通に好きって言った。それに私の名前も知っていた。

「俺は、可愛い子みんな好きだぜー、田中ー、お前将来苦労するぞーその節穴のせいでな」

「貞子が可愛いわけないだろ」

「だから、お前の目は腐ってるって言ってるんだよ」

「証明してみろよ、証明」

「いいぜー、1週間待ってな、後で好きになって後悔しても遅いからなー、こいつはもう俺のもんだ」

「貞子なんかに後悔するわけないだろ」

「だから、俺が茉莉を磨いている間は邪魔すんなよ、靴隠したり紙くず投げたりするなよ」

「ああ、いいぜ。そのかわり可愛く無かったらどうすんだよ」

「なんでも言う事聞いてやるよ」

「なんでもだぞ、裸で校内一周だ」

「受けて立った。というわけで、茉莉。今日から君は俺の物になりました。これから磨いていくんでよろしく」

 差し出された右手を反射的に握ってしまった。

 それは、私の運命が決まった日。

 次の日から私達は一緒に帰ることになった。

 まず、ゆーくんは、床屋さんに入って行った。待ってろって言われたから待っていたら、ゆーくんが丸坊主になっていた。

 私には全く理解不能だった。

「美容院で髪を切ってくるといって、軍資金を貰ってきた。切ってなかった不自然だろ?」

 次に、ゆーくんは、古着屋さんに私を連れて来た。

 この頃の私は、着るものが殆ど無く、たまに母がバザーで貰ってきたものを着ていた。

 ゆーくんは、何種類かの服を持ってきて、試着するように言った。

 試着の意味が分からなかった私はどうしていいか分からなかった。

 ゆーくんは、試しに着てみるってことだと嫌な顔せず教えてくれた。

 それから、店員さんを呼んで試着室で着方を教えてやって欲しいと言っていた。

 服くらい自分で着れると言ったが聞いてもらえなかった。

 結果から言うと自分では着れなった。背中にファスナーが着いた服なんか着たことが無かった。

 何着か試着して、ワンピースとサマーセーターに決まったみたいだった。

 ゆーくんに着替えて来るように言われた。その間に会計しておくって言ってた。

 着替え終わって、外に出ると店の人もゆーくんも奥で何やら話している。

 私が着替え終わったのを見つけると、ゆーくんが出てきた。

 私の手を取って次行くぞと言った。

 ゆーくんと手を繋いで歩くと、安心した気持ちになることに気が付いた。

 着いた先は美容院だった、ゆーくんが私の髪を手に取って美容師さんと難しい話をしてた。

 そして、美容師さんに私の顔を見せると美容師さんは頷いて微笑んでいた。

 私は、初めての美容院で何も分からなかった、美容師さんに言われるままに席を移動したり目を瞑ったりしていた。

 ゆーくんは、暇だからと何処かへ行ってしまった。

 正直、心細かった。

 美容師さんが終りましたよと言ったので鏡を見ると可愛い服を着た骸骨がいた。

 ああ、私ってこんな顔なんだとガッカリした。

 ゆーくんが戻ってきた。

 うんうんと頷いてばっちりだと言った。

 それから、また手を繋いで歩いた。

 ゆーくんの家だった。

 今日から1週間、この家で私は過ごすらしい。

 お母さんには連絡済みだと言われた。

 私は、お母さんが殴られてないか心配だったけど、今日帰ったらゆーくんに買ってもらった服がボロボロにされると思うと帰れなかった。

 ゆーくんのお母さんも大丈夫って言ってくれた。

 その日は、お粥を出してもらった。

 けど、量が尋常じゃなかった。ゆーくんに食べろと言われたので、食べられるだけ食べた。

 ゆーくんと一緒にお風呂に入った。

 コンディショナーとか色々教わった。

 ゆーくんと一緒に寝た。

 叫び声も怒声も静かな部屋に泣き声が聞こえた。

 私が泣いていた。

 ゆーくんが抱きしめてくれた。

 ゆーくんが頭を撫でてくれた。

 私は、いつの間にか眠っていた。

 起きるとゆーくんは、もう起きていた。

 朝ごはんは、豚汁と目玉焼きとご飯と納豆だった。やっぱり量が多かった。

 昨日買ってもらった服を着て、ゆーくんのお母さんが髪を梳いてくれた。

 学校に行くと、みんな驚いていた。

 田中君が死神と言ってきた。自分でもそう思う。

 ゆーくんが約束破るのかと言って怖い顔していた。

 田中君は、何も言わないで席に戻って行った。

 晩御飯は、とんかつだった。

 ゆーくんに立花君、そんなに食べれないと言ったらよそよそしくしたから全部食べろと言われた。

 ひいひい言いながら頑張って食べた。

 ゆーくんが頭を撫でてくれた。

 今日も一緒にお風呂に入った。ちゃんと洗えてないとか色々言われた。

 お風呂から上がると着替えが用意されていた。

 昨日はゆーくんのパジャマを借りた。

 着替えるとアイスクリームを食べた。

 腹巻をして寝ろと言われた格好わるくて嫌だったけどゆーくんとお揃いだったから腹巻をした。

 ゆーくんと一緒に寝る時に、初めてゆーくんって言ってみた。

 頭を撫でてもらえた。

 その日はすごく良く眠れた。

 数日後、お母さんが迎えに来た。

 お母さんは、何度も何度もお礼をゆーくんに言っていた。

 また、あの家に帰るのかと思うと急に夢から覚めたように怖くなった。

 お母さんが、大丈夫だからと私の手を引いて歩いた。

 お母さん、お家違うよと言うと、ここが新しいお家だよと言った。

 お父さんは、刑務所に入ったからもう帰って来ないっから大丈夫だと言った。

 私は、泣いてしまった。

 お母さんは、私を抱きしめて泣いた。

 その後、お母さんと一緒にご飯を食べた。

 量がゆーくんの家と一緒だった。

 沢山持たされた私の荷物をお母さんは、大事そうにタンスにしまってくれた。

 月曜日、ゆーくんが迎えに来てくれた。

「うん、ばっちりだ。ちゃんと髪も梳かしたな、偉いぞ。さぁお披露目だ。くくく、田中の吠え面を見に行こうぜ」

 私には、ゆーくんが裸で校内を一周させられる事しか頭になく、手に汗をかいていた。

 お母さんがゆーくんにまたお礼を言っていた。

 あと、私の事をよろしくとも言っていた。

 ゆーくんは、よろしくしなくても大丈夫だから大丈夫と言っていた。

「立花ー、約束の一週間だ。校内一周してもらおうか」

「相変わらず、田中の目は腐ってるな」

「負け惜しみをいうな!死神の野郎、学校来てないじゃないか。お前の負けだ」

 え?と思った。私はちゃんとここに居るのに。

 ゆーくんは、必死に笑いをこらえているみたいだった。

「あ、転校生か。俺は田中っていうんだ」

 知ってるよ?

 ゆーくんは、膝をついていてお腹を押さえている。

「そこは死神の席だから、座らない方がいいよ。特に可愛い子は」

 田中君は最後の方は声を小さくしてたけど、確かに私を可愛いと言った。

 ゆーくんは、とうとう耐えられなくなったのか爆笑して転げまわっている。

「立花!なに笑ってんだよ」

 ゆーくんは、ひーひー言いながら私に言った

「転校生らしい君、自己紹介かもん」

「えっと、ずっとこのクラスに居た友田茉莉です」

 教室中が静かになった。

 皆が私を見て驚いている。

「立花!嘘をつくな、こんな可愛い子が死神なわけないだろ!」

「あらあら、田中ー、可愛いって言っちゃたねーもう言い訳できないねー」

 先生が入って来て、出欠を取り始めた。

 友田と言われて返事をした。先生も頷いた。

 教室が騒がしくなった。

 先生が静かにしなさいと言って皆を黙らせたけどヒソヒソ声かずっとしてた。

 先生が教室を出て行った。

 ゆーくんが、私の所へ来た。

 田中君を見ろと言うので見ると、口が開いていた。

 二人で笑った。

 それから、色んな人に話しかけられるようになった。

 私も話をするようになった。

 笑うようにもなった。

 全部、ゆーくんのおかげ。

 ゆーくんに一緒に帰ろうって言った。

 手を繋いで帰った。

 途中で道が分かれるのが離れるのが寂しくて仕方なかった。

 しばらくすると、女の子達から一緒に帰ろうと言われるようになった。

 ゆーくんは、そいつらと帰れと言った。

 寂しかった。

 女の子たちは、しきりに私の服とか髪型とか聞いてきた。

 ゆーくんに選んでもらったって言ったけど信じてもらえなかった。

 古着屋さんにみんなで行った。

 みんなお店を知らなかったらしく驚いていた。

 私は、ゆーくんの真似をして服を選んで店員さんに声をかけて試着室に入った。

 大きな鏡に別人が写ってる。

 細身で目の大きな可愛い子が立っている。

 試着してみると、その子には、とても似合っていた。

 今日は、お母さんからお小遣いをもらっているので自分で買ってみることにした。

 女の子たちは、試着した私を見てセンスが良いとか褒めてくれる。

 私は、ゆーくんの真似をしただけ。

 ゆーくんに教えてもらっただけ。

 もう一度着替えて、お会計に行くともう支払いが済んでいると言われた。

 ゆーくんが私が自分で買い物に来た時のために払ってくれていた。

 店員さんが元気になって良かったねと言ってくれた。

 内緒なんだけどと店員さんが教えてくれた。

 ゆーくんは、私が殴られているかもしれないから、試着室でそれとなく確認して欲しいと頼んだそうだ。

 そして、店員さんが私の体に沢山の痣を見つけて、ゆーくんに報告した。

 そしたら学校へ通報するように頼まれたそうだ。

 私が美容院に行っている間に、警察と児童相談所へ連絡して、店員さんに証言を頼んだらしい。

 結果として、父親だった人は、警察に捕まって私達は引っ越す事になったらしい。

 私は、今すぐにでもゆーくんに会いたくなったけど、女の子たちと帰る途中なので我慢した。

 次の日、朝、ゆーくんの家に迎えに行った。

 ゆーくんは、まだ寝ているから起こしてきてと言われて、ゆーくんの部屋に入った。

 寝ているゆーくんの横に寝転んだ。

 ゆーくんが近くにいる。

 もっと近くに行きたくて、気が付いたら、ゆーくんにキスしてた。

 その時、私の場所はここだと理解した。

 ゆーくんの傍だと理解した。

 絵本では、王子さまは眠っているお姫様にキスをするのに。

 私の王子さまは、眠っているので仕方がないから私がキスをすることにした。

 キスをすると、王子さまは、ゆっくりと目を覚ました。

 おはよう、私の王子さま。

 って、あと五分とか言って寝ないでー。

 ちゃんと起きてー。

 こうして、私の日常が始まった。


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