本当の世界とは? 7話
一般公開日は、主催者側がうちのブース前で立ち止まるのを禁止にした。
ゆっくり歩いて見ていってねって感じだ。
万博かって突っ込みたくなった。
でも、この対処のおかげで大きな問題なく一般公開日も無事に終わった。
舞台へ上がろうとしたヤンチャな奴はいたが警備員とオヤジさんに直ぐに取り押さえられていた。
俺?俺は、くすくす笑われて写メ撮られてたよ。
とにかく無事に終わったって事で打ち上げです。日本文化研究部の皆は、打ち上げと同時に決起集会だそうだ。
搬出は明日です。
って感じでホテルの中にある焼肉屋さんで焼肉だ!
もう、食べ盛りの若者が集まると店の肉無くなるんじゃ?ってくらい食べた。
結構高級な肉で支払いビビったが、主催者側の経費で落としてくれるらしい。
メディアへの貢献やら、それを見た一般公開日の当日券売り上げが過去最高らしい。
よかったね、オヤジさんも上機嫌でビール飲んでる。
あれ?イベント会社の男性も一緒に飲んでないか?ああ、支払い担当なのね。挨拶だけでもしておくか
「お疲れさまでした、大成功でしたね」
「ほんとですよ、いやーお宅を招致して良かった。今だから言うんですけど最初、上司は良い顔しなかったんですよ。大手メーカーでもないと」
「それが普通ですよ、ウチみたいな所をむしろどうやって見つけたか聞きたいくらいですよ」
「最初は、偶然でした。ネットでやたらと高額な旧車が載ってたんで見たら格好よくて、呼びたいなって純粋に思ったんです。最初はダメでしたけど」
「作ったものを認められるのは、とても嬉しいです」
「それでですね、最悪、屋外会場でも良いからと上司に掛け合ったんです。渋々先方が良いならと言われて直ぐにアポも取らず伺ってしまって、雑誌社の方と鉢合わせしてしまった次第です」
あの微妙は空気はアポなしのせいだったのか。
「現物の車を見て震えました。郷愁を感じさせながら力強さがあって、これはどうにかして呼ぶしかないと思ってたんですが、君があっさり了解するものだから拍子抜けして会社に戻りました」
「そしたら、友人から珍しく電話が来ましてね、ファッション誌の編集者なんですけど取材申し込みしたいって言ってきて、訳が分からなかったですよ。次の日は、もっと大変でした。取材申し込みの電話が鳴りっぱなしで」
「嬉しい悲鳴だったでしょ?」
「ええ、嬉しい悲鳴でした。申し込み理由が全部お宅目当てなんですもん。屋内ブースに変更するのにレイアウト苦労しました。上司は、呆然としてました。今日は接待してこいってことでここに居ます。人数も経理に報告してありますし、幾らでも使ってください」
「それで、今後、僕らを引っ張ってこれたら昇進が待ってる感じですね」
「君は、本当に高校生かい?その通り言われたよ。君が連れてきた5人は業界では有名らしいじゃないか、どこの事務所も欲しがっているがその全てが色よい返事を貰えていない。それを一堂に集めてしまうなんて前代未聞、それなのに、あの演出だ」
男はぐびっとビールを一息で飲んで追加の注文をした。
「正直、嫉妬したよ。こんな才能の塊たちを呼べてしまえる才能に。だから、一緒に仕事をしないか?」
「すいません、お断りします」
「なぜか聞いても良いかい?」
「僕は、まだ高校生で、たまたま友人に恵まれただけです。そして、その友人達の都合が奇跡的に合っただけなんです。ビギナーズラック、まぐれとかそんな類の物なんですよ」
「そうだった、まだ、高校生だったね」
「そうです、このイベントのために無理したので明日からテスト勉強ですよ」
「それは、悪いことしたね、お兄さんが肉を焼いてあげよう」
「そちらからのお願いはお断りになりますが、こちらからお願いすることはあるかもしれません」
「お願い?」
「このチラシ見ました?」
「いや、見てないけど」
「今日の寸劇をショートムービーにするんだそうです。そしてゆくゆくは演劇、映画化と進めたいらしいです」
「所詮、素人の作るものなんで大したことないと思いますが、ショートムービーの評判が良かったら声を掛けさせてもらいますよ」
「はは、これは楽しみだ」
「僕は面倒で嫌なんですけどね」
「製作、君になってるじゃないか」
「知らない間に嵌められたんですよ」
「ははは、これは良い土産ができた。このチラシは貰っても?」
「ええ、どうぞ」
「ゆーくん、難しい話は終わった?」
「ああ、終わったよ。どうした?」
「冬華ちゃん達が呼んで来いって」
「ああ、行くよ。お礼も言いたいし、それじゃ失礼しますね」
「失礼します」
俺と茉莉が去ったテーブルは、ホットスポットのように静かになった。
オヤジさんがぽつぽつと語り出した。
「あいつと俺が作った車がここまで認めてもらえるとは思わなかった」
「いやー、良い車ですよ」
「俺一人では、作り上げられなかった。心の中ではあんたと同じようにあいつに嫉妬してる」
「そうだったんですか」
「あいつと作った車を超える車を作るのが俺の生きる目標だ。もし、そんな車ができたらドラッグレースに出ようと思う」
「欧米ですか、手ごわいですよ」
「あいつが作った車で十分勝ち目がある。それを超えれたら絶対に勝てる」
「その時は、僕も一枚かませてもらいますよ、少しずつですが大きなイベントになるでしょうし」
グラスを鳴らす音が響いた。
「皆さん、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました!」
「君が噂のゆーくんか、まあ、座りたまえ」
田辺先輩が夏木先輩との間の席をポンポンと叩いた。
うわー、なんか後ろから不機嫌オーラを感じるが、ここは座るしかない。
「失礼します」
「友田も別に取ったりしないから座れ」
「はい」
茉莉は、空いている冬月さんの隣に座った
「立花君、今回は楽しかったよ。私達からも礼を言わせてくれ」
「いやいや、もうご迷惑やらご苦労ばかり掛けてしまって、皆さん、ありがとうございました」
「それは、さっきも聞いたよ」
「君は、私達の事は知っているか?」
「お名前だけは」
「それは、寂しいな。折角だ友達になろう」
「俺なんかと?」
「君といると楽しそうだしな。それにまだまだ撮影とか残ってるんだろう」
「残っているっていうか、やるはめになったっていうか」
「ええー、ゆーくんが遣りたがってるって隅田君が言ってたから私てっきり」
「ああ、うん、そんな事だろうと思ってたから大丈夫」
「私、冬華。握手」
「よ、よろしく」
「私は八重、よろしくおねがいしますね」
「僕は、夏木友里恵、夏木でも友里恵でも好きに呼んでね」
「最後に私が田辺ふみだ。できれば下の名前で呼んでくれ、とりあえず全員と連絡先を交換しよう」
「はい。おおー俺のスマホがリア充みたいだ・・・」
「どうした、元気がないぞ。ほら、肉を食べれば元気になるぞ」
やべー、幼馴染の顔が般若化してるぞ。この席、見てる分には眼福だが中に居ると針の筵みたいだ。
「冬華の肉もあげる、ガンガンいけ」
「いただきます」
針の筵で食べる肉も美味い。
「あんまり、立花をいじると友田が爆発しそうだから席替えするか、ほら、友田、ゆーくんの隣に座れ、私が変わってやろう」
「ゆーくん、鼻の下のばして浮気者」
いやいや、茉莉さんよ。君と俺は幼馴染なだけじゃないかとは言えなかった。
「でも、今回は仕方ないから許してあげる。お肉も焼いてあげる」
「ほら、立花君、野菜も食べたほうがいいよ」
夏木先輩がサンチュの葉を渡してくれた。
「あざーす」
「立花君、ショートムービーってどうやって作るの?」
八重さんが聞いてきた。
「基本的には、脚本書いて絵コンテ描いて、撮影して編集して完成ですね」
「私、セリフとかちゃんと言えるかしら」
「そこなんですけどね、セリフ無しで作ろうかなって思うんですよ、その方が想像力を掻き立てられるし、今日見たく自然な感じで撮れると思うです」
「ちゃんと考えているんですね」
「ゆーくんは動き出すと早いし止まらないんだよー、中々動かないけど」
全員に笑われてしまった。
「あとは、映画研究会から何台カメラを借りられるかで、スケジュールがどうなるかですね」
「どういうことですの?」
「例えば、台数があれば、同じ場所のシーンは一遍に撮影が可能なので大幅に待ち時間が少なくなります」
「映画研究会も自分たちで撮っているだろうし、難しいのではないか?」
「実際問題、そうだと思います」
「なら、簡単だ。持ってる者が持ち寄ればいい。本格的なカメラでないとダメなわけではあるまい?」
「そうですね、今回のイメージを持っていくから全体に古びた感じのフィルターかけますから何でも良いと思いますよ」
流石に長編まで作れとか言われたら、機材持って来いって言う。
「ゆーくん、ストーリーとか考えられる?大体のイメージはできてるよ」
「立花、意外と才能豊か?」
「そうかもしれない、自分の才能が怖い」
「ゆーくん、調子乗らないのどうで妄想の延長でしょ、ほら、お肉焼けたよ」
「友田、そう言ってやるな、昨日の今日でやれって既にアイデアがあるなんてすごいと思うぞ」
「うう、それはそうですけど。それでどんな感じなの」
「そうだな、全5話で皆さんを一話ずつ出していく感じかな。世界観は今回の衣装を使えるようにスチームパンク、荒廃した世界だと思ってくれていい。まず、スクラップ置き場で茉莉が色んな部品やらお宝を見つけるんだ、それを俺にダメだしされて落ち込んだり、喜んだりする。それらの部品やらお宝やらをみんなの所へ届けるて話がスタートしていく」
「なかなかに興味深いな」
「いつから始めるの?僕なんかワクワクしてきたよ」
「まず、俺のテストが終ってからです。なので最速で2週間後からです」
「そうか休学中だったな」
「先輩も受験じゃ」
「私は、もう推薦で決まっているから問題ない。君らがまた後輩になるのを楽しみにしているよ」
「先輩の行く大学なんて、俺の学力じゃ行けませんよ」
「そんな事はないだろう、地元の大学だぞ」
「え?最高学府じゃないんですか?」
「その線もあったんだがな、研究してみたい事があってね、それが出来そうな所がたまたま地元だっただけさ」
「へえー、意外ですが、きちんと考えてらっしゃるのですね」
「それなりにな、君たちが入ってこれるように推薦枠を個人指名にしておくから楽しみにしておけよ」
えー、あんた、大学を掌握する気かよ。この生徒会長のカリスマだったらやりかねないから困る。
最後に全員から痩せたら良いのにって言われて、満腹になって部屋に戻って寝た。