本当の世界とは? 6話
俺は、その日担任に2か月の休学届を出した。
それは何も言われず受理された。復学時に学力テストをして問題なければ出席扱いになるらしい。謎だ。
後で聞いたことだが、イジメや経済的な理由で学校に来れなくなった生徒が復学できるように助成する制度が出来ているらしい。
俺は、毎日ジャンク屋に通うことにした。
今回、目を付けたのは外観がまともなZの初期型にボディがお釈迦になったスープラのエンジンとターボチャージャーを移植する予定だ。
ジャンクの中からクレーンで部品を作業場へ運んでいく。
ボディはオヤジさんの仕事だ。俺は、ひたすらに部品を磨いていく。
エンジン部分は、問題ないので足回りや排気回りをジャンクから漁っては磨いていく。
俺は、なぜか流用できる部品が感覚で分かる謎の特技で通常では考えられないスピードで仕上げていくことが出来る。
学校終わりのじかんになると、ガスマスクをしたウサギのシールを貼ったバイクに乗った奴らが手伝ってくれた。
一か月半で車体は、ほぼ完成した。
通常のカスタム屋が1年から数年で1台作るペースであることを考えると驚異的だ。
電装関係のプログラムを書き換えて、エンジンに火をいれてベストセッティングを出していく。
オヤジさんがちゃんと買ってきたタイヤとホイールを履かせて、夜中に試乗する。
中々にいい加速している。
もちろん運転しているのは、オヤジさんだよ。
まだ車の免許取れる年じゃないし。
オヤジさん曰く1000馬力以上はあるとのこと。
そして、納車期限の日、車両移動用のトレーラーにクラウンとZが載せられ会場へ向かった。
わざわざ、スーツの男性も来てくれた。
「凄い反響ですよ。女性ファッション誌から問い合わせが来た時は冗談かと思いましたよ」
「反響が、車じゃないっていうのは、ちょっと寂しいですけど華はあった方が良いですからね」
たぶん、当日はある意味戦場になるぞ?俺は知らないからな。
イベント前日、俺たちは会場に前乗りして準備だ。
女性陣も朝早いので、同じホテルに前乗りだ。
しかし、さすが学園四天王。車内の視線が釘付けだ。
彼女そっちのけでガン見していた男性達がめちゃくちゃ怒られている。
しかも、あちこちでだ。
白豚の俺の正気度がゼロになりそうだ。
日本文化研究部の面々は、前日から前乗りしている。
こちらの手伝いをしたら、そのまま夏コミへ出店するため移動時間が勿体ないのと修羅場続きで休養を兼ねるそうだ。
なんてブラックな部活なんだ。
さて、辛うじて正気を保ったまま会場へ着いた。
既に車の搬入は始まっている。
俺たちの車は場外だとばかり思っていたが反響がありすぎて急遽屋内展示に切り替わったとのこと。
主に女性陣へのセキュリティ対応の関係で。
所帯も大きいので、控室が別途用意された。
俺がのんびり車たちを眺めていると、後ろが騒がしい。
気が付くと四天王と茉莉が取材責めに合っている。
もちろん、関係者以外立ち入り禁止なはずで、搬入の邪魔になっている。
いつもなら数名の取材のため黙認されていたが今回は数が多すぎて搬入に支障をきたしてしまっている。
俺たちはホテルに缶詰にされてしまった。
仕方がないので、動画の編集やら普段の女性陣を撮ったりして時間を潰した。
さて、本番当日
さすがは日本文化研究部、見事としか言えない。
5人それぞれが調和するように輝くように振袖を着付け、メイクを仕上げていく。
他のブースも、それぞれのコンパニオンが車に付き、ディーラーらしきスーツを着こなした男性が立ち位置を確認している。
オヤジさんも何故か着流し着て、腰に短刀を差している。
うちのブースには、ぴったりだけどパスケース下げてなきゃすぐ警備員に捕まりそうだ。
そして、俺だが。
日本文化研究部が俺だけを放置してくれるはずは無い。
今は、ツナギを着てパスを首から下げている。
バックプリントでガスマスクウサギが描かれてはいるが普通の格好だ。
今日は、メディア限定日なので混雑は一般公開日よりマシとされている。
開場すると、コミケか!と言いたくなるほどカメラマンと記者が走ってきて取材合戦が始まった。
いや、車も撮ってよ。
おおー、田辺先輩、流石である車と一緒に撮ってくださいと言っている。これはカメラマン断れない。
冬月さん、助手席に座って記者を運転席に座らせての取材とか、もう立ってるの疲れたのかよ。
しかし、これが悪手だった。
助手席に座っての取材は時間を掛けられる、しかも、デート気分のいい絵が撮れる。
人だかりが増えるばかりなので、1社につき1人で制限時間5分という制限を設けて回転させていくことにした。
もうパパラッチも真っ青の暴徒になりそうだったもん。
外国の記者もたくさん来てた。
意外と車をしっかり評価してくれて嬉しかった。
オヤジさんが英語が堪能なのには度肝抜かれた。あ、盗品の売り先が外国だからですか、そうですか。
着流し姿の強面がマッスルカーを紹介する姿も絵になるな。
そして、午後の休憩時間。
他のブースは、コンパニオンは交代で昼食をとってブースを開けている。
我が陣営は、支度中の札を立てて全員引き揚げている。
悠長に休憩しているかと言えば、真逆である。
休憩室は、戦場の様相を呈している。
女性陣は、昼食を取りながらメイクを落とし、新たなメイクを施されている。
俺も着替えさせられ、ガスマスクを被せられる。
ボロボロのオーバーオールに工具ベルトとガンベルトを付けられ、拳銃を差され、ショットガンを渡される。もちろん玩具だ。
オヤジさんは、どこの反政府ゲリラだよって感じだ。
日本文化研究部によると午前中は、美しき日本。
午後は、サブカル日本、テーマはスチームパンクらしい。
女性陣もドレスだったり、海賊っぽい恰好だったり、様々だ。
しかし、どれも似合っていて汚れメイクなはずなのに、輝いて見えるのが不思議だ。
そして、出陣である。
ボンネットを開けて、ランタンを吊るして整備しているような仕草をしたり、各々ポーズを取っている。
またも黒山の人だかりだ。
特に今回は、ゴシックドレスの冬月さんが開いているボンネットに腰かけて、整備してる風の男装している二見さんに話しかけているポーズが人気だった。
男装は、夏木先輩かと思っていたが、これはこれでカッコいいな。
夏木先輩は、こちらは深窓の令嬢って感じの服だ。それでも、コルセットや帽子が雰囲気を出している。
普段、ボーイッシュなだけにギャップ萌ってやつだな。
本人も着慣れない感じで、もじもじしいるのが良い。さすが日本文化研究部分かってらっしゃる。
田辺先輩は、女海賊?空賊って感じでボスオーラが半端じゃない。
我が幼馴染の茉莉は、ホットパンツに胸は何か装飾されたブラをしていて露出が多い。
所々に汚れメイクや傷跡メイクがされて、ナイフと銃を沢山ぶら下げている。サルベージャーがテーマ?良く分かりません。
今回は、俺にもオヤジさんにもポーズを取らされた。
サルベージャーの茉莉が、俺の所に獲物を持ってくるが邪険にされて寂しげにする寸劇とかしたらブーイングが起きた。
マスコミ仕事しろと言いたい。声を大にして言いたい。
茉莉からチラシを渡されて、配るようにジェスチャーされる。
もちろん、誰も受け取ってくれない。
チラシなんて聞いてないぞ?見てみると演劇部監修でショートムービーを作るらしい。
その宣伝ビラで、公開は茉莉のチャンネルらしいって、聞いてないぞ。しかも、製作の欄に俺の名前が書いてある。
俺が作るのね、そんで完全版を取って円盤を映画研究会と演劇部が売ると。
衣装代とか、どこから出てるんだろうと思ったらこれだよ、したたかすぎるだろう。チラシ配りできたら売れるだろうよ。
って、こんな宣伝勝手にしていいのか?あ、協賛の欄にオヤジさんの店の名前あるわ。
俺は、チラシを落としてしまった。
すかさず、茉莉がチラシを拾って、配り始めた。
即無くなりましたよ。
貰えなかった、メディアが文句言ってくるとチラシを大きくしたボードを持ってきて、写真撮らせている。
茉莉の笑顔付きのボードに人が群がる。
全部、マッチポンプなのか?怖すぎるぞ。
まるで子供のサッカー見てるように人が右往左往している。
その中でも、目端の利くメディアは、ここぞとばかりに手隙になった四天王に取材している。
こうして、大混乱のままメディア公開日は幕を閉じた。
他のブースから文句が来るかとビビったけれど、人が沢山来れば一つのブースにずっと固まることは無いらしい。
どちらも仕事をしているからだとさ。
一般公開日が恐ろしいな。