未来は、まだ、分からない 5話
三日後。
正太郎は、オフロードバイクを駆って乾いた丘陵地帯を走っていた。
通常のバイクでは、まだ身長の低い正太郎には足が届かないため、民生品を改造したものだ。
目的地は、機甲師団が野営していると思われる場所だ。
幸いなことに情報屋の情報通りの地点に野営地を見つけることができた。
そして、そのまま臨時司令部が置かれていると思われるテントへ向かう。
途中の検問は、偽造した通行証と鹵獲されていた特務部隊制服のおかげで無事に通過することができた。
敵の機甲師団は、車両は比較的旧型が多く、撃破されても浸透作戦を成功させる事、つまりは相打ち覚悟を前提にしていると正太郎は感じた。
正太郎は、司令部のテントに案内された。
テントの中には、数名しか存在していない。
テントの中央には小太りのチョビ髭がニヤニヤと笑っている。
その両脇には、筋肉質な寡黙な男が二人。
さらに、その後ろに副官らしい冷静沈着な表情の女性が立っている。
正太郎は、鞄から一通の文書を広げた。
チョビ髭の顔か真っ赤に染まっていく。
「ラトラー准将閣下、こちらが統合本部からの指令になります」
「そんなバカな!」
ラトラーというチョビ髭が机を叩く。
「展開地点までのルート変更だと!?」
「指令書のとおりであります」
「ここまで、どれだけ苦労したと思っている!?」
「侵攻ルートが露見している可能性とそのルートへの敵性勢力の攻勢が予想されています。幸いにも展開地点までは露見していないというのが統合司令部の予測です」
「2キロ前までは、自軍領域でした。そのため現在位置では敵性勢力内であるため自分自らの伝令となりました」
「しかし・・・」
「疑義があれば統合指令所に問い合わせを申し上げたいところですが、無線封鎖が行われているため人員による伝令となります」
「しかし、ここから指令地点まで物資が持つかどうか」
「ラトラー閣下、出動時点での輜重部隊の編成からルート変更は、可能と参謀本部が進言しています」
「疑義があるならば、統合指令部へお問い合わせしていただいても結構です」
正太郎の持ってきた指令書は、実は本物だ。
いわゆるプランBのために用意されたものを情報屋の伝手で司令部の本物を偽物とすり替えてもらった。
ラトラーの顔が青くなる。
軍人に相応しくない恰幅が、彼なり彼の息のかかったものが物資を横流ししているのは明らかであった。
「閣下、自分は特務所属であり、輜重部隊への査察権限があります」
ラトラーの顔から冷汗が止まらなくなる。
「速やかな部隊の転進を提言します。また、どうやら輜重部隊への敵性勢力の威力偵察でもあったのでしょう変更ルート上で物資の補充を行えるよう、別働の輜重部隊の出動を統合指令部へ要請しておきましょう」
「ほ、本当か!」
「自分は、直ぐに司令部に戻ります。速やかな転進を」
「や、約束する。おい!野営の中止だ!直ちに転進を開始しろ!」
副官らしい男がテントから飛び出していく。
「では、自分はこれで失礼します」
正太郎は、敬礼をするとラトラーは鷹揚に答礼したので、正太郎もテントを出た。
出たところで、声をかけられ正太郎は内心舌打ちをした。
「特務少尉殿」
「なにか?」
「なぜ、査察をなさらないのですか?横流しは重罪であり、明らかでは」
テントの中にいた副官の一人なのだろう、鍛え上げられた肉体と真摯な視線が生真面目な印象を与える。
「無駄に兵を失うわけにはいかない」
正太郎は、副官の目を真っすぐ見て答えた。
「貴官のいう通り、査察を行えば横流しをつまびらかにすることはできるだろう」
「ならば!」
「その結果。転進が遅れ、いや、転進が不可能と判断され、さらに敵の攻勢が始まったらどうする?既に敵の展開は始まってる。貴官は自分の正義感を満たすために兵士4000名を死地へと追いやるのか?」
副官の顔が苦いものに変わる。
「清濁呑み合わせ、最善と思われる行動を行え。今回の浸透作戦が被害甚大であることは賢い貴官なら分かるだろう。ならば作戦を成功させつつ一人でも多くの兵を生かすことが最善ではないのか?少なくとも自分はそう考える」
副官の顔がハッとしたものになる。
「自分は、見た目通りの年齢だ。しかし従軍経験は貴官よりも長いかもしれない。色々な作戦を見てきた、故に自分は特務にいるのだ。自分には時間が惜しい、物資の調達があるからな。生かすために。しかし、貴官の今後に期待する。失礼する」
正太郎が敬礼をすると、副官は涙をこぼさんばかりに答礼した。
正太郎は、オフロードバイクに跨り丘陵を駆ける。
途中で、バイクを爆破し隠してあったジープで幾つかの回り道を行い、尾行の確認と衛星から隠れながら基地へと戻った。