本当の世界とは? 4話
コンテンツに困らないというのは贅沢な悩みかもしれない。
いい絵を取ろうと思ったら経費も掛かる、会社化したいが俺たちは未成年だ。
茉莉のお袋さんを代表にして会社作ってもいいが、金が絡むと人格が変わってしまうのを爺さんが死んだときに味わったから心配だ。
特に茉莉の父親が心配だ。
茉莉の父親は、DVが原因で刑務所にも入ったし接近禁止令も出ているが、逆に何をしてくるか分からない。
おそらく茉莉が芸能界を迷ったのもこのあたりが原因かもしれない。
会社にするのは、動画の再生数が稼げてからでいい。
とりあえず、動画をアップロードしてしまおう。
茉莉のアカウントだが、実質使うのは俺なのでパスワードも教えてもらってある。
「ゆーくん、起きてるー?」
「おお、茉莉か。もうそんな時間か、ちょっとシャワー浴びてくる」
「ゆーくんが起きてる!?って徹夜?またゲームでもしてたんでしょ」
「そんなとこだ。それと徹夜明けに運転は出来ないから、今日は歩きだから早めに出ような」
「ゆーくん、歩くの嫌だもんね」
「駅までは、送ってもらうさ」
ダダ甘の母さんに駅まで送ってもらって、電車に乗る。
暑い、だらだらと汗をかいてしまう。
隣の茉莉が汗を拭いてくれようとする、やめて!周りの視線が痛い。
美少女が白豚の世話してるって笑われてるよ!その通りだから、そこの男子も殺気を向けないで。
脂汗と冷汗をかきながら、校門までの坂をひいひい登る。
保健室に行って、涼みながらベッドを貸してもらい、カーテンの中でボディーシートで身体全部を拭って下着まで着替えた。
備えは万全だ。
「祐介氏、おはようでござる。おや、随分とお疲れですな」
「ああ、徹夜してしまって普通に通学したら疲れた」
「因みに何をしていたのでござるか?夏コミにでも出店するでござるか?」
「ぬふふふ、ついに茉莉を世界へ売り出すのだ」
「おおー、無駄に壮大ですな」
これを観てもまだそんな口が利けるかな?
俺は、スマホからアプリを起動して見せてやる。
「おおお、これは確かに友田嬢。さすが祐介氏努力の方向音痴!素晴らしい完成度ですな」
「チャンネル登録よろしくな!」
「拡散しても?」
「勿論だぜ、友よ!」
「これは、薄い本が捗りどうですな」
「う、うん。ほどほどにね。イメージとかあるから」
「合点でござる。部員にも声をかけて、もう一冊新刊を夏コミで出すでござる」
彼は、日本文化研究部という部に所属している。
いわゆるオタク文化の集まりなんだが、オタクを拗らせ過ぎて一周回って茶道やコスプレでない普通に着物を着るようになってしまっている。
日本文化研究部の拗らせ具合は、他の茶道部や華道部の存在意義を危ぶまれる程と言えばいいだろうか。
コミケで荒稼ぎし、その潤沢な資金で師範の許状を持つ者も多い。
一時期、他の部を統合してはと職員会議にあがるほどだ、女子生徒の多い茶道部や華道部がオタクの中に入るのも教えを乞うのも嫌だと猛反発にあい頓挫した。
うちの学校は公立だが留学生を積極的に迎えているが、留学生は全員日本文化研究部へ入ってしまう。
本格的な日本文化からポップ・サブ問わず体験できると好評が好評を呼び、年々留学を希望者が増えているらしい。
俺は、オタクだがそこまで拗らせていないので帰宅部だ。
むしろ、拗らせていないと日本文化研究部には入れない。
ちなみに帰宅部は、れっきとした部活だ。
我が校は何か必ず部活に入らなければならない決まりがある。
俺は、基本的に帰りたい。
だから、帰宅部を作った。
スムーズに安全に帰宅することを目的とした部活である。
俺と茉莉とで作った部活だがポスターを作ったら、入部希望者が殺到して結構な人数になって学校側も認めなざるを得なくなった。
俺も顧問も早く帰れてwin-winだった。
勿論、帰宅部なので活動記録は必要なので危険がなかった無事に帰ったかをメールしてもらい仕分けてExcelに落としている。
Excelに落とす過程で、危ない交差点や人通りが少ないなどの危険地帯が分かってきた。
それを帰宅部全員で共有したところ、ある帰宅部員が危険地帯を注意して歩いていたら、ひったくりにあった老婆を助け、別の帰宅部が犯人を捕まえるという事をしてしまった。
警察に表彰され地方紙のインタビューに帰宅部の事を話してしまった。
最初は、冗談かと思われたが危険地帯情報で風向きが変わってしまった。
そんな得体の知れない部活動が盛んな我が校である。
話が逸れたが、彼の部活動で取り上げて貰えるなら知名度はある程度確保できそうだ。
夏コミ以降が楽しみだと思っていた。
眠気を我慢しながら、時にはウトウトとしながらその日を乗り切った。
夜、バイト先のオヤジから連絡が来た。
また、盗難車のバラシかなと思ったらそうでは無いらしい。
要領を得ないので、明日はシフト外だが行くと言ったら喜んで関係者に連絡をしておくとのこと。できれば茉莉にも来て欲しいらしい。ますます分からん。
なるべく使用フリーなカラオケ音源をピックアップして、あの機械音痴に何をさせるか考えてゲームしてる姿もワイプで流したいなと考えてセッティングをしておく。
翌日、茉莉に事情を話してジャンク屋にやって来た。
事務スペースには、カジュアルビジネスな男女とスーツ姿の男性が待っていた。
「オヤジさん、来たよ。この方たちは?」
「おおー、待ってたんだよ。雑誌の記者さんとイベント会社の方だ」
俺たちは、軽く頭を下げた。
「なんで俺たちは呼ばれたんですか?」
カジュアルビジネスな男性が名刺を出しながら答えてくれた。
「僕たちは、あの車の取材に来たんだ」
「あの車って、クラウンですか?」
72年式のト〇タのクラウンがあったからスーパーチャージャー積んだりして、がんがんのマッスルカーにカスタムしたんだ。
「そう、いつかはクラウンいう謳い文句まであったあの車を大胆にカスタムしてあった、素晴らしいセンス、それに動画も素晴らしかった。なので雑誌とネットで紹介したいと思って許可をもらいに来たんだけど」
「まさか、高校生とは思ってなかったと」
お互いに苦笑いだ。