本当の世界とは? 3話
「風が気持ちいいね」
「そうだな、絶好のツーリング日和だ。このまま海まで行くか?」
「もー、ほんとは海嫌いで行かないくせに」
「あははは、バレたか」
ブルートゥースのイヤホンで他愛無い話をしているうちに学校に着いた。
高校ってどうして高台にあるんだろうね、毎日坂道登るの大変なのに。
あ、広域避難場所だからですか、そうですか。
茉莉が、自慢げに説明してくれた。
茉莉を校門で降ろすと、俺は駐輪場に向かった。
駐輪場には、結構な数のバイクが並んでいる。
俺と同じように特別な許可を取った奴らのバイクだ。
ガスマスクを着けたウサギのステッカーが貼ってある。
俺がジャンク屋でバイト中に作ったバイクだ。
水曜と金曜に俺は車とバイクのジャンク屋でバイトしている。
そこは、盗品を分解して流したり怪しさ満点だが、払いがいいし。部品も工具も使い放題なのでバイクを組んだりしている。
構造計算とか出来ないが、ジャンク屋のオヤジがどっかから証明書持ってきて普通に売っている。
特別な理由で金がない奴らに命が要らないならと安値で流したのが、ガスマスクにウサギのステッカーだ。
教室に入ると、さっそくオタクどもが寄ってくる。
「今日も美人と登校とは、祐介氏もさすがでござるな。それより、昨日始まったガ〇ダムの新作と魔法少女の2期目第一話は観ましたかな?」
「もちろん、観たよ。もう完全に迷走始めてる感があるだが」
「そうでござるね、そもそも作りすぎなんでござるよ、だから、脚本の練りも作画もダメダメになるでござる」
「それには、俺も全くの同意だ」
程なくして、教師が入ってきてHRが始まり、今日も平和な一日が始まった。
「ゆーくん、相談があるんだけど」
昼休み、俺が弁当を食べ終えてアンパンを食べていると茉莉が話しかけてきた。
「上手い告白の断り方とか俺に聞かれても分からんぞ?このクソリア充め」
「祐介氏も十分リア充に見えるでござる」
うんうんと一緒に飯を食べていた奴らが同意してくる。
「全くの誤解だ、君たちの目は節穴かね」
俺が憤慨していると、茉莉の取り巻きがキャンキャン吠えてきた。
「茉莉がわざわざ相談があるって言ってるんだから、ちゃんと聞きなさいよ」
「そうよ、そうよ」
「うるせえな、んで何だよ相談って」
「うん、ここじゃちょっと言えないから、帰り寄っていい?予定とかあるなら別の日でもいいから」
告白の断り方じゃなさそうだ。
何か結構本人的に重大っぽいし、今日は何も予定がないから了承した。
「んじゃ、駐輪場待ち合わせで良いか?」
「うん、ありがとう」
そう言うと茉莉は、自分のクラスに帰って行った。
小学校からずっと同じクラスだったが、高校でとうとう別になった。
茉莉は、クラス分けが張り出されたとき、お通夜みたいな顔してたが程なくして何か立ち直っていた。
「しかし、あの友田嬢が祐介氏に相談とは、珍しくないけれど、ここで言えないっていうのは気になるでござるね」
「そうだな、俺にもさっぱりだ。取り巻きがウザいとかだったら、どうしよう。良い答えが見つからない」
「そうでござるね、何せ友田嬢のおこぼれにあずかろうという欲望と嫉妬半々で付きまとっている連中でござるからね、下手を打つとうらまれるでござるよ」
「うおおお、やだよー。死にたくねーよー」
「骨を拾ったら祟られそうだから、放置常考」
俺たちは、ゲラゲラと笑いあって放課後を迎えた。
茉莉は、駐輪場で待っていた。
茉莉にメットを渡すと、俺はサイドカーを出した。
「途中で寄るところとかあるか?」
「ううん、何もないよ」
「そっか、じゃあ、速攻で帰りますか」
俺は、サイドカーをガレージに入れながら、なんか茉莉元気なかったなと思った。
「んじゃ、俺、飲み物持って上がるから、先に部屋行ってて。あ、くれぐれも色々触るなよ!?」
「大丈夫だよ、もう高校生だよ?勝手にコンセント抜いたりしないって」
あれは、トラウマものだ。大規模ダンジョンにアタック中にコンセント抜かれたあの日は。
俺は、冷蔵庫からコーラのペットボトルとコップを二つ持って部屋に上がった。
「んで、相談ってなんだ?」
切り出しにくいのかなかなか喋り始めない茉莉を置いて、おれはポテチの袋を開けて、二杯目のコーラを飲み干して更に注ぐ。
「あのね、この前に友達と出かけたのね」
ぽつぽつと話し始めた茉莉に俺は適当な相槌を打つ。
「その時、スーツの人に声を掛けられてね、芸能界に興味ありませんか?って言われて名刺渡されたの」
茉莉の話を要約すると取り巻きと街へ出たらスカウトされてしまった。
取り巻きが囃し立て気まずい事、その取り巻きが勝手に自称スカウトマンに家の住所から電話番号まで教えてしまったとのこと。
取り巻きとスカウトマンがグルで茉莉が嵌められてAVに出演ってことになりそうなマッチポンプ感だ。
名刺を見ると中々の大手事務所で有名な女優も多く在籍している事務所だ。
名刺なんて幾らでも偽造できるから、まったくあてにならないが。
「私、どうしたらいいかな?」
「わりー、俺何を相談されてるか全く理解できてない。この名刺の主がしつこいなら警察にストーカー被害届、芸能人になりたいなら、こいつを通さず直接事務所に行く。それで、こいつが本物か分かる」
「私、芸能界なんて分からない。でも、お母さんを楽させてあげられるなら」
「そんな気持ちなら辞めておけ、芸能人になりたくて努力している人にもそれらに関わって金儲けのためとはいえ投資している人に失礼だろ」
「そうだよね、自分が何をしたいかも分からないのに流されてちゃだめだよね。これでも色々考えたんだよ、でも芸能界なんて入ったら、ゆーくん会えなくなるって考えたら」
「お前のそうやって内向きな考え方は治ったと思っていたんだけどな。頭もいいのに思考のループに陥っていきやがる」
「へへへ、その度にゆうくんが助けてくれるから」
「なに嬉しそうにしてんだよ、せっかく先進国に生まれたんだドンドン使っていかないとな。そこでだ茉莉はユー〇ーバーになればいい」
「私に出来るかな、私、機械とか苦手だし」
「その度に俺が助けるんだろ?機材は揃ってるから、アカウント取ってどんどん撮影してどんどんアップロードしていけば、茉莉の容姿なら直ぐに稼げるさ」
「そ、そうかな?私はそんなに可愛くないし」
「嫌味か?山ほどラブレター貰っておいて何を言ってやがる。まぁいい。早速やるぞ」
「ええ!?いきなり?」
「そうだ、思い立ったが吉日、思い立ったら即行動」
「ゆうくんは、全然動かないくせに」
「それは、運動の話だろ。頭と目と指は動いているぞ。屁理屈はいいから、ほら、丁度使ってないノートPC貸してやるから使え」
俺は、机の下からゴソゴソとノートPCを取り出した、アウトレットで安かったから勝ったまま放置している。ソフトの更新しかしていない。
「それで、フリーのメアド取ってユーチュー〇に登録だ。馬鹿正直に全部本当の事入力するなよ?ツ〇ッターのアカウントも連絡用に別なの取って置け」
「は、はい!そ、それで、ゆーくん。これどうやって電源入れるの?」
そこからかー
それから、付きっ切りで使い方とアカウントの取得を済ませた。
「茉莉、スマホから投稿はするなよ?特定に命かけてる奴らに追われるかもしれん」
「ひええー、分かった。ゆーくんの部屋からだけにする」
「ここから配信するのはなー。秘密基地から放送してますって体で通すか」
周りに積まれた漫画や得体の知れないジャンク品の数々を見回して流石にそろそろ処分しなきゃいけない気がしてきた。
「セッティングするからゲームするか漫画でも読んでるかしてろ」
「はーい」
俺は、必要な物を部屋の中から探してくる。マイクとマイクスタンド、オーディオインターフェースにウェブカメラ。データ保存用の外付けHDD
編集は、当分は俺がやるとしても少しずつ覚えてもらおう。
「さて、ちょっとテストするか。茉莉ーできたぞーこっちきて座れー。ここ押すと録画が始まるからな、止めるのはこっちな。簡単な自己紹介でもしてくれ」
「う、うん。頑張る」
茉莉が自己紹介している間に、何か歌えるようなカラオケ音源でも探しておこう。
カラオケ音源は、ユーチュー〇が一番使用しやすいはずだ。たしか包括契約を結んでるとかだっけか。
「ゆーくん、出来たよ」
「おっ、頑張ったな。どれどれ観てみるか」
うんうん、ちゃんと映像も撮れてるし、マイク音量も大丈夫だな。
クラスの自己紹介じゃないんだから本名も出身中学校とか言わなくていいぞと、あまりに予想通り過ぎて笑ってしまった。
「何で笑うのー!?」
「これじゃクラスの自己紹介じゃん。芸名にして、歌ってみたり、ゲームしてみたり、踊ったりしてみますとかあるだろ」
「私、動画とか見ないし、ゲームもしないし歌も歌ったことないし踊ったこともないもん」
ああ、しまった。拗ねてしまう。
「大丈夫だって、ゲームは教えてやるし初心者がやるのを観るの楽しみにしてる奴もいるし、茉莉は普通に歌うまいぞ。踊りは何も教えてやれないなー、外でないとできないし」
「ゆーくんが見ててくれるなら、やってもいい」
「おっけ、おっけ。茉莉、英語得意だったよな?」
「得意じゃないよ、普通だよ」
「洋楽とか歌える?」
「カラオケでたまに歌うかなー」
「おー、やっぱりいけんじゃん、じゃぁ歌とゲームと雑談と出来たらダンスだな」
実は、ダンスの授業で講師にダンススクールに奨学金出すから来てくれと言われる程上手いのを俺は知っている。
「再生数を稼いで、金を稼いでお袋さん楽させやろうぜ!」
「うん、ゆーくん、いつもありがとう」
「もう暗いし送っていくよ。ちょっと遠回りして帰ろうぜ、サイドカー出すからさ」
俺は、ごそごそと部屋を漁って、メットとサイドカーに着けるカメラを探し出す。
玄関で茉莉を待たせている間に、自分のメットとサイドカーにカメラを取り付けて撮り始める。
茉莉が小走りに近寄ってきてメットを受け取ると嬉しそうにサイドカーに乗り込んだ。
俺は、既にメットを被っているので準備が良いか目線を送ると微笑みが返ってきた。
「思った通り、いい絵が撮れてるぜ」
家に帰って、カメラを取り外し、中身を観ると髪をなびかせている姿やこちらに微笑んでいる姿がバッチリ撮れていた。
「これに夕焼けバージョンとか昼間バージョンが加われば、十分オープニングとエンディングにつかえるな」
取り合えずと思った編集に熱が入ってしまい徹夜になってしまった。
ちょっと前に作った音源を合わせてみると中々に恰好のいいオープニングが出来てしまった。
ついでとばかりにテストで撮った自己紹介から個人情報を抜いて、素人丸出しの感じを出して完成だ。
さてと、問題は山積みだ。