歯車にならないように 10話
正太郎は、言葉を紡ぐ。
「神の意思は、神の意志で、お前の意思ではない。それはお前の願望だ」
「なにが言いたい?」
「お前は神を語った大罪人ってことだよ」
「そんな事はない」
「じゃあ、父なる神は何処に居る?お前に何を言っている?」
ウリエルは、頭を抱えてうずくまってしまった。
「とりあえず、全員、戦闘終了。ネフィー、テラフニエル、お茶の用意を」
そうして、全員がテーブルに着いた。
「まず、父さん。貴方の事を俺は知らない。なんでこんな事をしているのかも分からない。説明してくれ」
「ああ、そうだな。私は、間違いなくお前の父だ。母さんが紛争の犠牲になって脳死状態になったときに天使が現れた。記憶の保存のために機械化するという事だ。私は家族を失うくらいなら全てを投げ打つ覚悟があった。だから、承諾した。そしたら、この世界で世界を見守ることが仕事とされた。沢山の知識を得た、そして命じられるまま地獄と人間界を繋いだ」
「ウリエル、これは、お前の計画か?」
「違う、我は、天界に現れた彼を保護し、利用した。彼は地獄を繋げることが出来た、天使の悲願でもある悪魔に復讐できるから」
正太郎は、父親が天界に現れたことを不思議に思ったが、黙っていることにした。
通常の人間は、天界に登ることは不可能だ。何者かの手引きでもない限り。
「おかしいね、ウリエル、父なる者は悪魔の討伐を命じたか?違うだろう?人間に異なる神を信仰するなと言わなかった?父さん、父さんは何者なの?」
「ああ、ずっと家を留守にしていたものな。私は科学者だ。だが妻を助けるために最善を尽くした」
「契約をしたんだね」
「ああ」
「誰と?」
「分からない。私の研究は行き詰っていた。そこに、輝く天使が現れた。科学者の私がオカルトに縋るなんて負けだと思った。しかし、母さんの命は尽きてしまう」
「だから、契約したと。対価は?」
「正太郎、あまり、お父さんを責めないで」
真雪が父を抱きしめている。
「本当なら、私はずっと昔に死んでいたのに、家族を抱きしめられる。そのきっかけはお父さんなんだから」
「父さん、対価は何を?」
「正太郎!」
「母さん、父親と男の子の関係は、ある種ドライなんだよ。母さんの命を留めてくれたのには感謝するけど、犠牲が多すぎるし、何で生身じゃなくて機械になったの?」
「それは、天使が、生身を造ることはできないと言われたから」
「じゃあ、なんで母さんは目の前に居るの?騙されたんだよ!」
「そんな。。。。」
「父さん、呆けてないで、動いてくれ。今の地上には海が足りない。どっかの彗星から良い感じで着陸させてくれ。落とすなよ?」
「分かった、不甲斐ない父で済まない」
「ほんとだよ。全部終わったら、父さんに養ってもらうからそのつもりで」
「正太郎、どこに行くんだ?」
「この世界を、好き勝手している地獄の底に居る奴の所さ」
「父さん、月面に天使に作ってもらった基地があるから使って、後は、地上の紛争を抑えるように動いてね。現状、戦いが無くなったら困るだろうし。少しずつ水を足して農業へ移行してね」
正太郎は、手に巻き付いた鎖を引っ張る。
「行くのね」
「ああ、元旦那に会うのは嫌かもしれないけど」
「いいわ、決着を付けたかったところだし」
正太郎は、地面に沈んでいく。
「正太郎君!」
「ネフィー、すぐ戻るから、待っていてくれるかい?」
ネフィーは、涙を流しながら頷いていた。
「そうそう、神様が居ないか探しておいて。半殺しにして良いから」
正太郎が微笑むと、ネフィーは、ガッツポーズをして応えた。
正太郎は、凍てつく大地に降り立った。
「思ったより寒く無いんだな」
「正太郎には、天使の加護が幾つもあるからね」
リリスが宙に浮きながら答えた。
正太郎は、堕天使が氷漬けになっていると考えていたが、一面、氷原が広がるだけで何もない。
さて、明けの明星様は何処にいるのだろう?
正太郎は、不思議に思って下を見ると、謁見の間があった。
「まだ、下があるのか!?どうやって入ろう。流石に天井叩き割るって訳にも行かないよな。リリス、どうやって入るんだ?」
「うーん、昔は、あっちの方にお城があって、そこからは入れたんだけど」
「そうか、じゃあ、そっちに行ってから考えようか。考え無しに来るんじゃなかったな。車の一つでも持ってくれば良かったな」
「私が抱えて飛んで行こうか?」
「そうだな、お願いしようかな」
「うん!」
正太郎は、リリスに抱えながら浮上していく。
「なぁ、リリス」
「なあに?」
「ここは、地獄なんだよな?この上には別の地獄がっていうか別の大地が広がっているのか?」
「分かんない。あんまり高く飛ぼうとすると抑えられる力がすごくて浮き上げられないんだ」
「そうか、引力と斥力が働いているんだな。よく出来ているシステムだな」
「正太郎は、難しい事知ってるね。あ、そろそろ着くよ」
「見事に何もないな」
「そうだね」
「基礎部分でも残っているとおもったんだけどな」
正太郎は、なんとなく地面をノックし、口上を述べた。
「正太郎、いったい何してるの?」
「いや、行く場所は見えているから、なにか言えば開けてくれるかなーって」
「いや、そんなバカなことないわよー」
リリスは呆れていたが、地面が割れて階段が現れたら呆然としていていた。
正太郎は、満足そうに階段を降りていった。
「やっぱり、挨拶は重要だったんだな」
玉座の周りは、沢山の本が山の様に積んである。
その玉座で、恐らくワインであろうか、赤い飲み物を飲みながら本に目を落としている天使が見える。
その姿は、明けの明星に相応しく美しく12枚の翼が輝いている。
その天使は、正太郎達に気が付くと読んでいた本を置いて、正太郎達の方へ視線を向けた。
{ここに誰かが来るなんて珍しい、歓迎するよ}
「俺の名は、正太郎、こっちは知っているよな?」
{ああ、リリスの案内でここに来たのか、リリス、久しぶりだね}
「単刀直入に聞こう、どうして地獄を地上と繋げた?」
{そうだね、地獄だと僕たち堕天使達は行動を制限されているからね、地上に出て戦闘訓練ってところかな}
「訓練?そんな事のために、地上も天界も巻き込んで戦争しているってことなのか?」
{そうだ。天界も神が居なくなって腑抜けになってしまったからね、そっちの訓練も兼ねているんだ}
「地上は、めちゃくちゃだぞ?人間も動物もたくさん死んだんだぞ」
{それは、些末な事だ。下を見てごらん?}
正太郎は、言われるまま床を見た。
全身が憤怒の炎で紅く燃え盛り、巨大な体躯に七つの竜の頭を持ち、それぞれが王冠を戴き10本の角が生えている。
「な!?」
正太郎は、恐怖のあまり尻もちをついてしまった。