歯車にならないように 5話
「おい!どうなってる!伝承と違うのは海に居ない事だけじゃないか!」
「そんなこと、私に言われても困るわよ!」
正太郎が腕に巻いた鎖から本当に困ったように声が返ってきた。
{スピードを上げるぞ!後方部隊は、何でもいい爆薬を投下しろ!}
無線から指示が飛んでくるが、いつもは持っているC4爆薬を持ってきていない。
「そうか!爆薬を囮に使うのか。部隊数が多いのも全部囮だな。トレーラーは静音措置でも施されているんだ」
どうする、どうする。何か策を考えないと食われてしまう。
「テラフニエル、地中に音響を!反射時間からリヴァイアサンの位置が分かる?」
「ソナーですね、可能です。早速、開始します」
「バルキアケル、音響外傷を与えられるだけの強力な音圧を出せる?指向性で!」
「可能です」
「ソナーに感あり、9時方向から向かってきます」
正太郎は、無線機に9時方向からの襲撃を伝えるが、これまでリヴァイアサンの襲撃位置が分からなかったため一笑に伏された
その瞬間、9時方向からリヴァイアサンが飛び出し、数台の車両が爆散し、悲鳴が無線機から聞こえてくる。
「くそ!」
正太郎は、ハンドルを叩くと車を減速させる。
「テラフニエル、ソナーを小刻みに打って位置の把握と、奴にこちらの位置を知らせるんだ」
「了解しました」
「正太郎様、音圧、振動幅も最大まで上げます、念のため耳栓をして口を開けておいてください」
「了解、タイミングはバルキアケルに任せる」
正太郎はダメ元で無線機に叫ぶ。
「自分が殿を務めます。爆薬の投下を少しの間止めてください」
正太郎は、返事を聞かずに無線機を切った。
そして、ブレーキを踏んで急激に減速していく。
減速した正太郎の車にぶつかりそうになった車両の運転手が文句を叫びながらも、うまくかわして加速していく。
キャラバンの最後尾に着いた正太郎にテラフニエルから報告が入る。
「こちらのソナー探知に反応して、リヴァイアサンがこちらに向かってきます、方向は8時方向です」
「土の中なのに移動がやけに早いな」
「来ます!」
正太郎は、急ハンドルを切ると土の中からリヴァイアサンが登りあがる。
「バルキアケル!」
ヴゥンという振動で空間が歪んで見えた。
リヴァイアサンは、地面に潜ることなく地表でのたうち回っている。
それを好機とみたのか、傭兵の一部が転進してリヴァイアサンに向かっていく。
「ダメだ!」
重機関銃を撃たれたことで正気を取り戻したのか、身体を捻って車両を吹き飛ばした。
「バルキアケル!もう一発だ!」
再びヴゥンと空間が歪むが、それよりも早くリヴァイアサンが地中に潜ってしまった。
「くそ!馬鹿が!護衛任務なのを忘れたのかよ!」
正太郎は、毒づくとアクセルを踏み込んだ。
キャラバンは、随分と先に行った。
時間は十分に稼げたはずだ。
「テラフニエル、リヴァイアサンとの距離は!?」
「先ほどの攻撃が効いたのか、離れていきます」
「はぁー、ひと段落かな」
暫くすると、正太郎はキャラバンに追いつき、そのまま殿を務めた。
目的地までの中継地点での野営で正太郎は、キャラバンのリーダーに呼び出され感謝され、リヴァイアサンに何をしたか聞かれたが機密として返答を断った。
傭兵が自分の手の内を隠すのは普通の事なのでリーダーも深くは追求してこなかった。ただ、護衛任務を今後とも受けて欲しいとは言われた。それも曖昧な返答に留めておいた。
正太郎は、自分の車に戻ってきた。
「しっかし、リヴァイアサンが地面の中に居るってどういうことよ。その辺のところ、どう考えるよ皆さん」
「私は、ずっと地下に繋がれたから分かんなーい、それよりもお腹空いたー」
「リリスは、なんかどんどんバカっぽくなっていくな」
「私達には、理解しかねます」
「だよねー」
「お姉ちゃんは、ちょっと分かったかも」
無線機から明菜の声がする。
「まじでえ?」
「ずいぶん疑り深い感じねぇ、お姉ちゃんは心が広いから許してあげる」
「それで、何が分かったのさ」
「多分だけど、改造?されてるっぽいんだよね」
「改造?」
「うん、水の中に居るのが本来なら身体は魚みたいな鱗かサメみたいな水を流す体表だと思うんだ。でも、さっきのリヴァイアサンの体表は機械みたいだった。その機械で地面を柔らかくしてるみたいだったよ」
「おー、姉さん凄い!まじ尊敬!」
「ふふーん。もっと褒めてもいいのよ」
うわー、調子乗ってる姿が正太郎には、ありありと感じ取れたが口には出さなかった。
悪魔の機械化とは、結構厄介なことなんじゃないか?
ある意味、個体の進化と同等なんじゃないか?
「リリス、テラフニエル、姉さんの言うような機械化じゃなくてもいい、自己進化みたいなことってあるの?」
「天使は、神から創造された姿を変じることはありません」
「私達もそうね、動物に変身したりとかはあるけど、基本その姿を変えないわね」
ということは、一部にブレクスルーが起きたってことだ。
それは、そのうちに既存の武器や概念では太刀打ちできない存在が生まれることを意味する。
それは世界の破滅を起こすものかもしれない。デウスエクスマキナ、神の機械、正太郎は首を振った。
正太郎は、ゆっくりしてられないと空を見上げた。
空には、満月が浮かんでいる。
次の日からの道行は、特筆することもなく残りの日程を消化した。
待ち構えていた部隊にトレーラーを引き渡すと傭兵部隊は基地へと引き返す。
リヴァイアサンの襲撃を恐れてか、リーダーも他の傭兵も正太郎の指示を仰ぐ始末だった。
正太郎は、げんなりしながらも先頭を走った。
先日でのソナー情報からリヴァイアサンの移動時に発生する振動音を感知できるため、正太郎自身はだらけていた。
無事に基地まで到着し、窓口に報告し報酬が振り込まれるのを確認したところで、正太郎は宿に戻って身支度を行っていた。
「母さんは、先に出発しているから心配ないけど、姉さんの方はちゃんと頼んだこと出来ているかなー、ネフィも一緒だから大丈夫かな」
正太郎は、宿屋の家族に感謝されながら基地を出発した。
正太郎のハンヴィーが荒野を何時ものようにひた走る。
10日かけた道を5日で走り切った。
護衛任務での達成地点から、進路を変えてひた走る。
正太郎は、護衛任務時に引き継いだ護衛対象が何処へ向かったのか気になっていた。
そのため、明菜達に飛空艇で追跡を頼んだ。
最終目的地が判明した時点で、真雪に荷物の搬入先の情報収集を頼んだ。
現在は、二人とも飛空艇で正太郎の到着を待っている。
進路を変えてから更に5日かけて正太郎は、合流することが出来た。
「やっと、着いた」
「お疲れさま、頼まれていた事は出来てるよ」
「ありがとう、姉さん。今回は姉さんの追跡が肝だからね」
「それで荷物は、どこに運ばれたの?」
「ここから2キロ程行ったところに地下施設があるみたい、格納庫に運ばれた量と格納庫の大きさが釣り合わないから、ほぼ確定ね。ソナーとかすると探知されそうだからしてないわ」
「母さんは何か分かった?」
「そうね、近くに施設も基地も何も無いから苦労したけど、そのせいかしらね、電力の消費が異常なくらい大きいわ、あと、無線で頻繁にやり取りしているみたい。無線の相手はバアル勢力圏内の基地、グザファン勢力圏内の基地両方よ。つまり、両方の息がかかっている」
「手を組んでいるって事?」
「そう考えて良いと思うわ」
「ひょっとして僕たち罠に嵌ったかな?」
「恐らくそうね、直接的な攻撃はしてこないと思うわ、出来れば私たちに自分たちを縛り付けている杭を消して欲しいでしょうし」
「なら、行くしかないよね。もうこそこそしないで一気に行っちゃおうか」
正太郎の半ばやけっぱちな提案に一同もやけっぱちに頷いた。