歯車にならないように 4話
「これ以上、俺達がやる事はないな。暫く此処に泊まるとして、情報収集どうするかだなー」
「正太郎君、ちょっと散歩にでも行かない?」
「ネフィーは、元気だね。いいよ、行こうか」
正太郎とネフィーは、ブラブラと特に目的地もなく二人で歩いている。
「ここは牧歌的だね、なんか平和な空気がするね」
「そうだな、ドランが言うには中継基地的な場所柄がそうさせるのかな、作戦もどんなのがあるか見てみないと分からないけど護衛任務とかが多そうだな」
「正太郎君、正太郎君は傭兵を続けるの?」
「そうだなー、考えてもみなかったな。姉さんも母さんも元気になったし傭兵をしていた理由は無くなったな」
「それなら」
ネフィーの言葉を正太郎は遮った。
「でも、ある意味恩返しかな。それが残っているし、少なくとも俺自身は引き返せないところまで来てしまってると思ってる」
「恩返し?」
「ああ、姉さんや母さんが元気になったのはテラフニエル達天使のおかげだ。その天使が地獄を地上から切り離そうと願ってる。そして、それは半分達成してる。もう今更引けないよ」
ネフィーは、それ以上何も言えなかった。自分の父親も天使だ。その願いを叶えてくれようと頑張っている正太郎に掛ける言葉が見つからなかった。
「ネフィー?」
「ううん、大丈夫。変な事言ってごめんね」
「それにさー、どうも引っ掛かるんだ」
「どういうこと?」
ネフィーは、不思議そうに首を傾げた。
「うん、傭兵の大半は悪魔だっていう話だよね、なのに同じ悪魔が杭で縫い付けられているのに知らぬ存ぜぬだ。それにそもそも地獄を繋いだのって誰なんだろう」
正太郎は、分からない事ばかりだと呟いた。
「窓口でも覗いてから、帰るんでいい?」
「いいよ」
窓口は、どこも同じ造りをしているので、正太郎は迷うことなく進んでいく。
今回は、特に用事があるわけでもないため、端末で作戦依頼を見ていく。
以前に予想した通り、護衛任務の割合が高い。
おかしいと正太郎は思った。
中継基地として物流の要衝なのは理解できる、ならば、初日に基地を見たとき防護柵が少ないのは見ていた。
防護柵が少なくて済むような状況なのに、何を何から護衛するんだろう。
少なくとも基地の影響圏内では無いだろう。しかし、中継基地である以上、この基地の影響圏外は、先にある基地の影響下にあるはずだ。
軍事物資を運ぶ部隊を襲うほどの武力なり持っている存在、他の勢力からの攻撃ならば基地がこんなにも牧歌的でいられるはずがない。
「そろそろ帰ろうか」
「うん、明菜さん達にお土産でも買って帰る?」
「甘い物でもあれば良いんだけど、この世界じゃ無理かー」
「うふふ、そうだね。ここには八百屋さんもないもんね」
「食べ物屋さんは、結構あるんだけどな」
二人は、冷やかしながら宿に向かった。
宿に近づくと段々と食欲をそそる匂いが漂ってきた。
これは今夜も満員御礼だろうな。
「仕方ない、今夜もお手伝いしますか」
正太郎が笑うとネフィーも微笑んだ。
食堂は案の定、満員御礼だったが、元気になったララクの活躍もあり昨晩ほどの戦場にはならなかった。
食堂から最後の客が帰ってから、正太郎は皆に護衛任務を受けてみることを提案した。
任務と基地の雰囲気が合ってないという違和感についても話した。
明菜も真雪も心配はしたが、反対はしなかった。
ネフィーが付いてくると言い出したが、傭兵でないし預かりの身であることを理由に正太郎に却下された。
翌日、正太郎は窓口のファムの所に顔を出した。
「では、ブリーフィングを始めます。今回の作戦は、本基地より軍事物資の運搬を行いますので、その護衛任務となります。片道10日間の道程となり指定地点まで護衛の後、物資の引き渡しを以って任務の完了となりますので速やかに帰還してください」
「質問が幾つかあるんだけど、良いかな?」
「どうぞ、お答えできることは限られますが」
「えっと、行先は基地までの搬入じゃなくて指定地点ということでいいんだよね?」
「左様でございます」
「って事は、最前線まで運ぶって理解したらいいかな?装備の準備もあるし」
「目的地は、最前線ではなく中間地点と捉えていただいて結構です」
「引き渡し先は、この基地の部隊と考えていい?でないと、襲ってくる敵と区別がつかないよ」
「おっしゃる通り、この基地の部隊となります。運搬には基地の兵士も同行しますのでご安心ください」
「了解、運搬するブツは、機密事項?」
「ご理解が早くて助かります」
「分かった、出発は3日後の早朝で集合場所は基地の入口でいいんだよね?」
「はい、何台かのトレーラーでキャラバンを組みますので、すぐ分かると思います」
「了解、それじゃ3日後に」
「ご武運を」
正太郎は、窓口を後にした。
3日後
正太郎は、基地の入口に来ていた。
ブリーフィングで言われていた通り、すぐに分かった。
トレーラー3台に前後に装甲車両が配置されている。
その周囲を傭兵なのだろう、ピックアップトラックに軽機関銃や重機関銃を設置した車両が結構の数が居る。
「やはり、ただの護衛任務にしては規模が大きすぎるな」
余りの台数の多さに、余程大切なモノが護衛対象なのかと素直に正太郎は思えなかった。
まるで、襲撃されることが前提のような仰々しさだった。
そんな中で、ハンヴィーに載っている正太郎は、軽装だった。
キャラバンのリーダーに挨拶に行くと、後方中よりに配置された。
体の良い壁役だが、正太郎は了承し各々が配置に着くと、ゆっくりとキャラバンは出発した。
目的地までの10日間、交代で見張りと野営を繰り返しながら進んでいく。
「敵襲の気配は、まるで無しと」
正太郎は、車に備え付けられたモニターを眺めながら呟いた。
モニターには、母である真雪から送られてくる周辺のレーダー情報や衛星写真が映っている。
「そういえば、このキャラバンって対空装備無いんじゃないか?あー、でも敵が鹵獲か強奪を狙っているならトレーラーが直接狙われることはないかー。この部隊数なら対空ロケットくらい持っているだろうし」
「敵襲!」
キャラバンの前方で警報が鳴らされる。
しかし、レーダーにも衛星写真にも何も映っていない。
正太郎が、周囲を警戒しようと辺りを見回した途端に、前方のトラック群が爆散して空に打ち上げられた。
そして、砂煙と共に巨大な何かが空へ登っていく。
{リヴァイアサンだ!リヴァイアサンが出たぞ!潜る前に弾幕を張れ!}
無線機から、叫び声が聞こえてくる。
リヴァイアサン!?海の大海蛇じゃないのか!?」
正太郎が、車から乗り出して見上げると、大きな咢を広げて銀色に光る海蛇が身を翻して地面へ潜って行くところだった。