歯車にならないように 2話
正太郎は、窓口に着いた。
「今日、ここに着いたものです。泊まる場所に困っているので紹介していただけるとありがたいです」
正太郎は、おずおずとドックタグを提出した。
「初めまして、受付を担当しています、ファムリアと申します。お気軽にファムとお呼びください。見事としか言えない戦績ですね。何ようにで我が基地に?」
「それって答えないといけないの?」
「いえ、失礼しました。官舎には何名でのご宿泊を予定していますか?」
「8名です」
「その人数なら、官舎ではなく、基地内の宿屋をご利用していただいた方が良いと思います。もちろん、ドックタグでの精算が可能です」
「そうですか、ありがとうございます。ちょっと作戦行動を見ても良いですか?」
「ええ、それでしたら、あちらの端末からご覧ください」
正太郎は、端末へ向かった。情報の漏洩を嫌ったのだろうと予想を付けた。
端末で検索をしていくと、大規模な作戦行動は無さそうだった。
諜報や情報収集か多い。
その割には支払われる報酬が高いことから、難易度が高いのだろうなと考えた」
正太郎は、皆と合流し、紹介された宿屋に向かった。
「うーん、あからさまにお金持ち御用達だね」
正太郎は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「正太郎君?」
「ここは止めよう」
正太郎達は、大通りを歩いている。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー、お泊まりは、ぜひ、我が宿へー」
みすぼらしい服を着た少女が客引きをやっている。
戦闘にしか興味がない傭兵が歩いている大通りだ。
少女は、殴られ吹っ飛んでいく。
けほけほとせき込みながらも、客引きを続ける。
「正太郎君・・・」
ネフィーが声をかけてる来るが無視だ。
傭兵たちが無下に扱うってことは、問題を抱えているか、セキュリティーに問題があるかなど、泊まりたくない宿だということだ。
「あ、お兄さん、宿が決まって無かったら、ぜひ、わが宿へ」
少女が正太郎に声をかけてきた。
正太郎の目は、冷え切っていて、ホルスターに手が掛かっている。
少女はめげずに声を上げる。
「うちの料理は、食べたら病みつきになるんです本当です」
「薬でも、混ぜているのか?」
銃口が、少女の眉間に当てられる。
野次馬が集まって、野次を飛ばす。
「兄ちゃんやめとけ、そこの宿はクソを食わすんだ」
「それに、店のオヤジは愛想無し、クソを食った勇者も居たが口から火が出るとか言っていたぜー」
正太郎は、撃鉄を上げて少女に問う。
しかし、正太郎には確信があった。
「お前の宿は、クソを食わすのか?」
「ちがいます、お父さんが苦労して手に入れた香辛料をたくさん使った御飯です。でも、見た目は・・・」
「コメはあるか?」
「お米ですか?はいっ、あります。薄焼きのパンもあります」
「よし、案内しろ」
銃をしまい、野次馬に馬鹿にされながら宿屋に着いた。
案の定、ボロい宿屋だ、
受付で8名だと告げると、初めて沢山のお客さんが来ただと少女が跳ねまわった。
「おい、小娘、両親はどうしてる」
「お父さんは、料理をしています。お母さんはちょっと病気で寝ています」
「そうか」
俺たちは、誰も居ない食堂にどかどかと繰り出した。
「お父さん、今日は、お客さんがいっぱいだよ」
「どうせ、俺の料理をバカにしに来たんだろうよ」
「をい、店主。俺は、泊まりに来た、飯を食いに来た。その態度はなんだ?どうせケチをつけて支払いもせずに帰るとか思ってるんだろう」
店主が苦い顔をする。
大通りの状況を見る限り、その通りなんだろうな。
正太郎は、ドックタグを少女に投げる。
「支払いは、これで頼む。窓口で大丈夫だと言われた」
「は、はい、大丈夫です」
正太郎から注文をしていく。
とりあえず、ビール、ワイン、果実酒
「マスター、ここのお勧めは何だ?」
「知っているだろう?」
「大通りでの名前か?」
「ああ、そいうだよ」
父親は、大分と心をやられているようだ。
「じゃあ、そいつを人数分、二人分は米してくれ」
乱暴に置かれた皿には、茶褐色のドロリとしたモノが米にかかっている。
「マスター、これをどこで習った?」
「誰にも習っていない、俺の生まれた所は、香辛料は沢山採れた。しかし、主食となる小麦が手に入らなかった、少ない小麦で腹を膨らませるために俺が調合してスープにした」
逆航海時代かよっと大声だそうになったのを必死で抑えた。
「これは、マスターが、考案したと?」
「そうだ、自生している野草を食べる事なんてどこでもやっている」
こいつは天才だと正太郎は思った。
正太郎ですら、アーカイブでしか見たことのないカレーという料理。
古の時代に世界を席巻したとされる香辛料の料理だ。
それを店主は、自らの完成のみで完成させたと言っている。
「ねえ、正太郎。このカレー、私達だけで食べると、明菜が」
「そうだね、直ぐ呼び寄せよう」
正太郎は、無線機と天使の念話で、明菜にカレー発見と伝えた。
3分後、宿の入口に稲妻が落ちた。
明菜が自重を忘れて、天使の力でやって来た。
「店主、宿泊追加。その料理もどんどん作れ!でないと死ぬぞ!」
正太郎の尋常じゃない剣幕に店主は、野菜を刻み炒め、肉と香辛料を煮込んでいく。
「とりあえず、一口いただこう」
正太郎の合図で全員が、スプーンを口にした。
辛い!
そう、辛いのだ、しかし、そこに野菜の旨味、米の甘味。
これがカレーだと、皿が主張している。
「おかわり!」
明菜が声を張り上げた。
正太郎も真雪も、もし明菜を呼ばなかったことを考えて背筋が凍った。
あまりの飲みっぷり食べっぷりに、厨房は戦場と化していた。
給仕は、途中からメイド姿のガブリエルに代わっている。
野菜の皮むきも下ごしらえもポチとタマに代わっている。
店主は、ひたすらに鍋を煮込むが煮込み時間が足りない。
そこに、ゆらりと明菜が覗き込む。
「ねえ、まだぁ?」
「ひい」
店主が腰を抜かしそうになるのを受け止めた存在がいた。
「しかたありません、力を貸しますので、鍋を全部出しなさい。香辛料の配合は貴方でしか分からないのですから、励みなさい」
ミカエルが、体中から炎を発して鍋の煮込み時間を加速していく。
「はぁはぁ、何なんだあんたたち」
「店主、休んでいる暇はありませんよ?」
ミカエルが指を差すと、食堂になってる一階は、閑古鳥が鳴いていたはずなのに満員になっている。
普段は少量しか作らないため、気が付かれなかったが大量に作ることになったことで、通りまで匂いが溢れていた。
そこに美味しそうに食べる明菜を見た何人かが注文をした。
そこからは、人が人を呼んでしまった。
飲み物は、ガブリエルとネフィーが時間を無視した勢いで用意している。
正太郎は、酒屋のドアをドンドンと叩いている。