運命は、少しずつ動き始める 12話
正太郎は、屋敷に帰って母と姉に現状を説明した。
「というわけで、明日には、中央に向けて出発しようと思うんだ」
「どの位の距離なの?トレーラーハウス、動かせないよ?」
明菜が心配そうに尋ねて来た。
「母さん、どの位か分かる?」
「そうね、此処は最善前線ってわけでもないから、車で二日ってとこかしらね」
「了解、そしたら、明日の朝早くに出発しよう。途中で野営するかは、その時考えよう。そうそう、テラフニエル。流石に財宝貯めこみ過ぎだから飛空艇に荷物積めるようにある程度残して月へ上げるように伝言頼んでいい?」
「かしこまりました、早速取り掛かります」
「くれぐれも見つからないようにね」
「委細承知しています」
翌朝、正太郎は、やっと出番のやって来たハンヴィーを機嫌よく運転している。
「正太郎君、ご機嫌だね」
「おう、だって待望の冷房完備だよ。そら、トレーラーハウスにも付いていたけどさ。運転に気を使わなくて良いのが何よりだよ」
「そっか、ずっと一人で運転は大変だよね。私も一応運転できるから疲れたら交代するからね」
「それは、助かる。でも、大丈夫だよ。結構平坦な道だし」
「所々舗装されてるあたり、中央に向かってるって感じがするね」
正太郎は、少しの違和感に気が付いていた。
幾ら基地を基地を繋ぐラインだとしても検問も何も無いのは不自然だ。
「母さん、監視衛星の動きと、この辺に機械の動きとか感知できないかな?」
「監視衛星は確実にこっちを追ってきているわね、大分無茶な軌道修正かけてるみたい。機械は・・・あ、岩に偽装しているタレットがあるわね」
「なるほどね、人的資源に頼らない形を取っているのか、まぁ無視して行こう」
「この車、積める荷物が積めないから御飯がレトルトなのが寂しいわね」
「姉さんは、最近御飯に命かけ過ぎだと思うよ?普通にテントと武器積んだらこうなるよ。トレーラーハウスじゃスピード出ないし我慢してよ」
「分かった、我慢してあげる」
ガスストーブで温めたレーションを食べたが、姉の言う通り味気ないなと思った正太郎だった。
一つのテントを組み立てて、交代で周りを警戒する。
天使が居るとしても、ポーズだとしても通常の野営の形を取っておくことにした。
次の日も早朝から、車を走らせた。
その日の昼過ぎ、中央基地の正面入口に着いた。
「さすがに此処にはスラムは無いか」
正太郎は、入口からキョロキョロと周囲を見渡している。
正面入口から、数名の兵士が走り寄って銃を構えた。
「今から、ドックタグ出すから、撃たないで欲しいな」
「ゆっくりだ、他の者は動くな」
正太郎は、ゆっくりと首からドックタグを取り出して、兵士へ渡した」
兵士は、携帯端末でドックタグを読み取ると銃を下げると、他の兵士にも銃を下げるように指示を出した。
「傭兵の正太郎殿ですね、傭兵であれば通っていただいて結構です」
基地の中に車を進めると、兵士たちが慌ただしく動いている。
「なんだろう?大規模な作戦でも行われているのかな?母さん、なんか分かんない?」
「無線も傍受できてるけど、混乱しているのか纏まりがないわ」
「うーん、窓口で聞いてみようか、一応全員装備は整えて付いてきて。残しておいて人質にでも取られた不味いしね」
全員が、車を降りて窓口へ向かうと、窓口の奥でも慌ただしく人が行き来している。
正太郎は、開いている窓口へ声をかけた。
「すいません、今日、この基地へ着いたのですが何かあったのですか?依頼とか受けられますか?」
「申し訳ありません、現在この基地は移転準備で作戦行動は行っておりません、達成報告の受領のため窓口を開けている次第です」
「そうなんですか、分かりました。忙しい時にお邪魔しました」
「こちらこそ、ご期待に添えず申し訳ありません」
正太郎たちは、窓口から少し離れて待合の椅子に座って相談することにした。
「基地の移転は、少ないけど無い事じゃないからいいんだけど。ここで杭を打たれているはずのリリスって動けるの?」
「どうなんだろう?マステマを見る限り動けるようには見えなかったけど」
「そうねー、そもそもの居場所が移転先だったとか、この移転が陽動かもしれないわね」
「でも、マモンが偽の情報を俺に掴ませるとは思えないんだよ。悪魔だからこそ契約には厳しいはずだし」
三人とも、黙り込んでしまった。
「あの、とりあえず会いに行ってみたらどうでしょう?」
ネフィーが、おずおずと声をあげた。
「ネフィーの言う通りだね。とりあえず行ってみようか」
「この基地の見取り図は、既にハッキング済みよ」
正太郎たちは、騒然とした人々を避けながら奥へ奥へと進んでいく。
「また、エレベーターかー。なんか芸がないね」
「階段でいく?」
明菜がニヤニヤしながら正太郎をつつく。
「エレベーターで、行きます」
数分後、エレベーターが最下層に着いた。
そこは、鍾乳洞がそのままになっているようだった。
ぽたぽたと水滴があちらこちらから落ちている。
「随分と趣が違うんだ」
「なんか、お化けとか出そうで怖いよ」
「姉さん、悪魔とか天使とか相手してて、今更お化け怖いとか」
「だって、悪魔も居るんだからお化けも居ておかしくないよ」
「と、姉さんが言ってますが、そこんとこどうなんですか天使さん方」
「お化けという定義が分かりませんが、現状、死んだ人間の魂は、地獄に堕ちることも天界へ昇天することもできないため地上を彷徨っています」
「ほらー、やっぱりお化け居るじゃん」
明菜は、半泣きだ。
「地上を彷徨っている魂は、悪魔の影響でその存在が希薄になっているので危うい状態です。輪廻の輪に入れず消滅する可能性が高いです」
「つまり、実害はないけど結構人類滅亡の危機?」
「そうですね、輪廻の輪が機能していないので、人類の出生率は著しく落ちているはずです」
「だって姉さん。実害無いって良かったね、怖くないよ」
「正太郎も明菜もふざけて無いで先にいくわよ」
「「はーい」」