運命は、少しずつ動き始める 9話
「テラフニエルは、金貨をバックパック一杯。バルキアケルは何か高そうな像を持って市場入口で集合でよろしく」
「誰に話しかけてるの?」
姿を消している天使に向かって話しかけている正太郎の姿は、独り言の多くちょっと頭がおかしく見えているようだ。
「ん?天使と話をしているんだ」
「そう・・・。正太郎君も苦労しているのね」
正太郎は事実を述べたが、なぜかナナは神妙な顔になった。
市場に着いた正太郎は、直ぐに路地裏に入った。
ナナは、何も言わず周りを警戒しながら後ろをついてくる。きちんと護衛をしてくれているようだ。
路地の曲がり角に差し掛かると隅に突然、バックが二つ現れた。
正太郎は、それを当然のように担ぐと歩き出した。
「正太郎君、なんかそれ突然出た来たように見えたんだけど」
「俺と一緒に仕事するなら、色んなことを気にしないことだよ」
正太郎は、ナナを伴ってマモンの八百屋にやって来た。
「店主、いつもの西瓜」
正太郎が、金貨を一枚渡すとマモンは、毎度と言って奥へ通してくれた。
マモンは、両手で揉み手をしながら、起用にモノクルをかけ直している。
「今日は、結構な大口を頼もうと思ってね。こっちは今回から護衛を頼んだナナだ。これから彼女が窓口になることもあるからよろしくね」
「店主のマモンと申しますレディ、しがない八百屋ですが今後とも御贔屓に」
「ナナだ、礼も知らない粗忽者だが、よろしく頼むわ」
「早速、話をしても良いかな?」
「どうぞ、どうぞ、正太郎様のご依頼ならば喜んで承りますよ。はい」
「じゃあ、早速だけど中距離ミサイルの成形炸薬弾頭とロケット燃料を2千発分、9mm弾丸、7.62mm弾薬を各2千発、食料20名分を1か月分かな」
「これはまた、剛毅なご注文ですね」
「どの位の時間かかる?支払いは、ミサイル弾頭は金貨と女神像、弾丸と食料はドックタグで支払いでいいかな?」
「弾薬と食料は、そう時間かかりませんし支払いは大丈夫です、しかし、弾頭とは、ちょっとお時間を頂きたいです。お値段もかなりお高くなりますので」
「ロケット部分は必要ないから、そんなに高くないとは思うけど」
正太郎は、金貨がパンパンに詰まったバックパックと金で作られた60cm程の女神像をもう一つのバックパックから出してテーブルに置いた」
マモンの瞳が欲望の光に満ちて、頬がにやけるのを抑えている。
「これは、素晴らしい逸品ですね。古代の信仰にあった軍神アテナを象った物ですね。ここまで完全な形で残っているなんて、素晴らしいです」
正太郎は、もう一つ5cm程度の小さな像をコトリと置いた
「これは?」
マモンの目に好奇心の色が浮かぶ。
「まぁ、おまけかな?」
その像は、金で出来ており太った猫が座って前足を挙げている。
「これは、何を象っているのでしょう?愛嬌があるのに神聖を感じるとは、珍しい」
「マモン程の蒐集家が知らない程の逸品って凄いでしょ?これは小さな島国に伝わっていた古代の神獣なんだよ。客を招き入れると言われる商売繁盛の守り神、招き猫っていうんだ」
「ほほー、なるほどなるほど」
「海がもう殆ど無いから、島国っていうのも伝説上の存在だよ」
正太郎が得意げに喋っている事は、真雪の持つアーカイブと天使の歴史観察から教えてもらった受け売りだ。
「素晴らしいです。このマモン、ご注文承りました。全て1週間で用意してみせます」
「契約成立だ。用意が出来たら屋敷に連絡をしてくれ。物はスラムの前にトラックで積んでおいてくれ。俺かナナが受け取る」
「契約成立でございます。そのように用意させていただきます。では、1週間後に」
正太郎とナナが立ち去った後、マモンはニヤリとした。
「さて、金の卵を産むガチョウの腹の中には、どれほどの宝が詰まっているんでしょうねー。裂いて見てみたいです」
マモンは、早速金貨を一枚一枚数えて悦に浸っていると、バックパックの底にメモが入っていた。
何気なく手に取ったマモンは、冷汗をかいた。
{ガチョウは死ぬと金の卵は産まれなくなる}
「ナナ、ちょっと市場で食料買ってく?」
「え?」
「今日は、もう俺は屋敷に帰るだけだし、お土産あった方が信用されるでしょ」
「それは・・・」
ナナは、言葉に窮した。
スラムでは日々の糧に事欠いている。
そんな中で反体制勢力である自分達の調達能力は高いと言えず、グループとしての活動のメインは食料確保というありさまだ。
「遠慮しないでいいよ。これからも手伝ってもらうこともあるだろうしね」
正太郎は、雑貨屋で幾つもの缶詰とサプリメントを購入すると、ナナに渡した。
「正太郎君、感謝します」
「じゃあまた、一週間後。聞いていたと思うけどスラムの前に積まれた荷物に盗みが起きないように警護しててね。弾薬とかは先に開封して使ってくれて良いから」
「分かった。エイジ達にも言っておきます」
「あ、それと一週間後まで食料とか持たないなら、屋敷までナナがお使いに来てね。他の人は見わけが付かないから」
ナナが何か言う前に、正太郎は手を振って行ってしまった。
翌日、正太郎は窓口に来ていた。
「エリーさん、おはよう」
「おはようございます」
「今日は、依頼を受けようと思ってね」
正太郎は、ドックタグを渡す。
「どの作戦を受注なさいますか?」
「この戦車基地の殲滅って奴で。50億円の報酬は美味しい」
「では、ブリーフィングを開始します。今回は敵機甲師団の拠点となっている基地の殲滅となります。機甲部隊のみならず基地施設そのものを破壊が必要最低限の達成条件となっています。破壊具合によって追加ボーナスが支払われます。期限は1か月となっています」
「了解、トレーラーを一台調達したいんだけど空のコンテナでお願い」
「了解しました、空きがございますので乗って行っていただけますがいかがしますか?」
「ちょっと、停めておいてくれる?この日に取りに来るからそれまで置いといて」
「承りました。それではご武運を」
「行ってきます」