運命は、少しずつ動き始める 8話
天使は、神の尖兵だ。
正太郎は、この尖兵たちの力を利用させても貰っているが、結局、それは利害が一致しているからではないとかと考えている。
天使達が、いつ自分たちの敵に回るか分からない。
その対応もしておかないと考えているが、有効な手段が思いつかない。
完全に信頼できる仲間がいないのは、心細いと感じていた。
飛空艇の船倉部分に来ていた。
「まるで、宝船だな」
船倉には、キャンピングカーがそのまま格納されており、その隙間を埋めるかのように金銀財宝が詰まっている。
その中から、金貨を麻袋一杯に詰める。
「あとは、芸術性が高そうなモノがいいな」
幾つかの王冠と器と女神像を手に取った。
「この辺の造詣が凝ってるものを二人で持って帰ってくれる?」
「了解しました」
「飛空艇のあるこの量を家で保管するのも難しいな、まぁしばらくここに置いておいて早めに使ってしまおう」
天使達に感謝を述べると、正太郎はテラフニエルとバルキアケルへ家に帰ることを支持し、窓口に向かった。
窓口にエリザベスが居なかったので、近くの受付嬢に声をかけた。
「すいません、車が欲しいので手配をお願いしたいです」
「車種のご指定はありますか?」
「いえ、エアコンが効けばいいです」
ドックタグを渡すと、簡単に手続きができた。
「表に車を回しておきますので、タグを提示いただけましたら、そのまま乗っていって結構です」
「ありがとう、助かったよ」
正太郎が、外に出るとすぐに車が届けられていた。
車は、いわゆるオフロードに適した、ジープのウィリスMBだった。
流石に新車では無かったが、整備はしっかりしてそうだった。
「ちょっとまて、これエアコン確実効かないだろ!屋根幌だし!ちゃんと車種とか言わないとダメだったかー」
盛大に凹んでいると、更にもう一台車が入ってきた。
小奇麗なハンヴィーだった、追加装甲や武装などはなく一見すると大きいだけの一般車両にも見える。
「おおー、これはいい。パワーもあるしエアコンも効きそうだ」
車を回してきた兵士が、降りるのを見計らってドックタグを提示した。
兵士は、携帯電話のようなスキャナーでドックタグを確認すると、引き渡してくれた。
正太郎は、そこで乗ってきたバイクを持って帰らなければならないと気が付いた。
正太郎のバイクは、排気量の小さい小型のバイクなので、荷台に無理矢理入らないか試してみた。
なんとか、荷台には入ったので、近くの兵士を捕まえてロープを融通してもらい縛ってハンヴィーに乗り込んだ。
もちろん、エアコンは全開である。
「くぅー涼しい。最近暑かったから、これは良い買い物をした」
屋敷に着いて、バイクを降ろして一息ついているとネフィーがアイスコーヒーを持ってきてくれた。
「大きい、車だね」
「うん、これなら荷物も積めるし皆で移動できるから、良いと思うんだ」
「でも、市場とかの道は狭いからこの車だと通れないね」
正太郎は、膝から崩れ落ちた。
結局、今まで通りバイク使わないとダメらしい。
「正太郎君、良い車だと思うよ。かっこいいし、やっぱり皆で移動できるのは楽しいし」
ネフィーが慌てて慰めてくれた。
「ありがとう。くよくよしてても仕方ないから、情報屋のところに行ってくるよ。テラフニエルとバルキアケル呼んできてくれる」
「うん、わかった。あんまり危ない事しないでね」
ネフィーが、屋敷に戻るとすぐに二体の天使がやって来た。
「ちょっと確認したいんだけど、透明になった天使を悪魔は見つけることは可能?」
「その悪魔の力によります。傭兵をやっているような下級悪魔には見つからないでしょうが、人間に名が知られている程度の力があれば姿は見えなくても気配を察知するでしょうし、見破ることが可能な悪魔も少なからず存在しています」
「そうか、じゃあマモンの所には連れていけないな」
「なにか心配事でも?」
「うん、ちょっと大口になりそうだから一人は不味いかなと思って、だからと言って姉さんやネフィーを連れて行けば人質を紹介しているようなもんだし」
「護衛が必要とお考えなのですね?それならばスラムの武装勢力を使ってはどうでしょう、肉壁程度にはなるでしょう」
「言い方はあれだけど、悪くないかもね。向こうも基地内に伝手ができるのは好ましいだろうし。テラフニエルとバルキアケルは少し離れた所で見張りでもしてて」
「了解しました」
「そんじゃ、行きますか。車使いたいけど、あそこ狭いから歩きかぁ」
正太郎は、スラムに向かってトボトボと歩き出した。
「テラフニエル、ナナの現在位置とか気配分からないかな?」
「大丈夫です、現在はアジトに居るようです」
「オッケー、じゃあ、ちょっと行きますか。あ、二人とも着いてきてね、情報屋へ向かうときだけ離れてくれればいいから」
正太郎は、バラックの扉をドンドンと乱暴に叩いた。
覗き窓が乱暴に開かれる。
「誰だ?」
「俺だ、ナナに繋いでくれ。正太郎が来たって伝えてくれればいいから」
「ナナさんがお前みたいなガキの相手をするわけないだろ、もうちっとマシな嘘をつけ」
「いいから、繋いでよ。あんまりぐだぐだ言うなら扉吹き飛ばして勝手に入るよ?」
「ちっ、分かったよ。そのまま待ってろ」
正太郎は、外見は少年兵でも修羅場を潜り抜けている、その殺気は本物だ。
しばらく待っていると、扉が開かれた。
髭もじゃの男が拳銃を構えながら、中へ入るように促した。
銃口向けられている正太郎は、常ならば即座に鎮圧しているが髭の殺気が殆ど無い事と交渉事が待っているから飄々と中へ入った。
中へ入ると、一番奥の真ん中にエイジが座っており、その横にナナが座り、周りを立ったままの男が囲んでいる。
「今日は、何の用?」
「ちょっと、お仕事を依頼しようかと思ってさ」
「仕事?貴方まで私達を肉壁にしたいの?」
「いやいや、まずは簡単なお仕事してもらって、使えそうなら僕の依頼を手伝ってもらおうと思ってね」
「傭兵の言うことは、信用できねー」
「エイジ、ちょっと黙ってて」
「ナナのが冷静でリーダーに向いてそうだけど、こういう組織だと戦闘力があるほうがリーダーに向いてるのかな?」
「正太郎君も、エイジを煽らないで。取りあえず仕事の内容を聞かせて」
「そうだね、これから情報屋の所へ行くから護衛として着いてきて欲しい、まぁ実際に戦闘になることは無いと思う」
「それだけ?」
「とりあえずは、それだけ。報酬は現金が良ければそれでもいいし武器食料の現物が良ければそれでもいいし。何より情報屋との伝手、欲しいでしょ?」
「そうね、喉から手が出るほど欲しいわね。報酬の割には仕事内容が簡単すぎて信用できないわ」
「そらそうだろうね。俺が君らの信用を欲しいって言ったら?」
「どういうこと?」
「この基地の依頼が大規模な作戦ばっかりでね、ソロでやるには目立ち過ぎるから人手が欲しい」
「まるで、ソロでも大丈夫な言い方ね」
「そこは、企業秘密で」
「わかったわ。エイジ、この依頼受けてみても良いと思うけど」
エイジは、なにも言わずじっと正太郎を見つめている。初対面の時の猪突猛進ぶりが嘘のようだ。
「嘘は言ってなさそうだ。ナナの好きにすればいい。坊主、護衛は何人必要だ?」
「目立つと良くないから、ナナ一人でいい。報酬は、何が良い?」
「報酬は出来れば、現物が良いな。現状何もかもが足りてない」
ふむ、と正太郎は考えた。
「弾薬と食料1か月分でどうかな?新しく銃を仕入れるのは手間だし、手に馴染んだ物の方がいいでしょ」
「十分だ、食料は保存食にしてくれ」
「分かった、弾丸は、9mm弾と7.62mm弾でいいかな?」
「契約成立だ」
正太郎は、右手を出した。
それをエイジは、取って握った。力を込めるような無粋な真似はしなかった。
正太郎は、そのままナナを伴って基地内に向かった。