未来は、まだ、分からない 3話
それから数日間、正太郎は休暇にあてた。
装備の点検や姉の義足の調節や注文にと休暇ではあったが忙しく過ごした。
そして、それらがひと段落すると基地の受付へと足を運んだ。
任務の受注については、専用の端末から受注の申し出を行い、それが運営側で適切か判断される。
「今回は、どんなのが良いかな~?」
ドックタグを差し込んでポンポンと端末のボタンを叩くと、ズラリと様々な作戦行動がリストアップされていく。
そこから、報酬価格から最低ラインを絞り込んでいく。
今回は、姉の義足を最新型への変更と母の医療費が必要であると正太郎は、普段より高めの金額設定を行う。
その中で、一つの作戦が目についた。
{敵、機甲師団の壊滅若しくは遅滞、成功報酬、壊滅であれば10000萬(1億円)、遅滞であれば5000萬}
機甲師団とは、戦車や装甲車両を中心に構成された歩兵部隊であり、最低でも6千名が相手である。
単独で行動している正太郎には、天地がひっくり返っても勝ち目のない相手である。
流石に壊滅は、無理である。
しかし、遅滞つまりは時間稼ぎであるこれであれば、ある程度の勝算はあると踏んだ。
どの程度時間稼ぎが必要であるかなど、詳細を見たかったがそれ以上は機密扱いであるらめ受注後になるとのことだった。
正太郎は、受注のボタンを押すと、審査までの期間が表示されるのを待つ。
通常であれば、作戦内容や戦績から判断するため3日を要すると表示されることが多いが珍しく即時と表示された。
これは、緊急性が高い作戦であること、準備期間が足りないことになるかもしれないことを意味していた。
急いでいつもの受付嬢レイコの元へ向かう。
基地の受付は大量の作戦行動を処理するために多く設けられており混雑しても待たされることは、ほぼない。
これは、時間経過による人的物的損失防ぐことが目的であり、戦争であることが起因している。
「レイコさん、ブリーフィングをお願い」
「分かりました。今回は敵性機甲師団の壊滅若しくは遅滞となります。衛星からの情報で敵性戦力は戦車400両、歩兵4000名が確認されています」
「壊滅はちょっと厳しいな、普通に航空戦力が必要になるよね、遅滞ってどの程度の期間?」
「概ね2週間の停止期間でこちらの展開が完了するため、2週間が最低期間となります。それ以下では報酬が支払われません」
「敵が撤退した場合は?」
「撤退ですか?」
「うん。何らかの事情で別の地域へ移動するとか単純に撤退したとき」
「その場合は、正直に申し上げて想定されていません。再出撃の危険性があるため遅滞と評価されると思われます」
「そっかー、別でボーナス出ないのかー」
「ええ、こちらの展開が開始してしまっていますので別途予算が付くことは難しいため追加報酬は無いとご理解ください」
「それから、敵の出発地点と目標地点、予想ルートを教えて」
「はい、こちらのα地点からβ地点と思われ、機甲師団であるため河川や山岳を避けたルートが算出されています。候補は幾つか挙がっていますが、既に進軍を開始しているためルートについては高確率でこのルートとされています」
「この他に情報は?」
「これ以上の情報はありません」
「分かった。行ってくる」
「ご武運を」
受付嬢の一礼を受けて、正太郎は足早に受付を後にした。
それから、今回の経費を頭の中で計算していく。
「今回の経費は仕方ないかな、2000萬もあれば何とかなるかな。あとは時間が間に合うかどうかかな」
正太郎は、基地から目的地に向かって走り出した。
正太郎がやってきたのは、基地のすぐ外にあるバラックが並ぶ地域だ。
前線基地内に住居を構えられない難民などが少しでも安全を求めて住み着いて難民キャンプがそのままスラムになってしまった。
当初に、難民保護の姿勢から容認されていたため今では巨大なスラムとなっており基地からの援助も影響も薄くなっている。
そのため、治外法権的な色合いが濃い場所も存在しており、軍部も対策を検討しているが人的物的な損失に対して得られるものがないため放置されているのが現状だ。
そんなスラムの中を正太郎は奥へ奥へと走っていく。
気だるげな娼婦も汚いホームレスも彼へ絡むことはない。
それだけ、彼がここでは常連であることと傭兵であることが理由だ。
傭兵や軍人に手を出せば、必ず鉛の弾丸や鋼の刃の報復があるため戦闘員には手を出さないことで自己防衛に努めている。
そのかわり、非戦闘員が迷い込めばどうなるか分からない。
基地内の軍人、傭兵の家族が迷いんでも助けることは不可能だ。
そんな危険な場所を彼は走り抜け、奥まった袋小路にやってきた。
正太郎は、三方を壁に囲まれている袋小路の一番奥の壁をリズミカルに叩いた。
すると、壁の一部がスライドし機械がスライドして出てきた。
その機械へ正太郎は、自分のドックタグをセットすると壁に機械をスライドして収納した。
すぐに再度機械が出てくると、正太郎は、ドックタグを回収するといつの間にか右側の壁に現れた扉へ体を滑り込ませた。
そして、元の壁に囲まれた袋小路には人の気配がなくなった。
扉を潜ると、隻眼の男がカウンターの向こう側に居た。