運命は、少しずつ動き始める 7話
翌日の早朝から、正太郎はネフィーと一緒に市場に繰り出した。
「正太郎君、すごい活気だね」
「そうだね、鮮度も味も悪くないし、冷蔵庫一杯になるくらい買おう」
「そうそう、真雪さんからパン買うの忘れないでって、明菜さんからは、お茶の葉を買ってくるようにだって」
「そういえば、パンの事完全に忘れてた。パンが潰れるといけないから最後にしよう。そこでお茶の葉も買えるだろうし」
半日かけて、二人で山盛りの食材を買った。
そして、パン屋さんに寄った。
「いらっしゃい、お使いかい?」
恰幅の良い女性が出迎えてくれた。
「うん、そんなところ。バケット3本とお茶の葉があれば良いんだけど」
「お茶の葉は色んな種類あるけど、どうするね?」
「香りが良いのを3種類くらい、多少高くてもいいけど支払いはこれでいいかな?」
正太郎は、ドックタグを取り出した。
「あら、傭兵さんだったのかい。もちろんタグでの支払いも大丈夫だよ。ちゃちゃっと選ぶから任せておくれ」
パン屋がバケットとお茶の葉を袋に入れて持たせてくれた。
「ネフィー、大丈夫?重くない?」
「大丈夫、私、力持ちだもん」
その後、何事もなく正太郎たちは屋敷に帰ってきた。
「ネフィー、母さんと一緒に冷蔵庫に入れてくれる?俺は窓口で依頼を確認だけしてくるから。ご飯はその後に食べるよ」
正太郎は、窓口にやってきた。
「こんにちわ、エリーさん」
「こんにちは、正太郎様。今日は、どうされたのですか?」
「依頼の確認をしようかなと思ってね。端末で見ても良いんだけど数が多そうだから、急がなくてお勧めとか、この基地の傾向を教えてもらおうと思って。この基地だとダメだった?」
「いえ、生存率と成功率を上げる、素晴らしい見解だと思います。さっそく、幾つかピックアップしてみますね」
ピックアップされた作戦行動を吟味していると、前線基地への攻撃など比較的大規模な作戦が多い。
諜報活動や妨害工作といった特殊作戦は殆どない。
「エリーさん、特殊作戦が殆ど無いのはなんで?」
「特殊作戦は、正規の特殊部隊が担っています。我が基地では殲滅作戦が傭兵への依頼のメインとなります」
なるほどなーと正太郎は思った。
大規模な作戦となれば、当然危険度も跳ね上がるし、報酬も十分だ。
傭兵たちが高級地区に居を構えるのも頷ける。
さて、どうしたものかと正太郎は悩んだ。
天使を投入したら、作戦の成功は可能だろう。
しかし、こちらの手の内を現状で晒すのは、余りに杜撰だと分かる。
スラムのナナ達を使う事が頭をよぎったが、余りに練度が低すぎて生存率が絶望的だ。
自分たちで、捨て駒って言うくらいだ。
そういえば、ふと、正太郎は思い出した。
機械類は、使えないから廃棄しているとナナが言っていたこと。
ゴミの山が沢山あったこと。
「エリーさん、敵の戦力が戦車メインの殲滅作戦ってある?」
「そうですね、あ、幾つかありますよ。しかし、どれも制空権が取れていないので難易度は高いです」
「そう、うん。なるほど分かった。準備ができたら、また来るね」
「はい、お待ちしております」
正太郎は、屋敷でサンドイッチを頬張りながら、テラフニエルら天使達に相談を持ち掛けた。
スラムに積まれているゴミ山から、兵器を作成することは可能か否か。
「どの世代のどの兵器を想定されているか分からないので何とも言えませんが、旧世代の兵器であれば高い確率で再現が可能です」
しかしと、テラフニエルが続けた。
「爆薬や燃料は、再現不可能なので兵器としての運用が期待できません」
期待に応えられないことを悔やんでいるのか、天使たちは俯いている。
「ああ、その辺は別で調達するからいいよ。ゴミ山から逆に可燃物が出来たら怖いよ。頼みたいのはレシプロの攻撃機を5機程度、対地ミサイルをなるべく沢山かな。これに積む燃料や弾頭は別で調達する」
「それならば、十分に可能ですがそれで良いのですか?差し出がましいとは思いますがジェット戦闘機には何秒も持たないかと」
「飛行機は、囮にするんだ。これは天使に遠隔操作か乗ってもらう。天使ならGとか関係なくどんなマニューバが可能だろう?適当に敵の飛行機をある程度引き付けてくれたら、乗り捨てて戻ってもらう。その間にミサイルを山ほど撃ち込んで敵基地を破壊する」
「分かりました。早速、天使たちを動員して作業にかかります」
「いや、燃料と弾頭の調達数で作ってもらう数も変わるから、少し待っててね。ちょっと飛空艇まで行ってくるよ。テラフニエルもバルキアケルも着いてきて」
「どうされたのです?」
「情報屋に注文出そうと思うから、財宝とか取りに行こうともって、他の天使が集めてくれてるよね?他の天使とあんまり面識もないし着いてきて欲しい」
「そうですね、了解しました」
正太郎は、バイクを走らせ飛空艇へ向かった。
「荷物、詰めるように走破性の高い車を買おうかな。エアコンもあるし」
「荷物は、私たちが持つので大丈夫ですよ」
隣を並んで飛んでいるテラフニエルが応えた。
「いやー、流石に天使を荷物持ちに使うって、人間として正直どうよ?とか、少し思う」
「私達は、気にしていませんよ」
正太郎は、それに答えずバイクを走らせる。